映像翻訳|海外のテレビ番組や映画の映像翻訳を仕事にするための学校です。多くの修了生、受講生がドラマ、アニメーション、ドキュメンタリー番組など多方面で活躍しています。

Mr.DOBASHI no テキサス映画通信

”Houston, we have a problem!(29)

Dobashi Shuichiro 土橋 秀一郎


Backnumber



"Anthrax"(炭疽菌)などという、普通なら一生覚えないで済むはずの単語を毎日テレビのニュースで聞かされる中でスタートしたワールドシリーズは、二転三転する空前の面白さだった。最終戦に先発した両エース、ヤンキースのロジャー・クレメンスとダイヤモンドバックスのカート・シリングの師弟対決を、地元紙はオビワン・ケノービvsルーク・スカイウォーカーに喩えていた。ゲームは史上最高の脇役で終わるかと思ったダイヤモンドバックスが、9回裏にヤンキースに逆転サヨナラ勝ち。本当に久しぶりに野球の面白さを堪能した。これで2001年の野球シーズンも終わり、これからは気持ちをNBAに切り替えて行かねばならない。だがその前にNY市とヤンキースに敬意を込めて、NYを舞台にした野球小説の傑作を紹介しておこう。

「ドジャース、ブルックリンに還る」('81)
角川文庫、デヴィッド・リッツ

1950年代のNY。貧民街出身のスクワットと裕福な家庭に育ったボビーはともにブルックリン・ドジャースのファン。2人は野球を通じて生涯の親友になり、ともにメジャー・リーグ入りを目指す。だが才能豊かなスクワットはメジャーデヴューを果たすもすぐに再起不能の怪我で引退、ボビーには元々メジャーで通じる実力はなかった。やがてドジャースはロサンゼルスへ移転。だが30年後、父親の会社を継いだボビーは何とエベッツフィールドを再建し、苦労の末ドジャースをブルックリンに呼び戻す。そして監督の座に就いたスクワットとともに、ワールド・シリーズで打倒ヤンキースを誓う…。
原題は"The Man Who Brought the Dodgers Back to Brooklin"。野球の面白さ、素晴らしさを高らかに謳い上げるこの作品は、思い出す毎に胸が熱くなる野球小説の金字塔だ。


映画の方はサマームービーの不調を一気に取り返す勢いで、今回は10本のうちなんとAランクが3本だ。



1. 「Training Day」 A-
(出演: デンゼル・ワシントン、イーサン・ホーク、スコット・グレン、トム・ベレンジャー)

これはいい。デンゼル・ワシントン扮するLAのベテラン覆面捜査官ハリスが、新米刑事のイーサン・ホークを教育する一日が描かれるのだが、実はハリスは強大な力を持つ悪徳刑事で、独自の倫理観とカリスマ性で部下たちを次々に洗脳して来たのだ。持ち前の正義感で懸命に良心と戦うイーサン・ホークも力強い演技で素晴らしいのだが、何と言ってもワシントンの切れ味鋭い演技は圧巻。チューンアップした黒のシボレー・モンテカルロに乗りながら、ドラッグをやり、ワイズクラッキングでアメリカ人の観客を爆笑させる(こっちは良く分からないのが悔しい)ワシントンは、もはやオスカーを獲った1989年の「グローリー」当時とは比較にならない存在感だ。今年のオスカーレースでも確実に主演男優賞に絡んでくるはずだ。必見。
(オフィシャルサイト: http://trainingday.warnerbros.com


2. 「Bandits」 B+
(出演: ブルース・ウィリス、ビリー・ボブ・ソーントン、ケイト・ブランシェット)

