海から昇る朝日を見たことがあるだろうか。
九州の旅の終点、鹿児島市。宿泊に選んだのは錦江湾を臨む「鹿児島東急ホテル」だ。ここではベッドに寝転んだまま、美しい朝焼けを見ることができる。空と海が赤紫色に染まり始めてから朝日が顔を出すまではおよそ30分。その至福のひとときを体験できただけでも「室料お一人様7,500円(税別)」の価値は十分にあると感じた。早起きついでに、朝一番で桜島まで足を延ばすことにした。桜島へは鹿児島からフェリーで15分。この渡航費もたったの150円(税込)! 今も噴煙を上げ、1日に7回、自らの色を変えるといわれる桜島。その雄姿が少しずつ迫ってくる情景は圧巻の一言だ。
錦江湾の魅力は、「どこか懐かしい美しさ」。映画「ザ・ビーチ」の舞台となったタイのピピ島や、イタリアのカプリ島で見たようなエメラルド・グリーンの海ではない。どちらかといえば紺から深緑に近い水が、白い波しぶきをあげている。日本の海の色だ。すべてを包み込んでくれる懐の深いやさしさがある。
桜島の海辺には公園があって、遠足に来たらしい幼稚園児が、きゃっきゃっと駆け回っている。海の香りと平和な空気が満ちてきて、なぜかまた涙が溢れてきた。(vol.7「長崎ハウステンボス編」を参照。そこですでに1回泣いてます)
「あー、よかった。美しいものを見て涙を流せるピュアな心がまだ残ってたんだ」なんて、ちょっと安心した。
と同時にまた、頭の中に忘れようとしていた記憶が甦る・・・。
そうだよ。そもそもこうやって、一緒にきれいなものを見て「きれいだ」と感じたり、不安な時に「大丈夫だよ」って言って欲しかっただけなのに。私には一体何が欠けていたんだろう?フツーの幸せじゃ物足りなくて、いろいろなことから逃げ出したくせに、いざ理想の人に出会ったと思ったら、今度はその夢が終わるのが怖くて怯えて過ごした。「この幸せはしょせん夢なんだ」と繰り返し自分に言い聞かせているうちに、嫌なことが起きても我慢してやり過ごすようになってた。
幸せのはずなのに怖くて、我慢して・・・。そして気づいたら、本当の自分がどこにいるのかわからなくなっていた。夢が悪夢に変わるのなんて、あっという間だと知った。
「こんな自分が、あんな風な子供たちとワイワイすごせる日が来るのだろうか…」なんて考えてしまう。するとまた涙が・・・。
もう自分がなんで泣いているのかもわからないよ・・・。
とにかく旅を続けよう。旅の締め括りは展望台にある売店の「名物ミカンソフト(みかん味のソフトクリーム)」と決めていたんだった。
ずいぶん遠いなあと思ったら、どうやら道を間違えたらしい。溶岩の散らばる岩場が現れた。
「そういえば桜島って火山なんだよね」
「噴火したらどうする!?」
「こんなにきれいなものが見られたんだし、ここで果てるのも本望じゃない?」
今回の旅をともにする友人(女性)の思考回路は私と同じだ。何においても同時に声をあげ、同じようなことで悩み、同じ失敗をする。ある時、「こんな二人で知恵を合わせても意味ないよ。私たちの人生には監査役が必要だよね」という話になったことがある。さっそく勤務先の上司である副本部長に打診してみた。この副本部長、頭が薄くて、小さくて、でもとっても温かくて、ちょっとヨーダに似ている。私たち的には、「生まれ変わりたい人ナンバーワン」ということになっている。
「私には荷が重過ぎます」
と断られた。
そうこうしているうちに、やっと目的の展望台に到着。本当は徒歩1キロで済むところを、私たちは円を描くように4キロも歩いて来たようだ。どうりで遠いわけだよ。でも、一生懸命歩いて汗をかいた分、ミカンソフトの味はそれはもう格別だった。
私は人より不器用なのかもしれない。でも、遠回りが損だとは限らない。だってこんなに美味しいご褒美が待っていることもあるんだから。
泣き疲れて旅に出たはずが、結局また泣いてばかりいた。でも九州の旅には、悲しい涙を温かい涙に変えてくれる‘魔法の仕掛け’がいっぱいあった。道に迷って遠回りすることって、これからもたくさんあると思う。でも、遠回りしたからこそ見ることができる景色や、出会うことのできる人がいるんだと気がついた。
自分のやり方に、少しだけ自信が持てた。
私達が大好きな映画やテレビ、本や音楽にも、そして毎日出会う人と交わすちょっとした会話の中にも、魔法はいっぱい仕掛けられている。その入り口は見えていないことが多いけれど、あきらめずに歩き続ければ目の前に現れるのだ。ちょっと寄り道したり、時には遠回りすることも無駄じゃない。入り口を見つけたら素直に魔法にかかってしまおう。そしてまた、一歩ずつ前に進んでいけるといいよね。
九州編はこれにて終了です。ご愛読ありがとうございました。
|