「ハロー、クラリス」
今、アメリカ映画界の話題は「Hannibal」と「アカデミー賞」に2分される。
「Hannibal」のラストシーンは普通の観客には相当ショッキングだが、それでもトマス・ハリスの原作とは変えられて無難な線に止まった。一方のアカデミー賞は「Gladiator」の12部門は当然としても、「Crouching
Tiger, Hidden Dragon」の10部門ノミネートには異議ありだ。「外国映画賞」、「撮影賞」、「美術賞」などはともかく、「作品賞」、「監督賞」、「脚本賞」には大きなクエスチョンマークがつくし、「作曲賞」、「主題歌賞」に到っては冗談としか思えない。(台湾映画と香港映画の違いはあるとは言え)「男たちの挽歌」の足元にも及ばないではないか。これは感性の違いというよりは、アカデミーがアン・リーのストーリーテリングと映像マジックに騙されたという感じだ。恐るべしはアン・リーか、結果は3月25日に分かるぞ。
今回は「Hannibal」を含む8本のレヴューだ。

1. 「The Pledge」 B+
(出演: ジャック・ニコルソン、ロビン・ライト・ペン、ベニシオ・デル・トーロ、サム・シェパード)
ジャック・ニコルソンの演技が存分に味わえる重厚な犯罪ドラマ。ニコルソンはネバダ州リノのベテラン刑事で、退職の当日に発見された少女のレイプ殺人にその後の人生で係っていく。人生を知り尽くした老いた男の寂しさと信念を体現するニコルソンは、今回はいつものぎらぎらした感じを完全に押さえて「演技」に徹している。監督はショーン・ペン。ニコルソンとは「Crossing
Guard」以来のコンビだが、これは間違いなく彼の最高作。足が地に着いた正攻法の演出なのだが、何気ない場面の一つ一つまで気が配られていて、昨今のせわしない演出方法に一石を投じるものがある。俳優としてのショーン・ペンは'83年の「バッド・ボーイズ」以来ファンなのだが、これからは監督ショーン・ペンも楽しみだ。また、知恵遅れの容疑者を演じるベニシオ・デル・トーロも凄い。でもニコルソンファンでないと、この作品はちょっと重いぞ。
(オフィシャルサイト:
http://movies.warnerbros.com/thepledge)
2. 「The Snatch」 B-
(出演: ブラッド・ピット、ベニシオ・デル・トーロ、デニス・ファリーナ)
CM出身のイギリス人監督ガイ・リッチー(マドンナの最新の旦那としての方が有名)がロンドンを舞台に仕掛けた風変わりなクライム・コメディ。7カラットのダイヤモンドを巡るアメリカ、ロシアのギャングの攻防と、ジプシーのケンカ屋(ブラッド・ピット)を巻き込んだ八百長のボクシング試合が錯綜する。スタイリッシュな映像、凝りに凝ったキャストはこの映画の最大の魅力だが、いかんせん「The
Pledge」の翌日に観たので、あまりの底の浅さに力が抜けてしまった。それから閉口したのは言葉。イギリス訛り、ジプシー訛り、ギャング用語の嵐で、正直「分からん」と言わざるを得ない。戸田奈津子の字幕が恋しくなった。
(オフィシャルサイト: http://www.spe.sony.com/movies/snatch)
3. 「The Wedding Planner」 B+
(出演: ジェニファー・ロペス、マシュー・マコノヒー)
オープニング・クレジットからエンドマークまで、「或る夜の出来事」に代表されるクラシックな「a boy meets a girl」スタイルを忠実に踏襲したロマンティック・コメディの佳作。恋愛にあまり縁の無い辣腕のウェディング・プランナーに扮したジェニファーロペスは、命を救われたエリート医師(テキサス出身のマシュー・マコノヒー)に恋をする。だがロペスに回って来た次の仕事はマコノヒーとその婚約者の結婚式をセットする事だった。ロペスはキュート、マコノヒーは粋でカッコいい。ロペスが持ち歩く仕事用の小道具や、花嫁を落ち着かせる魔法の言葉が効果的に使われているのが嬉しい。こういうさりげない工夫がこの手の映画には欠かせないのだ。また、父親が無理に押し付けようとする粗野な若者が、ロペスに精一杯のプロポーズをするシーンが思いのほか感動的で忘れ難い。
昨年のグラミー賞での裸同然の衣装や元恋人の裁判沙汰など、本業以外での話題が多かったジェニファー・ロペスだが、ここに来て最新アルバム「J.Lo」がビルボードで、本作がボックスオフィスでともに全米一位と言う史上初の快挙を成し遂げてしまった。この人はこれからが勝負どころだ。
(オフィシャルサイト: http://www.spe.sony.com/movies/weddingplanner)
4. 「Save the Last Dance」 B
(出演: ジュリア・スタイルズ、ショーン・パトリック・トーマス)
