"He makes you laugh?"
"He doesn't make me cry."
これは今回お届けするX'mas movieの目玉、「Ocean's Eleven」の中のジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツのレストランでの会話。クルーニー扮するダニー・オーシャンは犯罪者で、ジュリア・ロバーツの演じるテスはダニーを捨ててラスベガスの大物ベネディクト(アンディ・ガルシア)の情婦になっている(つまり"He"とはベネディクトのこと)。仮出所したダニーは、高級レストランでベネディクトを待つテスの前に突然現われる。ダニーが狙うのは、単にベネディクトの現ナマだけではない。
このシンプルなセリフが凄いのは、これだけで魅力はあるが犯罪から足を洗えないダニー、テスを自分の飾り物としか見ていないベネディクト、さらにまだダニーに未練のあるテスの、それぞれの性格を見事に表現してしまっているところだ。このように良いセリフのある映画は最近少なくなっているような気がする。
そういう意味では今年のクリスマスムービーは期待度大で、例年以上にオスカー・レースを賑わせそうだ。J.R.R.トールキン原作による壮大なファンタジーの第1部「The Lord of Rings:The Fellowship of the Ring」、ウィル・スミスがモハメド・アリを演じる「Ali」、ジム・キャリーが記憶を喪失した小さな町の英雄になる感動ドラマ「The Majestic」、ラッセル・クロウが実在の天才数学者に扮する「A Beautiful Mind」、トム・クルーズ+キャメロン・ク ロウ監督の「Vanilla Sky」、メグ・ライアンとヒュー・ジャックマンのロマコメ「Kate& Leopold」、SFの大御所P.K.ディック原作でゲイリー・シニーズ主 演の「Imposter」、ケビン・スペイシーとジュリアン・ムーアによる人間ドラマ「The Shipping News」、ショーン・ペンが精神障害を持つ父親を演じる「I am Sam」など。ウィル・スミス、ラッセル・クロウ、ケビン・スペイシーそしてショーン・ペンは記者の間ではオスカーノミニーの呼び声も高い。
2001年最後の今回は、ThanksgivingとX'masの穴を埋める6本+「Ocean's Eleven」のレヴューだ。

1. 「Heist」 B
(出演: ジーン・ハックマン、ダニー・デビート、デルロイ・リンドー、レ ベッカ・ピジョン)
引退希望の強盗が、腐れ縁のある故買屋からの要求を断れずに最後のひと仕事を引き受けるというストーリーは、この夏公開された「The Score」と酷似して いる。「The Score」では金庫破りがロバート・デニーロ、故買屋がマーロン・ブランドであったが、本作ではそれがジーン・ハックマンとダニー・デビート。ハックマンは71才ながらまだまだ元気だ。ハックマンとその一味が、航空機に積まれた金塊を税関やFBIの目を逃れて盗み出すプロットは、「The Score」よりも良く練られている。だが盗んだお宝を巡って敵味方が入り乱れて二転三転する結末は伏線不足で取ってつけたようだ。監督・脚本のデヴィッド・マメットは劇作家としては超一流だが、エンターテインメントという切り口ではもう一歩。それにジーン・ハックマンもダニー・デビートも一流の役者なのだが、エドワード・ノートンがいない分本作はどうにも「The Score」に見劣りしてしまう。
(オフィシャルサイト: http://theheist.warnerbros.com)
2. 「Shallow Hal」 B
(出演: グゥイネス・パルトロウ、ジャック・ブラック、ジェイソン・アレキサンダー)
美形の女の子ばかりを追っかけては振られるハル(「High Fidelity」のジャック・ブラック)は、ある日女性の内面の美だけが見えるように催眠術をかけられる。その結果、自分が勤める会社幹部の娘(グゥイネス・パルトロウが演じるが、ハル以外には300ポンドの女性に見える)に恋をしてしまうというコメディ。当然同僚はハルが出世目当てで彼女と付き合っていると憤慨する。「メリーに首ったけ」のファレリー兄弟らしい凝った設定だが、どうにも見ていて乗りが悪いのは、ジャック・ブラックの魅力の乏しさに加えて、太った女性を肴にして結構残酷な笑いを取ろうとしながら(と言っても予告編以上に面白いシーンはない)、一方でファレリー兄弟らしくもなくちょっぴり感動的なロマンティック・コメディに仕立てようと躍起になっているからだ。基本的にこの2つは両立しない。だから「ハルの催眠術が解けてからの2人」というこの脚本のハートが永遠の命題になって残ってしまった。早い話あなたが男で、運良くグゥイネス・パルトロウと愛し合っていて、彼女の心がいかに美しいからと言って、ある日突然京塚昌子2人分くらいになって目の前に現われたら、以前と同じように愛せますか?
