Decision 2000(大統領選挙)まであと2週間。副大統領アル・ゴアとテキサス州知事ジョージ・ブッシュの3度に渡る公開ディベートも終わり、アメリカの政治ショーも最高潮だ。特別に興味がある訳ではないので、実際のところ双方の主張や政策云々は良く分からないが、エッセンスを掴むには「Saturday
Night Live」がいい。おかげで「底意地の悪いゴア」vs「頭の悪いブッシュ」という構図が良く理解できた(この番組は決して下らないだけで25年以上も続いているのではない)。しかしアメリカ国民が実際に望んでいるのは、今こちらで大人気のTVドラマ「The
West Wing」のマーティン・シーンのような大統領なのだろう。率直で豪胆ながら思いやりもあり、何より器の大きさが感じられるこの大統領役は、彼の一世一代の当たり役となっている。
さて、映画の方は毎週複数の話題作がリリースされて、追いつくのが大変。今回はまとめて9本の紹介だ。
1. 「Big Momma's House」
B−
(出演: マーティン・ローレンス、ニア・ロング)
少し前に公開された作品で、変装名人の刑事(マーティン・ローレンス)が、麻薬代金の隠し場所を割り出すために容疑者(ニア・ロング)の母親になりすますという信じられないコメディ。その母親というのが小錦並みの巨漢で、ローレンスの特殊メイクがこの映画のウリだ。ローレンスはロングに恋をするが、母親に対する愛情しか返ってこないのがおかしい。以前「Blue
Streak」でも書いた通り、ローレンスはなかなかの芸達者で、それなりに笑わせる。だが本作はあえてお金を出して観るほどのものではないでしょう。
(オフィシャルサイト: http://www.bigmommashousemovie.com/)
2. 「Almost Famous」 B+
(出演: フランセス・マクドーマンド、ケイト・ハドスン、パトリック・フュージット)
「ザ・エージェント」のキャメロン・クロウが監督、脚本を手懸けたみずみずしい自
的青春映画。舞台は1973年。15才ながらローリング・ストーン誌に記事を書くことになったウィリアム(パトリック・フュージット)は、取材の為に人気ロックバンド「Stillwater」のコンサートツアーに同行する。そこで彼が知る友情、恋愛、初めて垣間見る大人の世界がヴィヴィッドに語られる。地味な配役、これといって盛り上がりのないストーリーながら、誰もが15才の自分に戻ったような錯覚と恥ずかしさを覚える不思議な魅力があり、映画が終わってもしばらく席を立ちたくなくなる。ウィリアムが恋に落ちるグルーピーのペニー・レインに、ゴールディ・ホーンの娘ケイト・ハドスン(大変キュートです)。ウィリアムの母親を演じるフランセス・マクドーマンドの演技力が作品全体を支えている。
ショー・ビジネスが美化されている点が多少気になるが、心に残る作品で当時のロックンロールの名曲も満載だ。
(オフィシャルサイト: http://www.almost-famous.com/)
3. 「Meet the Parents」 A-
(出演: ロバート・デ・ニーロ、ベン・スティラー、テリー・ポロ)
これは場内大爆笑の傑作コメディ。憧れの女性(テリー・ポロ)と婚約した看護士のベン・スティラーは、彼女の両親宅を訪問する。ロバート・デ・ニーロ扮する父親に気に入られようとスティラーは一生懸命だが、何をしても裏目に出る。娘を猫可愛がりのデ・ニーロはスティラーが気に入らず、彼の言動全てを疑い徹底的な調査をするのだ。何とデ・ニーロは30年以上CIAへ勤めていたベテランで、「人間嘘発見器」の異名を持つ男だった!
