発見!今週のキラリ☆

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2012年2月 アーカイブ

vol.128 「心を決める」 by 浅川奈美


2月のテーマ:ハート

どんな極限状態であろうとも、腹を決めた人は強い。明確なゴールのイメージを持つものは、いかに困難な状況にあろうとも、次の一歩を出すことができる。

1952年7月4日の早朝。フローレンス・チャドウィック(Florence May Chadwic)、34歳。彼女は、アメリカLA沖にあるカタリナ島からカリフォルニア州沿岸を目指し泳いでいた。氷水のように冷たい水。伴走するボートすら見えないほどあたり一面に広がる深い霧。サメの生息地でもある海域。それでもフローレンスは泳ぎ続けた。1スクロール、1スクロール、わずかだが確実に進んでいた。スタートしてから15時間近くが経過。限界はもうすでに彼女の目の前にやってきていた。伴走するボートからトレーナーと母親は繰り返し声をかけ続ける。

「あきらめるな!」
「対岸までもうすぐだ」

彼女の戦う姿はテレビ中継され、何百万人もの人々が見守っていた。
当時、既にイギリス海峡を両岸から泳ぎきった世界で最初の女性としての記録をもっていたフローレンス。一度やり始めたことを途中であきらめることはなかった。
今回も、必ず......。

しかし、岸に着くことなく、彼女はボートに引き上げられた。無念の途中リタイア。深い霧の先にあるゴールまで、残りわずか1キロあまりであったことをボートの上で知ったのだった。数時間後、記者会見で彼女はこう語った。

「言いわけするつもりはありませんが、
対岸が見えてさえいたら、泳ぎきることができたかもしれません」


2ヵ月後。フローレンスは再びチャレンジする。前回と同じように立ち込める深い霧。凍てつくような海水。ひとつ大きく違っていたもの。それは、目で捉えることができずとも、ゴールのある対岸のイメージを明確に頭の中に描き続けたこと。霧の向こうに必ず岸がある。そう信じ続けた。
結果はいうまでもない。フローレンス・チャドウィックはカタリナ海峡を泳いで渡った世界初の女性となった。そしてその記録は当時男性が持つものを2時間も縮めたものだったという。

自分が今どこに向かっているのか、分からなくなることがある。
さらに目標が立派過ぎると、それはあまりにも遠くて大きくて、いくら頑張ってもちっとも近づかない気がしてしまうこともある。今進んでいる道の先にはゴールはあるのかどうか...。

大きな目標であればあるほど、達成するまでの課題は山積みとなる。
言うまでもない。まずは明確な目標、ゴールのイメージをいかに持ち続けていくかが大切だ。そして自分の今の能力、筋力を分析し見極める。弱点や克服すべきところ一つ一つを明確にゴールと定め、攻略していくこと。今自分がどこに立っているのか、今いる道はどのゴールに向かっているのか。このゴールの先の、次のゴールはどこに設定するのか。

一見、遠回りなようで実は一番の近道のような気がする。
失敗すらも、自己分析の要素だ。
腹さえ決まっていれば。何度だってチャレンジしていけばいいのだ。

vol.129 「つかの間探偵団」 by 藤田奈緒


2月のテーマ:ハート

その夜、少し早めに仕事を切り上げた奈緒さんは、JR神田駅近くのバーへ急いで向かっていました。半年ぶりにアメリカのロサンゼルスから帰国した妹が、兄と先にお店で待っているのです。3人で集まって食事をするのは本当に久々のことでしたから、奈緒さんの心は浮き立っていました。何ヵ月も前から心待ちにしていた夜です。

数時間後、すっかり夜も更けた頃、兄と妹と別れた奈緒さんは、楽しい余韻に浸りながらタクシーに乗っていました。少しお酒も入っていたので知らない間に眠ってしまいます。ふと気づくと家の近所に差し掛かっていたので、慌てて運転手さんにお金を払い車から飛び降りました。家の中に入り鞄の中を見たところで、奈緒さんは顔面蒼白になります。お店では確かに手にした覚えのあるiPhoneが、どこにも見当たらないのです。

一瞬パニックになりはしたものの、私は状況を少し甘く見ていた。というのも携帯をiPhoneに変えて以来、お恥ずかしながら既に2回なくしていて、でもその2回ともすぐに手元に戻ってきたからだ。今回もきっとお店かタクシーの中に違いないと電話をかけたところ、両方ともありませんとの回答。あれ、これはいつもみたいに簡単にはいかない予感...。一気に酔いが吹っ飛んだ。

きっと誰か親切な人が拾ってくれたんだろう。もしかしたら電話に出てくれるかもしれない。しかし何度かけても反応はない。しまった、ミュート&バイブなしの設定にしてたんだった。あああ、何でそんなことしたんだろ。

早くもお手上げかと諦めそうになったその時、私は「iPhoneを探す」という便利アプリがあることを思い出した。なんでもGPS機能を使ってiPhoneの現在地を探し出せるらしい。そういえば数日前に、同じようにアプリで携帯が手元に戻った人の記事を新聞で読んだ気がする。待ってても見つからないんだから、一か八か私もやってみるしかない。

というわけで私はパソコンを立ち上げ、初めて「iPhoneを探す」にログインしてみた。するとすぐに地図上に私のiPhoneは銀座3丁目あたりにあると表示された。私は神田にいたわけだから、やっぱり誰かが拾ってくれたのかなと思いながら、再度現在地を確認するとさっきと違う場所が出た。あれ? おかしいな。もう一度見てみる。するとまた違う場所が表示された。

どうやら私のiPhoneは銀座から神田方面に向けて、ぐんぐんと移動しているようだった。このスピードは絶対、人間の歩くスピードじゃない。やっぱりタクシーに乗ってるとしか思えない。さらに動きを見ていると、日本橋に差し掛かったところでぱたりと表示されなくなってしまった。電話をかけたりし続けたせいか、iPhoneの電池が切れてしまったのだ。

今ならまだ間に合うかもしれない! 私はすぐさま、タクシー会社に電話をかけた。電話に出た親切なおじさんに、私の乗っていたタクシーがその時間帯に銀座から日本橋に向けて走行していたかどうか確認してほしいと伝える。きっとこれでもう見つかるはず。期待に胸をワクワクさせながら待っていると、電話口に戻ったおじさんは言った。「困りましたねえ、今夜は銀座は走ってないらしいんですよ」 えええええ... 脱力。

私の探偵ごっこは無念の結果に終わった。勘の冴えわたった名探偵のような気分で舞い上がっていたのに大ショックだ。少年探偵団の小林少年が横にいなかったのが残念でならない。

これが2012年、年明け早々、私の心(ハート)を大きくかき乱した一大事件の顛末です。