(オフィシャルサイト: http://www.shallowhalmovie.com)
3. 「Novocaine」 B-
(出演: スティーブ・マーティン、ヘレン・ボナム・カーター、ローラ・ダーン)
40年代を舞台にしたブラックコメディだが、タイトルとキャストから期待されるほど面白くはなかった。スティーブ・マーティンは成功している歯医者で、仕事仲間のローラ・ダーンと婚約している。だがマーティンがエキセントリックな患者(ヘレン・ボナム・カーター)の誘惑に負けて、彼女と関係を持ったことから、ドラッグの盗難、殺人と人生が雪だるま式に狂わされて行く。殺人犯の濡れ衣を着せられたマーティンが、起死回生の逆転を図る結末はブラックユーモアが効いていて買える(ここでタイトルの由来も分かる)。しかしそこへ到る過程はこれといって盛り上がりもおかしさもなく、かなり退屈でしんど い。才人スティーブ・マーティンの出番がないのだ。余談だがヘレン・ボナム・カーターはやっぱり素顔より「Planet of the Apes」の猿のメーキャップを した方がセクシーだ。
(オフィシャルサイト: http://www.novocaineonline.com)
4. 「Spy Game」 B+
(出演: ロバート・レッドフォード、ブラッド・ピット、キャサリン・マコーマック)
監督のトニー・スコット得意のシャープな演出に、ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットというハリウッドの新旧の顔が見事にマッチしたエスピオナージュ・スリラーの佳作。
CIAの重鎮ネイサン(レッドフォード)は、自分が引退する当日にかつての部下トム・ビショップ(ブラッド・ピット)が中国で投獄されたことを知る。ラングレー(CIAの本部がある)は中国との関係を重視してトムとの関係を否定しようとし、その証拠集めのためにネイサンを絞り上げる。物語はCIA上層部のネイサンへの尋問形式で進み、ベトナム、ベルリン、ベイルートにおけるネイサンとトムの過去のオペレーションがフラッシュバックで語られる。このプロセスはエキサイティングだ。尋問の合間をぬって、ネイサンは全てのコネとテクニックを駆使し、遠く離れたトムの救出という離れ業を試みる。全編サスペンスが持続し、最後まで脚本の乱れもない。
今では監督としての揺るぎ無い地位を築いたレッドフォードは依然として一流の俳優でもあることを証明し、ブラッド・ピットは久しぶりにハリウッドのメインストリームに帰って来た。
(オフィシャルサイト: http://thespygame.net)
5. 「Behind Enemy Lines」 B
(出演: オーウェン・ウィルソン、ジーン・ハックマン、デヴィッド・キース)
年末から来年前半にかけて続々公開予定の「戦争もの」の1本。刺激のない軍隊生活に嫌気がさして除隊を希望している海軍ナビゲーターのクリスが、「Shanghai Noon」のオーウェン・ウィルソン。テスト飛行中にセルビアの非武装地帯で兵器移動を目撃したことからセルビア軍に撃墜され、クリスの生き残りを賭けた戦いが始まる。クリスを狩るために黙々と追跡を続けるセルビアのヒットマン(ロシア人俳優のヴラディミール・マシュコフがなぜか3本線のジャージ姿で怪演)はいいし、クリス救出に奮闘する海軍側(提督役がジーン・ハックマン、上官がデヴィッド・キース)の臨場感もある。しかし肝心のオーウェン・ウィルソンに追われる者の切迫感がないのは致命的。これは完全なミス・キャストで、イーサン・ホークあたりに演らせればそれだけでぐっと良くなったはずだ。またCM出身の監督ジョン・ムーアによる視点がチラチラする変なカメラワークとスローモーションの多用も逆効果だ。これは正攻法で行くべき素材でしょう。トニー・スコットに撮って欲しかった。
今後公開される戦争ものとしては、リドリー・スコット監督+ユアン・マクレ ガーの「Black Hawk Down」、ジョン・ウー監督+ニコラス・ケイジの「Windtalkers」、ブルース・ウィリス+コリン・ファレルの「Hearts' War」、さらにメル・ギブソンの「We Were Soldiers」などが控えている。9 月11日のテロ事件以来、米国民は"Patriotic war movie"には好意的と言う統計もある。
(オフィシャルサイト: http://www.behindenemylinesmovie.com)
6. 「Texas Rangers」 B-
(出演: ジェイムズ・ヴァン・ダー・ビーク、ディラン・マクドーマット、トム・スケリット)