デ・ニーロは表情の1つ1つがおかしく、大真面目に演技をするほど笑いを誘う。やはりこの人天才だ。一方「メリーに首ったけ」、「Keeping
the Faith」と目下絶好調のベン・スティラーは、得意の「ちょっと頼りない良い人」ぶりを発揮する。もともとスティラーの役はジム・キャリーが演るはずだったが、スティラーに替わったために脚本が全面的に書き直されたとのこと。結果的には大成功だ(ジム・キャリーvsデ・ニーロはこれはこれで見てみたいが)。
「Meet the Parents」はこれまでのところ、今年最もおかしく、最も成功したコメディだ。
(オフィシャルサイト: http://www.universalpictures.com/meettheparents)
4. 「Remember the Titans」 A-
(出演: デンゼル・ワシントン、ウィル・パットン)
ヴァージニア州で70年代に起こった実話をベースにした感動作。白人だけの高校と黒人だけの高校が統合されることになり、そこで生じる生徒、教師、父兄をめぐる人種問題が、フットボールチームのメンバーを中心にしてどのように克服されて行ったかが力強く語られる。
黒人側の不満解消のために、統合されたフットボールチーム「Titans」のヘッドコーチに就任するのがブーン(デンゼル・ワシントン)。一方ヨースト(ウィル・パットン)は殿堂入り確実の元白人側コーチ。彼は自分がヘッドコーチに選ばれなかったのが不満だが、白人チームのボイコットを防ぐためにブーンからオファーされた補佐役を渋々引き受ける。ブーンは白人と黒人をペアにして、軍隊なみの厳しさで徹底的に彼等を鍛え上げ、双方の憎悪を自分に向けさせる。このあたりのデンゼル・ワシントンのカリスマ性のある演技は圧巻で、彼が現在俳優としてのピークにいることが分かる。だがこの作品においては、チームが一体になるにつれて、コーチとしても人間としても成長して行くヨーストを演じるウィル・パットンが最高だ(この人は「アルマゲドン」で妻子に逃げられた油田堀りの1人を演じた頃から頭角を現わして来た)。その結果本作は単なるデンゼル・ワシントンのワンマンムービーに終わらず、白人と黒人双方の立場が実話の持つ説得力を持って迫ってくる。そして2人の辣腕コーチに率いられた「Titans」がリーグ戦を勝ち進むにつれて、初めて人々も学校も1つにまとまっていく。
フットボールシーンは臨場感があるし、各プレイヤーの性格づけも上手い。高い社会性と娯楽性、これを支える優れた俳優陣。改めてアメリカ映画の底力を感じさせられる一作だ。
(オフィシャルサイト:http://disney.go.com/disneypictures/rememberthetitans)
5. 「Get Carter」 D+
(出演: シルベスター・スタローン、ミランダ・リチャードスン、マイケル・ケイン)
シルベスター・スタローンの最新作は、彼の駄作の中でも「ジャッジ・ドレッド」と競うくらいの出来の悪さで救いようがない。マイケル・ケインが出ているのは本作が70年の同名映画のリメークで、彼がその主演だったから(それ以外出るべき理由が見当たらない)。取り立て屋のジャック・カーター(スタローン)が、急死した弟の死の真相を求めて暗黒街の黒幕にたどり着くまでを描く一種のハードボイルドなのだが、スタローンは絵にならない。行き当たりばったりの調査はテンポが遅い上に退屈なセリフの連続で、睡眠不足だったこともあって珍しく寝てしまったぞ。そのくせ突然ストップモーションやコマ落としなど、全く意図不明の撮影テクが使われ閉口させられる。確かにスタローンも年齢的に派手なアクションは無理で新路線を狙ったのだろうが、ちょっとひどすぎる出来だ。これならいっそロッキーかランボーを主人公にしたタフな老人の隠居生活でも撮った方が受けるだろう。スタローンは嫌いではないし、ノンアクションの「デイライト」は割と好きだっただけに、残念だ。
(オフィシャルサイト: http://www.getcartermovie.com/)
6. 「Dr. T & the Women」
B-
(出演: リチャード・ギア、ヘレン・ハント、ケイト・ハドスン、ファラ・フォーセット)
これは「MASH」、「ザ・プレイヤー」のロバート・アルトマン監督作品なので、リチャード・ギアとヘレン・ハントの美しい恋愛ものと勘違いして観に行くと足元をすくわれる。「Dr.