「狼たちの午後」のような銀行立てこもりシーンから始まるコメディ。囚人仲間のジョー(ブルース・ウィリス)とテリー(ビリー・ボブ・ソーントン)は、後にマスコミから"Sleep-over bandits"と呼ばれる銀行強盗。2人はまず決行前日に銀行のマネージャー宅に忍び込んで、翌日マネージャーともども出勤してキャッシュをまんまと強奪するのだ。この2人に絡むのが人質になった欲求不満の美しき人妻ケイト(ケイト・ブランシェット)で、やがてこの3人の間で「明日に向かって撃て」のポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロスのような微妙な三角関係が成立する。作品自体はバリー・レビンソン(「レインマン」、「ワグ・ザ・ドッグ」)らしさもなくみえみえの結末で終わるのだが、全編を通じて面白いのがビリー・ボブ・ソーントン。爆笑シーンはすべてこの神経過敏症で小心者の犯罪者が絡んでいる。ソーントンはアンジェリーナ・ジョリーと結婚して腑抜けになるかと思ったが(私生活では完全に腑抜けらしい)、この人の性格俳優ぶりは逆に磨きがかかってきた。尚、ソーントンの才能と性格俳優ぶりをたっぷり味わいたい人は、96年の傑作「スリング・ブレイド」(監督、脚本、主演:脚本でオスカー受賞)を観ない手はないぞ。
(オフィシャルサイト: http://www.mgm.com/bandits


3. 「The Last Castle」 A-
(出演: ロバート・レッドフォード、ジェイムズ・ガンドルフィーニ、マーク・ラファーロ)

これもいいぞ。「The Sopranos」、「The Mexican」のジェイムズ・ガンドルフィーニが鉄拳支配する軍人刑務所(元々城だったこの刑務所がタイトルの由来となっている)に入って来た将軍(ロバート・レッドフォード)が、やがて囚人たちの意を受けてクーデターを計画するというストーリー(レッドフォードがなぜ刑務所送りになったかは、かなり後半で説明されるのでここでは書かない)。実戦経験がなく、戦争記念品のコレクターという設定のガンドルフィーニのいやらしい独裁ぶりと、戦争の英雄でありながら今はただ刑期を無事に終えることだけを考えるレッドフォードを描く前半、レッドフォードの戦略戦術が次々と彼に忠誠を捧げる囚人たちによって実行されて行く痛快さを描く後半と、エンターテインメントとしては文句のない出来栄え。所内の手持ちの道
具から武器を作って行くと言うアイディアは、久しぶりにデズモンド・バグリイの傑作冒険小説「高い砦」を思い出させてもくれた。
尚レッドフォードはブラッド・ピットと共演する「Spy Game」が控えているし、ガンドルフィーニは後述する「The Man Who Wasn't There」ではビリー・ボブ・ソーントンと共演している。
(オフィシャルサイト: http://www.thelastcastle.com


4. 「Riding in Cars with Boys」 B-
(出演: ドリュー・バリモア、スティーブ・ザーン、ブリトニー・マーフィ、ジェイムズ・ウッズ)

「Wedding Singer」や「Never Been Kissed」のようなロマンティック・コメディを期待すると足元をすくわれる、ドリュー・バリモア本人の一代記のような132分の長い話。高校生で妊娠・出産し、仕方なく定職を持てない赤ん坊の父親と結婚したバリモアが、自分の運命を呪いながら子供を育て、ついに念願の作家になるまでが描かれる。「E.T.」から20年たってバリモアは今や一流の女優と断言できるが、残念ながら本作で演じているのは自業自得としか言いようのない魅力にかけるキャラクター。むしろヤク中で甲斐性無しだが最後まで優しい父親を演ずるスティーブ・ザーンと、この上なく可愛い2人の子役がこの映画の救いだ。
(オフィシャルサイト: http://www.spe.sony.com/movies/ridingincars


5. 「Life as a House」 B-
(出演: ケビン・クライン、クリスティン・スコット・トーマス、 ヘイデン・クリステンセン)

シリアス/コメディどちらもこなすケビン・クライン(「シルバラード」、「デーブ」)と、最近お気に入りの1人クリスティン・スコット・トーマス(「モンタナの風に吹かれて」、「ランダム・ハート」)が共演する感動作と思いきや、単なるtear jerkierに終わってしまった。20年勤めた設計事務所をクビになり(いまどきコンピューターがまったく使えないのだから無理もない)、おまけに癌で余命数ヵ月のケビン・クラインが、今や廃虚と化したかつての自宅を建て直すために不肖の息子(へイデン・クリステンセン)を無理矢理連れて行く。それを手伝うのが別れた妻(クリスティン・スコット・トーマス)や息子のガールフレンドで、やがて街の優しい人々のボランティアを受けて海辺の家が出来上がるのだが、そこには感動はない。お涙頂戴の場面が露骨すぎるの
と、どうもクライン以下キャラクターの行動が打算的なのだ(日本人はこの手の話に弱いので騙されないように)。そんな中で救いは今回も優雅で美しいクリスティン・スコット・トーマスと、ジョージ・ルーカス御用達のへイデン・クリステンセン。クリステンセンは来夏公開の「Episode II‐Attack of the Clones」で青年になったアナキン・スカイウォーカーを演ずるのだが、割といけるんでないかい。
(オフィシャルサイト: http://www.lifeasahouse.com