製作したMTVが肝いりの宣伝をしたので人気先行型の作品かと思っていたが、全うな作りの青春映画だった。バレリーナになるために母親と猛練習を重ねて来た娘(ジュリア・スタイルズ)は、母親が交通事故で死んだ後、シカゴの下層地域に住むしがないジャズ・ミュージシャンの父親に引き取られる。彼女はそこで知り合った黒人のクラスメイト(ショーン・パトリック・トーマス)に励まされて、再びバレリーナへの道を目指すのだが、あまり美人とは言えない仏頂面のスタイルズが、ラップなどの黒人音楽を取り入れて次第に自分のバレエを確立していくプロセスには説得力があり、妙にリアリティがある。この映画は女性ファンが圧倒的に多いだろうな。
(オフィシャルサイト: http://www.savethelastdance.com)
5. 「Hannibal」 B+
(出演: アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア、ゲイリー・オールドマ
ン)
「羊たちの沈黙」から10年ぶりに登場した本作は、3日間で5800万ドルを稼ぎ出し、R指定作品のオープニング記録(こんな記録があるのか)を樹立、そのキワモノとスーパーエンターテインメントの境界線を行く「面白さ」は前作を凌ぐと言ってしまおう。アカデミー賞主要部門を総ナメにした「羊」は、稀代の殺人者ハニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)とFBI捜査官クラリス(ジョディー・フォスター)の微妙な関係を中心に描かれ、2人の演技も光ってはいた。だが、サイドストーリーとしての殺人犯のキャラクターは弱いし、殺戮場面もあまり恐くなかった。では本作はどうか。あれから10年。イタリアで悠々自適の生活を送るレクターに逃亡者の意識など無い。しかしクラリス(本作ではジュリアン・ムーア)に加えて、レクターの犠牲者の唯一の生き残り、ベーガーもまたレクターを追っている。大金持ちのベーガーは全身ズタズタで(ゲイリー・オールドマンのメーキャップは凄いぞ)、レクターへの復讐だけを楽しみに生きている。この復讐計画がまたあっぱれだ。結果的にはこのベーガーの存在が、レクターとクラリスを再会に導く。野放しになっているレクターの怖さとそのキャラクターは際立ち、アンソニー・ホプキンスはトム・クルーズよりセクシーだ。しかもこのストーリーならクラリス役はジョディー・フォスターよりむしろ頭より体が先に動くジュリアン・ムーアの方が合っている。監督のリドリー・スコットは、ジョナサン・デミの続編など作る気はなかったのだろう。いわば本作は、「ゴッドファザー」→「ゴッドファザーパート2」のような正常進化型ではなく、「エイリアン」→「エイリアン2」に見られる発展型の続編なのだ。「エイリアン2」が「エイリアン」より好きな人は、「Hannibal」の方が楽しめるはずだ。
ただし、物語の後半はグロな場面が連続するので覚悟すること。
尚、「羊」の前編に当たる「Manhunter」(邦題名「レッド・ドラゴン」、監督マイケル・マン、主演ウィリアム・ピーターセン)も凄いので手に入ったらビデオで観ておくように(これはこれでホプキンス主演で再映画化の話もあるぞ)。
(オフィシャルサイト: http://www.mgm.com/hannibal)
6. 「You Can Count on Me」 B
(出演: ローラ・リネイ、マシュー・ブロデリック、マーク・ルファーロ)
「目撃」や「トゥルーマン・ショー」のローラ・リネイがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた小品で、幼い頃両親を交通事故でなくした姉と弟の後日談が語られる。姉(ローラ・リネイ)はシングルマザーとして銀行勤めをしながら一人息子を育てていて(その上司で情事の相手でもあるのがマシュー・ブロデリック)、そこに久しぶりに根無し草の弟(マーク・ルファーロ)が帰ってくる。こう書くといかにも退屈そうな話だが、実際退屈だ。しかし、お互いこれから良くなりそうも無い人生の中で、わずかな希望を見出していく姉弟のおかしさと哀しさを演じるローラ・リネイとマーク・ルファーロは十分観る価値がある。
(オフィシャルサイト:
http://www.youcancountonmemovie.com)
7. 「Down to Earth」 B
(出演: クリス・ロック、レジナ・キング、チャズ・パルミンテリ)