T」と呼ばれる金持ち婦人科医トラヴィス(リチャード・ギア)は、本当はハンティングが好きなテキサン。家庭、職場と常にあらゆる種類の女性に囲まれ、周りの男を羨ましがらせる。しかし頭のネジが緩んでしまった妻(ファラ・フォーセット)、レズビアンの娘(ケイト・ハドスン)、彼の気を引こうと次から次へ押しかける患者達と、実際のDr.
Tはちっとも幸せではない。このあたりの皮肉なタッチはアルトマンならではだ。そのDr. Tの前に現われるクールなプロゴルファー、ブリーを演じるのがヘレン・ハントで、大変魅力的だ。
このキャスト、この役回りでブラック・コメディというのは機能しているとは言い難く、いかにも勿体無い。他の監督で普通のロマンティック・コメディにして欲しかったと思うのは、余りにも俗的か。尚、ヘレン・ハントは昨年人気TVコメディ「Mad
About You」が終了したせいもあってエンジン全開。後述する「Pay It Forward」ではケビン・スペイシーと、「What
Women Want」ではメル・ギブソンと、更に「Castaway」ではトム・ハンクスと共演しており、全てが今年中に公開される。
(オフィシャルサイト: http://www.drtandthewomen.com/)
7. 「The Contender」 A-
(出演: ジョーン・アレン、ジェフ・ブリッジス、ゲイリー・オールドマン、サム・エリオット、クリスチャン・スレーター)
今年のアカデミー賞に絡んできそうな必見の政治スリラー。民主党出の合衆国大統領エバンス(ジェフ・ブリッジス)は、急死した副大統領の後任としてレニー・ハンソン(ジョーン・アレン)を指名する。ハンソンは史上初の女性副大統領になるはずであったが、共和党の超保守的な下院議員ラニヤン(ゲイリー・オールドマン)に学生時代のセックス・スキャンダルをすっぱ抜かれ、抜き差しならない状態に陥る。辞任するか逆襲に転じるか、ホワイトハウスは苦脳する。「彼女がもし男だったら、学生時代の女遊びなど話題にもならなかっただろう」と噂話をする取り巻きたちを尻目に、大統領が選んだ道は徹底抗戦だった。一風変わっているがタフで一本筋の通った大統領を演じるジェフ・ブリッジス、その右腕のサム・エリオット(渋い)、ハンソンを演じるジョアン・アレン、若き下院議員のクリスチャン・スレーターと、第一級演技のオンパレードだ。だがしかし、本作のハイライトはゲイリー・オールドマンだ。禿頭で分厚い眼鏡をかけたこの名優は全く別人としか思えず、老獪にじわじわとハンソンを追い詰めていくラニヤンの姿には背筋が冷たくなる(オールドマンは本作の製作総指揮も兼ねていて、気合い入りまくり)。掛け値なしのオスカー演技が見られるのだ。
ハリウッド流に料理された政治ショーとはいえ、「The Contender」には観る者に訴える健全な正義感があり、これが超一流の俳優陣の演技とあいまって、最後まで息をつかせない。大統領の最後のスピーチも感動的だ。
(オフィシャルサイト: http://www.thecontender-thefilm.com/)
8. 「Bedazzled」 B
(出演: ブレンダン・フレイザー、エリザベス・ハーレイ、フランセス・オコーナー)