6. 「K-PAX」 B+
(出演: ケビン・スペイシー、ジェフ・ブリッジス)

自分がプロットという名のエイリアンで、K-PAXという別の惑星からやってきたと称する男がケビン・スペイシー。そのプロットを診察するNYにある精神病院の院長がジェフ・ブリッジス。この2大名優による今年の期待作の1本は、ちょっぴり物足りない。スペイシーは相変わらず達者だし、昨年の「The Contender」あたりから貫禄が出て来たジェフ・ブリッジスの受けの演技は、むしろスペイシーを凌ぐ。物語も「カッコーの巣の上で」を彷彿させる精神病院を舞台にした導入部から、プロットが人間には考えられない感度の眼を持ち、天文学者しか分からない特別な知識を有することが判明する前半部分までは身を乗り出す面白さだ。だが後半になり、ブリッジスがプロットの過去のトラウ
マを探りはじめるあたりから話が暗くなり、どうにも観ていて気分が落ち着かなくなる。行って欲しくない方向に物語が進んで行くのが分かるからだ。果たしてプロットは本当にエイリアンなのか否か―。結局この後半の展開のおかげで結末が極めて説得力を持ってくるのだが、代わりに爽やかなハッピーエンディングを失ってしまった。むしろ本作を観ていて思い出した、ジェフ・ブリッジスが孤独なエイリアンを演じた1984年の「スターマン」(共演:カレン・アレン)をもう一度観たくなってしまった。これはジョン・カーペンター監督の心温まるSFラブストーリーなので、まだ観ていない人はビデオで押さえておくように。
(オフィシャルサイト: http://www.k-pax.com


7. 「Domestic Disturbance」 B
(出演: ジョン・トラボルタ、ヴィンス・ボーン、テリー・ポロ、マシュー・オリアリー、スティーブ・ブセミ)

前作「Swordfish」でスタイリッシュな悪役を演じてみせたジョン・トラボルタが、本作では元アル中のブルーカラーに扮して、別れた妻(「Meet the Parents」のテリー・ポロ)、実の息子と一緒に暮らす殺人犯(「サイコ」のヴィンス・ボーン)と対決する。トラボルタは本当にいい俳優になったし、新しい父親の殺人を目撃する息子役のマシュー・オリアリーも適役。だが89分の上映時間はちょっと短すぎたようだ。全編を通して警察の捜査や凶器の処理など、脚本が細部の書き込み不足な上に、犯人の行動にも説得力がなく、シノプシスか長い予告編を見せられているような気分になる。トラボルタは今回
は作品に恵まれなかったという言い方も出来るが、ここは一つ「フェノミナン」や「マイケル」など、心温まるほのぼの路線に戻ってはどうか。
(オフィシャルサイト: http://www.domesticdistrubance.com


8. 「The One」 B+
(出演: ジェット・リー、カーラ・グギーノ、デルロイ・リンドー、ジェイソン・ステイハム)

なかなか良く出来た、パラレルワールドを駆使したSFアクション。タイムトラベルのライセンスを持った特別捜査官のジェット・リーが複数宇宙の自分自身を次々に殺し回るのだが、1人死ぬごとに生き残った自分たちが強くなるというのは「ハイランダー」と同じ設定だ。で、123人のジェット・リーが死んだ時、「悪いリー」とわれわれの世界の「良いリー」が、「The One」の座をかけて対決する(どうやらパラレルワールドは全部で125あるらしい)。
作品の性格上特殊効果の力は借りてはいるが、ジェット・リー本来のカンフー・アクションは堪能できるし、何より「悪いリー」を前面に出した脚本が成功している(「リーサルウェポン4」の悪いジェット・リーを思い出して欲しい)。またタイムトラベルをして悪いリーを追ってくる2人の特別捜査官(デルロイ・リンドーとジェイソン・ステイハム)も「ターミネーター」でマイケル・ビーンが演じたカイル・リースのようで結構な存在感を見せるし、「良いリー」の妻を演じるカーラ・グギーノ(「Spy Kids」)も画面にぴたりと収まった。「The One」は他愛無い話だが、90分弱を飽きさせず、これまでのところハリウッドで作られたジェット・リー主演作の中では一番の出来だ。
(オフィシャルサイト: http://www.spe.sony.com/movies/theone