ケーブルTV・HBOの「Chris Rock Show」を打ち切って映画界への本格進出を果たしたクリス・ロックだが、この程度の出来では前途は険しい。彼はさほど日本では知名度が無いが、「リーサル・ウェポン4」のおかしな黒人と言えば思い出す人も多いはず。内容は'78年の傑作「天国から来たチャンピオン」(ウォーレン・ベイティ、ジュリー・クリスティ共演)のリメイク(さらに「天国から来た…」は'41の「幽霊紐育を歩く」のリメイク)で、寿命前に誤って天国へ召されてしまったランス(クリス・ロック)が他人の肉体を借りて生き返るというストーリー。ランスの職業が地を生かして売れないスタンダップ・コメディアン、黒人のランスが白人の肉体で甦るというアイディアに期待して観たが、凡作だ。主役を張るにはクリス・ロックの演技は固く、またファミリー層の取り込みを狙ってPG13にしたために毒気が抜かれて全く魅力に乏しい。劇中何度も「天国から来たチャンピオン」のシーンを思い出して、見終わったらやたらこの旧作の方をもう一度観たくなってしまった。旧作を見ていない人は結構本作を楽しめるかもしれないが、「天国から来た…」をビデオで観た方がずっと幸せな気分に浸れるぞ。
(オフィシャルサイト: http://www.downtoearthmovie.com)
8. 「3000 Miles to Graceland」 C
(出演: カート・ラッセル、ケビン・コスナー、コートニー・コックス)
MTV出身監督のお粗末な演出、説得力の無い脚本、紙のようなキャラクター、この救いようの無いアクション映画になぜケビン・コスナーとカート・ラッセルが出演したのかよく分からない。コスナーは極悪非道の強盗殺人犯で、カート・ラッセル、クリスチャン・スレーター、デヴィッド・アークェットたちとエルビス・プレスリーのそっくりさんコンテストに紛れてラスベガスのカジノを襲う。何の工夫もない荒唐無稽な銃撃戦の後に何とか逃げ切った後は、仲間割れしたコスナーとカート・ラッセル(この人はいつもながら人の良さを隠し切れない)の大金を巡っての一騎打ち。そこに絡むのがこの強盗騒ぎに巻き込まれたシングルマザー(「フレンズ」のコートニー・コックス)とかっぱらいが得意なその息子。コートニー・コックスはこの映画唯一の収穫で、はすっぱでセクシーな母親役で魅力全開だ。ケビン・コスナーのもみ上げは「ウォーター・ワールド」の耳ヒレ以来の奇妙さで、彼のファンにも薦められない。
尚、タイトルの「Graceland」とはテネシー州メンフィスのプレスリーの旧邸宅のことで(アメリカでも「リーダーズ英和辞典」は重宝する)、作中カート・ラッセル所有の船名にもなっている。
(オフィシャルサイト: http://www.3kmtg.com)
最後にこれからリリースされる春の話題作、注目作から16本をまとめて紹介するぞ。
1. 「The Mexican」
J.ロバーツ、B.ピット共演のロマンティック・コメディ。
2. 「Town & Country」
W.ベイティ、D.キートン、G.ホーンによる大人向けコメディ。
3. 「The Tailor of Panama」
ジョン・ル・カレ原作のスパイ小説の映画化。主演はP.ブロスナン。
4. 「Crocodile Dundee III」
P.ホーガンのシリーズ第三弾。舞台はL.A.。
5. 「Along Came a Spider」
「Kiss the Girls」に続きM.フリーマンが犯罪学者に扮するシリーズ第 2弾。
6. 「Driven」
S.スタローンの最新作はカーレースが舞台。共演はB. レイノルズ。
7. 「Captain Corelli's Mandolin」
N.ケイジと「All the Pretty Horses」のP.クルスによる第2次大戦 下のラブ・ストーリー。
8. 「15 Minutes」
R.デニーロ、E.バーンズによる刑事アクション。
9. 「Pearl Harbor」
B.アフレック、A.ボールドウィン、キューバ・グッディングJr.に よる戦争メロドラマ大作。
10. 「The Mummy Returns」
大ヒットしたB.フレイザー主演「ハムナプトラ」の続編。WWWFのザ・ロ ックがゲスト出演。
11. 「Shrek」
M.マイヤーズ、C.ディアス、E.マーフィー、J.リスゴーの豪華声 優陣によるCGコメディ。
12. 「Heartbreakers」
シガニー・ウィーバー、ジェニファー・ラブ・ヒューイットが詐欺の母娘 に扮するコメディ。共演G.ハックマン、R.リオッタ。
13. 「Enemy at the Gate」
ジュード・ロウ、エド・ハリス共演。第2次大戦下のロシア−ナチスの戦い を描く。
14. 「The Caveman's Valentine」
S.L.ジャクソンがNYのホームレスに扮するスリラー。
15. 「Someone Like You」
A.ジャド、G.キニア共演のロマンティック・コメディ。
16. 「Exit Wounds」
S.セガールがギャングと組んで腐敗警官を殲滅する。