昨年の夏休み映画の1本だったがお蔵入りして1年半、テロ影響によるアクション映画の公開延期でようやく陽の目を見たウエスタン。現在でもダラスを中心に活躍するテキサスレンジャーの誕生と活躍が描かれるが、結果は最悪で、公開3日間で1館当たり$746しか稼げなかった。初代隊長に任命される早撃ち2丁拳銃マクネリーは元牧師で、無法者集団に家族を皆殺しにされた過去を持ち、しかも胸を病んでいるという魅力的な役柄だ。だが痩せた脚本のため に、演じるディラン・マクドーマットは当たり役のTVドラマ「The Practice」のボビーのような厚みのあるキャラクターが出せなかった。一方「Dawson's Creek」の人気者ジェイムズ・ヴァン・ダー・ビークが拳銃の腕は悪いが生まれつきリーダーの資質を持つインテリ隊員に扮するのだが、意外にこれはいい。ストーリーはマクネリーたちがならず者をメキシコまで追いかけて殲滅するだけで何の工夫もないが、CBSでチャック・ノリスがタイトルロールを演じた「Walker, Texas Ranger」の流れを汲む作品だと思うと点も甘くなる。
いまやウエスタンは映画製作においてはもっとも不人気でリスキーなジャンルで、本作もウエスタン本来の魅力があるとは言い難い。西部劇の主役をこなせる骨太のアクターがいないのと、全盛時代のようなダイナミズムを活写できる監督もいないからだ(この両方に唯一当てはまるのがクリント・イーストウッドなのだが…)。だがひっそりとした映画館の大きなスクリーンの正面で、SFXなどとは無縁な馬の蹄の音と銃声だけの映画を楽しむのも、たまにはいいものだ。
(オフィシャルサイト: なし)
7. 「Ocean's Eleven」 A-
(出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、アンディ・ガルシア、マット・デイモン、ドン・チードル、カール・ライナー、バーニー・マック、エリオット・グールド)
昨年「Erin Brockovich」と「Traffic」でオスカーレースを席巻したスティーヴン・ソダーバーグ。彼が仕掛けた超豪華キャストによる1960年作品「オーシャンと11人の仲間」のリメイクは、規模、アイディアともオリジナルの1枚も2枚も上を行く屈指のエンターテインメントだ。
「オーシャンと11人の仲間」はフランク・シナトラ扮するダニー・オーシャンと、彼の有名な"RatPack"(ディーン・マーティン、サミー・デイヴィス・Jr.、ピーター・ローフォードらのいわゆるシナトラ一家)が軍隊仲間と言う設定で、大晦日にラスベガスの5つのカジノを同時に襲撃するという基本ストーリーに、劇中ディノが唄いサミーが踊ると言う痛快作であった。本作でジョージ・クルーニー演ずるダニー・オーシャンは仮釈放中の泥棒で、彼の元に犯罪 仲間のブラッド・ピット(ポーカーの名手)、ドン・チードル(爆発物の専門家)、カール・ライナー(詐欺師)、エリオット・グールド(資金調達係)、マット・デイモン(スリ)らが集結する。各キャラクターは魅力的で丁寧に描かれている。クルーニーはチャーミングだし、ブラッド・ピットは抜群に上手い。ドン・チードルとエリオット・グールドには笑えるし、カール・ライナーの迫真の詐欺師ぶりにはオスカー候補の噂もある。唯一マーク・ウォルバーグ から代わったマット・デイモンだけが芸達者たちの中で役柄があいまいでぱっとしない。彼らのターゲットはラスベガスの顔役ベネディクト(アンディ・ガルシア)が所有する3つのホテル(ベラージオ、ミラージュ、MGMグランド)の地下にあるハイテク装備に守られた共同金庫で、緻密な計画(ただし細部でクエスチョンマークがつくが)、リハーサル、襲撃がテンポ良く描かれる。実在のホテル名をそのまま使うことによる臨場感(襲撃を受けるのはベラージオと良い脚本に加えて、ソダーバーグのカメラワークは最初の数分ではっきり分かるほどシャープだ。
ショットの選び方、角度、長さ、どれも理想的に感じられて本当に映画を撮るために生まれたような人なんだと思う。おまけに前書きで述べたように、この映画はウルトラロマンティックだ。
(オフィシャルサイト: http://oceans11.warnerbros.com)
今日は近くにオープンしたBarnes & Noble(チェーン展開している本屋)へ行って、"Take Me Out to the Ballpark"というメジャーリーグの全ての球場を 写真とイラストで紹介した本(ディスカウントで$29.99)、日常頻出する英語フレーズの辞書"Common American Phrases"($12.95)、"Leonard Martin's 2002 Movies &Videos Guide"($8.99)、それに車の雑誌なんかをまとめて買ってきた。この本屋は静かでゆったりとしていて、ソファやテーブルがふんだんにある上に、店内でスターバックスと繋がっている。X'masが過ぎたらディスカウントされるカレンダーを買いにまた行こう。アメリカの本屋は大好きだ。
次回はX'mas movieの残りと、第3回「Texas Movie Awards」の発表です。