前作「アナライズ・ミー」が大ヒットしたハロルド・ライミス監督作。オリジナルはスタンリー・ドーネン監督、ダドリー・ムーア主演の67年の同名映画だそうだが、記憶にない。ダサくて鈍くて全く女の子にもてないエリオット(ブレンダン・フレイザー)は、憧れのアリスン(フランセス・オコーナー)にも相手にしてもらえない。そこに突然現われた超グラマーな魔女(エリザベス・ハーレイ)から、魂と引き換えに7つの希望をかなえてもらうことに。エリオットの最初の希望は「金持ちで権力もあって、アリスンと結婚している男になる」こと。魔女はその希望を忠実にかなえてやるが、エリオットの「言わなかったこと」を利用して彼を不幸のどん底に突き落とす。基本的にはこのパターンの繰り返しで、各エピソードのオチの面白さがこの映画の生命線だ。「ジャングル・ジョージ」や「ハムナプトラ」のブレンダン・フレイザーの変身ぶりは相当おかしくて、ひょっとしたらこの人大コメディアンになってしまうかもしれない。一方「オースティン・パワーズ」のエリザベス・ハーレイはエステローダのモデルとしては魅力的だが、女優としてはもう一歩。デートムービーとして、あるいは頭を空っぽにして楽しむには最適な作品。
(オフィシャルサイト: http://www.bedazzledmovie.com/)
9. 「Pay It Forward」 B
(出演: ケビン・スペイシー、ヘレン・ハント、ヘイリー・ジョエル・オスメント、ジェイ・モア)
アカデミー賞ウィナー(ケビン・スペイシー、ヘレン・ハント)と昨年のノミニー(「The Sixth Sense」のヘイリー・ジョエル・オスメント)の豪華共演による期待作は、評価が分かれるところだろうがあえて失敗作と言いたい。
ラスベガスでトップレスバーのウェイトレスをするアル中の母親がヘレン・ハント、その頭脳明晰な息子がヘイリー・ジョエル・オスメント。そして顔にひどい火傷の跡がある謎の教師にケビン・スペイシー。オスメントはスペイシーから与えられた授業の課題「世界をより良くするために何をすべきか」の回答として、「Pay
It Forward」(「小さな善行運動」とでも訳せばいいのか)を実行する。物語は母親、息子、教師の3人の人間関係を縦糸に、「Pay
It Forward」がラスベガスからロサンゼルスに広がっていく様子を横糸に、静かに語られる。で、何故この面白そうな映画が今一つかと言うと、設定、演技、演出全てが「やり過ぎ」なのだ。「感動」の押し売りをされているようで、ちょっと落ち着かない気分にさせられる。特にオスメントは達者過ぎて鼻につく。更に結末は最悪だ。原作通りなのだろうが、「何でこうなるのだ」と言いたくなる。監督のミミ・レダーは「ER」で認められて「ピースメーカー」、「ディープ・インパクト」、本作と大作・話題作を続けて任されたが、バランス感覚に欠けるきらいがある。そしてどの作品も65点なのだ。
「Pay It Forward」は観る価値はあるが、それ以上でもそれ以下でもない。
(オフィシャルサイト: http://www.payitforward.com/)
最近ショックだったのは最も敬愛する作家ディック・フランシスの絶筆宣言。去る9月30日に奥さんのメアリーが亡くなり、「もう手紙以外は書けそうもない」とコメント。元々メアリーが取材全般や内容のアドバイスを行っていて、作品のかなりの部分を彼女に頼っていたことは、昔からフランシス本人が認めていた。学生時代からずっとファンで、「大穴」、「度胸」、「奪回」、「利腕」などの傑作を通じて実物大の
真の男の強さと優しさを学ばせてもらったが、同時に「自分は絶対にこうはなれないな」と、菊池光調にため息を吐かされるのが常でもあった。また新宿の紀伊国屋での講演会とサイン会に会社を休んで行ったときの、その英国紳士ぶりにも大いに感動したものだ。こう書くとまるで本人が亡くなったかのようだが、何とか新作を書いてくれないものか。と、多少暗めに今回は終わろう。