9. 「The Man Who Wasn't There」 B
(出演: ビリー・ボブ・ソーントン、フランシス・マクドーマンド、ジェイムズ・ガンドルフィーニ)

「ファーゴ」や「O Brother, Where Art Thou?」のコーエン兄弟最新作は、1940年代のカリフォルニアを舞台にした床屋の話。しかも「Bandits」で登場したばかりのビリー・ボブ・ソーントンを主役に迎えてB&Wで撮ったフィルム・ノワールだ。人生に飽きていて、毎日寡黙に他人の髪を刈るソーントンは、フランシス・マクドーマンド演じる妻の浮気相手(ジェイムズ・ガンドルフィーニ)を殺した後も黙々と仕事を続ける。無口なソーントンが喋ると観客の何人かが笑い、黙ると別の何人かが吹き出す。まったく大した役者だ。
だがスローな展開とコーエン兄弟臭さはとても万人向けとは言えず、ここヒューストンでも今のところ名画座一館のみの上映。
(オフィシャルサイト: http://www.themanwhowasntthere.com


10. 「Monsters, Inc.」 A
(声の出演: ビリー・クリスタル、ジョン・グッドマン、スティーブ・ブセミ)

これは驚く事なかれ「Shrek」より面白いコンピュータ・アニメで、Pixar(ディズニーのCG部門)のドリームワークスに対する回答だ(ドリームワークスは本作の公開日に合わせて「Shrek」のDVDとビデオを発売して対抗した)。本コラム第25回のレヴューで「Shrek」について、「群を抜く映像と色彩、ユニークを超越するキャラクター、選び抜かれた声優陣、感動的なラヴ・ストーリーに最高級のユーモアが見事にバランスされた傑作」と書いたが、本作はこれらの讃辞にプラス「底知れない独創性」が付け加わる。あらゆる意味でちょっと信じ難いほど良く出来ているのだ。「Monsters, Inc.」とは、人間社会と別の次元に存在する怪物社会へエネルギー(電気とかガスとかすべて)を供給する大コングロマリットで、そのエネルギー源が人間の子供たちの「悲鳴」。Monsters, Inc. の誇るトップクラスの「怖がらせ屋」たちが毎晩人
間の子供たちの悲鳴を集めて回るのだ。怪物社会と人間社会の唯一の出入り口は子供部屋のクロゼットのドアで、このドアが小道具として全編を通じて実にユニークに使われる。
物語は怖がらせ屋ナンバーワンのサリー(声:ジョン・グッドマン)と相棒の一つ目マイク(声:ビリー・クリスタル)が、怪物社会へ迷い込んだ女の子をかくまったことから大騒ぎが始まるのだが、これ以上は書かない方がこれから見る人は楽しめるだろう。ビリー・クリスタル&ジョン・グッドマンのコンビは「Shrek」のマイク・マイヤーズ&エディー・マーフィー、「Toy Story」のトム・ハンクス&ティム・アレンに一歩も引かず、クリスタルが提供する「一つ目マイク」のコミックリリーフぶりは、マーフィーの「話すロバ」を凌ぐかという程だ(改めてビリー・クリスタルは日本で不当に低く評価されている俳優だと思う)。という訳で、「Monsters, Inc.」は一度観始めたら終わって欲しくなくなる面白さで、本年珠玉の1本。Pixar恐るべし。
(オフィシャルサイト: http://disney.go.com/DisneyPictures/monstersinc


「E.T.」の20年ぶりのリバイバル上映が決まり、来年3月から一斉公開される。まだこの映画を劇場で観た経験のない子供たちを連れて行くのは、親の勉めというものだろう。また5月公開の「Episode II」の予告編も始まった。そして30回記念の次回は「Harry Potter and the Sorcerer's Stone」のレヴューだ。公開初日(11月16日)の前売券も家族4人分押えたし、これから年末にかけてがアメリカでは一番楽しい季節なのだ。