ジャック・ブラック主演の「スクール・オブ・ロック」は、“劇場で思わず拍手を贈ってしまうコメディ映画”として評判を呼んでいる。実は私も劇場の見知らぬ人々と一緒にヤマ場のシーンでは思わず手を叩いてしまったひとり。「東京ウォーカー」誌による映画情報サイト「MovieWalker」では、封切一ヶ月後の現在、“見てよかった”ランキング堂々の第1位。84%もの人が最高評価をつけている。
これは、日本ではこれまで日の目を見ることがなかった類いのコメディ映画に、世の注目が集まる前触れではないだろうか。
単なる一過性のブームとしてではなく、コメディ映画が末永く人気を得るには、「コメディって楽しい!」と自然に思えるような感性を、子供の頃から育てることが不可欠だろう。「スクール・オブ・ロック」は小学生がロック・バンドを結成して活躍することもあり、子どもたちが鑑賞するのにうってつけなのに、あいにく劇場用の吹き替え版が製作されていない。ジャック・ブラックの自由奔放なセリフ回しが笑える映画なので、吹き替え版では魅力が薄れると配給側が判断したのかもしれない。なにしろ、フツーにしゃべっている途中にいきなりロックギターを鳴らしてシャウトしたりするのだ。声優にも翻訳にも、超絶的技巧が必要だということは想像に難くない。
そう考えているうちに、Mr.ビーンで名を売ったローワン・アトキンソンが主演の「ジョニー・イングリッシュ」を思い出した。私は昨年の公開時に吹き替え版を選んで観たのだ。その時、大人はもちろん、低学年の子供たちも大笑いしていたのである。そんな光景を目の当たりにした私には、「スクール・オブ・ロック」でも、それなりの吹き替え版を作れば子供たちから大爆笑を取れるという確信がある。ぜひチャレンジしてほしかった。
「ジョニー・イングリッシュ」の吹き替えは、まさにチャレンジだったと思う。
主役の声はお笑い芸人、‘グッさん’ことDon Doko Donの山口智充。人気タレントが慣れない吹き替えに起用されて不評を買うことはよくある。山口の場合も、序盤は慣れない吹き替えの仕事に戸惑ったのか、不安感が声に現れているように思えた。しかし、徐々にノリがよくなって、クライマックスでは絶好調、見事に観客を笑い渦に巻き込んだのだ。
成功の理由の一つは、オリジナルのセリフとは全然関係ない山口の持ちネタを随所に盛り込んだことであろう。矢沢永吉の声マネで、しっかりと笑いのツボを突いてくる。
オリジナルとは関係ない‘ネタ’を日本語のセリフにすることを、嫌ったり、批判する人は多い。でも、このチャレンジは正解だ。個々のセリフ訳の忠実性よりも、映画全体のバカバカしい雰囲気がよく伝わってくるのだ。字幕では、オリジナルのセリフが聴こえるということもあり、元のセリフと字幕とのギャップを察して興ざめする人も多い。しかし吹き替え(リップシンク)は、オリジナルの音に邪魔されることがなく日本語のセリフに集中できる。作品によっては、「吹き替えの日本語がオリジナルから遠ざかるほど、作品の持つ本質に近づいていく」ものもあるだろう。コメディ映画では特にその法則が当てはまる確率が高いと思う。
現在「ジョニー・イングリッシュ」はDVD版でレンタル、購入が可能だ。ぜひ、字幕版と吹き替え版を見比べてほしい。オリジナルのセリフからの‘かけ離れ度’と、その‘成果(お笑い度数!?)’を比べるのも楽しいだろう。
子供でも楽しめる吹き替え版の製作に果敢に挑戦する人が増えれば、おそらく数年後には“ドーン・オブ・ザ・コメディ(コメディ時代の夜明け)‘がやって来る。日本映像翻訳アカデミーの才能溢れる皆さん、ぜひコメディの吹き替え版に興味を持って下さい!! |