発見!今週のキラリ☆

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2013年1月 アーカイブ

vol.151 「左指のポテンシャル」 by 浅川奈美


1月のテーマ:初○○

うちにアコースティックギターが2本ある。
2本とも私のだが、コードがさっぱり思い出せない。小さいころ9年間ほど習っていたピアノはいまだに弾けるが、ギターはてんでだめだ。2013年1月。今年は何年ぶりかにこのギターケースを開けてみようかなと思っている。

アコースティックギターが弾けるのって、しかも弾き語りってかっこいいよなぁとずっと思っていた。そのうちに、クラッシックギター界でのちにカリスマとなる村治佳織が、なんだかものすごいテクニックをひっさげて出てくるようになると、さらにあこがれは強くなった。
ただ、このギターという楽器はかなりの曲者。バイオリンだとか木管楽器とか同様、「初心者には冷たいシリーズ」の一つだ。ピアノならとりあえず音は出る。熟練度やテクニックで音色の違いこそはあるものの、鍵盤を押せば、誰でも同じ音程の音がでる。でもギターはどうだ?あの弦を抑えるというそもそもの動作に、すでに高度な技術を要する。抑えがあまいと弦が、ブ、ブルルンとか震えちゃってまるで嘲笑っているかのような音を発する。
さらに。
「やっぱみんなFで挫折するよねー」となんと全国共通の挫折ポイントが明確になっている。そんな鬼門があるのか!それなら、「基礎から地道に習い、Fだってマスターしたよ」という実直コースではなく、「楽しく一曲弾いてみてさ。そして楽しかったら続けるよ」と、とりあえず雰囲気重視でやる気スイッチを入れるコースを選択。浅はかな思いだけで特訓した。曲目はGeorge Michael のFaith。ジャ、ジャ、ジャ、ジャカジャカジャカ、ジャ、ジャ、ジャ ~~♪(出だしコードはCだったよby庸司ディレクター)。リズム感には自信がある。左手が正しくコードをおさえられればあこがれの弾き語りも夢じゃない。だが、そう簡単にはいかない。指から血が出そうになった。いや、出ていた。細い弦から太い弦まで左指の腹は常に限界とチャレンジだ。これは左手界の「ツイスター」か!こんな痛い思いをしないと音が出ないのか?大正琴のような思いやりはないものか?しかもほぼ、使うたびにチューニングなるものをしないとだめで、何から何までこう、素人お断り感満載。"曲を奏でている"レベルまで、はるか長い道のりだった。が、頑張った。今でいうイモトばりに頑張った。そして、なんとかかんとか、かろうじてFaithを一曲、弾けるようになった。

それが...だ。あんなに必死になったのに...だ。それ以来、ギターをまともに触っていない。特訓の時もらった友達のお古と、誰かが引っ越しか何かの機会に「捨てるならもらうよ」みたいな理由でいつの間にかうちに転がり込んできたもう一本。もともとギター様に対する誠実さが欠けていただけに、マイブームの終焉とともに継続と向上心の火はいとも簡単に消えた。そして私のギターたちはロフトとクローゼットの中に一本ずつ、永い永い眠りについた。あこがれだけが心のどっかに残り続けた。

先日、友人に誘われ中東音楽のライブにいった。途中、だれでも自由に参加していいよタイムがあって、ダラブッカとかトンバクとかの打楽器を持った人々が勝手にステージの方に集まっていって、即興でわーーっと演奏しだした。ベリーダンサーまで加わり、それはそれはの大騒ぎで、実に楽しそうだった。
『扉をたたく人』といういアメリカ映画をご存じだろうか。2009年の難民映画祭でも上映された素晴らしい作品だ。N.Yのセントラル・パークでジャンベ(アフリカン・ドラム)をみんなで弾くシーンがある。この人が何の仕事しているのかとか、あの人はどこの国からやって来たとか関係なく人がつながっていく瞬間。音と音が織りなすコミュニケーションに心が震えた。音楽は確実に世界をつなぐな。。。そういうのを目の当たりにすると、やっぱね。楽器弾けるようになりたいな。って思ったのだ。

もう一度、ギターに「はじめまして」をしようか。そうしたら今度はちゃんと誠実な態度で接します。
えっと、左指の腹にバンドエイトとか巻いて弾いてもいいですか?

YUIの活動休止もきっかけの一つだったりもする。