映像翻訳|海外のテレビ番組や映画の映像翻訳を仕事にするための学校です。多くの修了生、受講生がドラマ、アニメーション、ドキュメンタリー番組など多方面で活躍しています。



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Vol.4
映画コラム@「えびボクサー」
ハリボテのすき間からのぞく リアルな人間模様

by 潮地愛子

 「前代未聞!池袋であまりにもな えび反響で劇場大パニック!」
そんな宣伝文句が気になって、立ち見を覚悟で初日に足を運ぶ。
やられた。いい意味で…。
 タイトルにもなっている巨大えび(ほんとはシャコだ)「ミスター・C」の見事なまでのハリボテ。その‘ローテク’さ加減にまず脱力する。ハリウッドでは「マトリックス2」が製作されている時代なのに、リアルさのかけらも見当たらないのだ。
でも一方で、登場人物たちの心象がとてもリアルに描かれている。「今の自分の在り方に実は満足していない。きっかけがあったら変わりたい」といつも迷っている人々。でも、どうしたいのかも、どうしたらいいのかもはっきりとはわからないまま、日々は過ぎていく…。そんな、誰にでも覚えのある感覚だ。
 巨大えびの安っぽいフィクション性と、人間のリアルな日常。そのコントラストがこの映画の魅力になっている。「あり得ねェ、でも、まじリアル」みたいな…。えびにボクシングをさせるなんて、バカバカしい。でも、そんなおバカなことに真剣にのめり込んでいく主人公・ビルたちには、共感を禁じえない。「他人にとってはバカバカしいことでも、自分にとっては大切」。そんなことって、誰にでもあるはずだ。それに、よーく考えれば、この世界なんてバカバカしい現実に満ち溢れている、と言えなくもない。
ミスター・Cは、そんなほろ苦い現実の象徴なのだ。だからこそ、思いっきり笑い飛ばしてすっきりしたい。     
どんな映画も芝居も、それが演じられるものである限りフィクションである。だから、リアリティというスパイスで観客の共感を得ようとする。でも、それを大真面目に表現するだけでは、いい作品にはならない。リアリティをかっこよく追求しようとするあまりに、どんどんリアリティを失っていく作品を何本も観てきた。この作品がそんな落とし穴にハマらないのは、ミスター・Cのビミョーな存在感に因るところが大きい。
 ある映画紹介記事が、この映画を‘チャーミングな映画’と称していたが、上手い表現だと思う。最後の方ではお下劣なダメ男のビルまでもがキュートに見えてくる。
「騙されてあげましょう」、それくらいの気持ちで観に行ったのに、ハッピーな気分で劇場を出た。道端で100円を見つけてラッキーな気分になれる人なら、この映画はさらにお勧めである。
 ちなみに、ビル役のケヴィン・マクナリーは、大作「パイレーツ・オブ・カリビアン」にも出演している。ミスター・ビーンと喋るローワン・アトキンソンに匹敵する彼のギャップも楽しんでほしい。私の中では今、ケヴィン・マクナリーがちょっと熱い。
結論。「えびボクサー」はシナリオもよくできているし、結構、奥が深い。
2回観た私が言うんだから、間違いない。


潮地 愛子

日本映像翻訳アカデミー 翻訳センター スタッフ。

日本映像翻訳アカデミー
2002年10月期・実践コース修了生