時々"American Idol"という歌番組を観ている。いわばアメリカ版「スター誕生」だが、そのレベルの高さには驚くばかりだ。すぐにでもプロデビュー出来そうな実力者たちがボロボロ落とされて、ベスト5くらいまで残る連中はちょっと甲乙つけがたく、どれも手がつけられないくらい上手い。テレビのインタビューに応じてもそれは堂々たるものだ。アメリカンショービジネスの懐の深さを見せつけられる。
てなことをつらつら考えながら、最近「Contact」 と「The Lion King」を観たが、この2本はいろんな意味で対照的だ。「Contact」は役者が歌
わないミュージカルで、気のきいた会話と斬新なダンスが主体。音楽はBGMとしてのみ使われる。ハイライトはロバート・パーマーの"Simply Irresistible"に乗って、黄色いドレスの美女が踊るバーのシーンだ。全編ユーモアにあふれ、洗練されていて申し分ない。このタイトルからして格好いいよね。ヤッピーたちは「昨夜"Contact"を観たよ」と気取って言うかもしれないが、決して「"The Lion King"を観たよ」とは言わない
だろう。
一方「The Lion King」は史上最高の「学芸会」とも言うべきもので、動物を表現するクリエイティブな衣装、エルトン・ジョンのオリジナルを
編曲した素晴らしい歌と音楽、声量のある役者たち、光と影を見事に使い分けた演出の妙と、良くここまで舞台化したなと感心させられる正統
派のミュージカルだ。「ライオンキング」が映画とミュージカルでここまで世界中から認知されたことを考えれば、故・手塚治虫の遺族が故人
の意を汲んで奥ゆかしくもディズニーを盗作で訴えなかったのは良かったのかもしれない。
映画の方は4ヶ月に及んだサマームービー・シーズンの最後を飾る7本 をどうぞ。

1. 「Austin Powers in Goldmember」 B
出演: マイク・マイヤーズ、ビヨンス・ノウルス、マイケル・ケイン、ヴェーン・J・トロイヤー、セス・グリーン)
大人気ナンセンスシリーズの第3弾。おなじみのレギュラーキャストに 加えて、デスティニーズ・チャイルドのビヨンス・ノルレスがパム・グリアもどきのフォクシー・クレオパトラ(かつてグリアが演じたフォク
シー・ブラウン+クレオパトラ・ジョーンズ)に、マイケル・ケインがオースティンの父親ナイジェル・パワーズに扮する大サービス作品。公
開3日間で7千3百万ドルを稼ぐスーパーヒット(7月公開作品の新記録)となった。しかし内容的には本シリーズの原型であるマイケル・ケ
インの60年代スパイシリーズ、ハリー・パーマー物のパロディという色彩が弱まった分、オフビートな面白さがスポイルされてしまっている。
今回オースティン・パワーズ(マイク・マイヤーズ)はフォクシー・クレオパトラの協力を得て、ドクター・イヴィルと組む70年代からやって
来たマッドサイテンティスト、ゴールドメンバーの「地球浸水計画」を阻止する。だが散漫なギャグはプロットから外れ過ぎな上に、終盤の父
子劇はしらけ気味で頭の良い脚本とは言い難い。ただし冒頭の007シリーズを真似た劇中劇の短いシークエンスはトム・XXXXとかグイネス・XXXXX
とかちょっと信じ難い豪華スターたちのカメオ出演で構成されていて、マイヤーズの人脈の広さが良く分かる。それに何回聞いてもこのテーマ
ソングは好きだな。
(オフィシャルサイト: http://www.austinpowers.com)
2. 「Signs」 B
(出演: メル・ギブソン、ホアキン・フェニックス、ロリー・カルキン、アビゲイル・ブレスリン、監督: M. ナイト・シャマラン)
主演のメル・ギブソンよりも監督・脚本のM. ナイト・シャマラン (「The Sixth Sense」、「Unbreakable」)が売りという超プロット重視の作品で、ストーリーに関しては公開前から徹底的に箝口令が敷かれ
た。世界の各地で発見される巨大な"サークル"が、メル・ギブソンと弟のホアキン・フェニックスの住むペンシルヴァニア州の農場にも出現。
更に家の回りで跋扈する正体不明の怪物たち…。ニュースではエイリアンの到来を予感させる数々の異変を告げている。侵略は既に始まってい
るのか?冒頭から終盤まで、物語の4分の3は圧倒的に面白い。凝ったショットの積み重ねとヒッチコック張りのBGMが効果てきめんで、とにか
くこの先何が起きるのか期待が加速度的に膨らんで行くのだ。ところがいざ結末が明かされるとあまりのあっけ無さに脱力する。こればかりは
メル・ギブソンも「Gladiator」のホアキン・フェニックスも救うすべはなく、観客全員が消化不良を起こして帰ることになる。「Unbreakable」
の方がずっと良かった。
(オフィシャルサイト: http://www.signs.movies.com)
3. 「Blood Work」 A-
(出演: クリント・イーストウッド、ジェフ・ダニエルズ、ワンダ・デ・ジェサス、アンジェリカ・ヒューストン、監督: クリント・イーストウッド)
これはイーストウッド作品としては'92年の「許されざる者」以来最高の 仕上がり。原作はマイケル・コナリーの同名小説。この作品は未読だがコナリーは良い作家なので原作に負う部分も大きいのだろうが、やはり
イーストウッドは演出家としても一流だ。ストーリーは、イーストウッド扮する老FBI捜査官マカレブが犯人の追跡 中に心臓発作で倒れ、心臓移植手術を受ける。2年後、FBIを引退したマカレブは彼に心臓を提供した女性の姉(ワンダ・デ・ジェサス)から、
妹を殺した犯人の捜査を依頼される。マカレブは失業中の隣人(ジェフ・ダニエルズ)を運転手にして単独で捜査を始める。72歳のイースト
ウッドはマカレブのキャラクターに良くマッチしている上に、手がかりの発見から衝撃のエンディングまでストーリーに破綻もなく極めて説得
力がある。まずは文句のない出来栄えのスリラー。しかもこの犯人の意外な動機とキャラクターはちょっとユニークだ。
(オフィシャルサイト: http://www.bloodworkmovie.com))
4. 「XXX」 B-
((出演: ヴィン・ディーゼル、サミュエル・L・ジャクソン、エイジア・アルジェント、監督: ロブ・コーエン)
昨年夏のスーパースリーパー「Fast and the Furious」の勢いをかって、ヴィン・ディーゼルがアメリカ版ジェームズ・ボンドを演じるお気楽なアクションムービー。だが予算が足りなかったのか、所々で目立つ
ショボいセットとSFXに加えて、洗練されない安易な脚本のおかげですっかりB級アクションっぽくなってしまった。 サミュエル・L・ジャクソン演じるNSA(CIAのようなもの)のリクルーターが、才能のある犯罪者をテストした結果選んだのがトリプルエック
ス(ヴィン・ディーゼル)。導入部のアクション・シークエンスから彼が強制的にテストを受けさせられる前半は、シャープで007シリーズへの
アンチテーゼとしても悪くない。ところがプラハのテロリスト組織に何とも安易に潜入できちゃうあたりからプロットがほころび始め、ヤバイ
感じになってくる。そして遂にオモチャのようなバイオ兵器が登場する頃には馬鹿馬鹿しさが蔓延状態になる。個人的にはヴィン・ディーゼル
は買っているのだが、いくらポンティアックGTOに乗ってもヨーロッパが舞台では今ひとつカリスマが弱くてしっくり来ない。ディーゼルが舞台
負けしているのだ。次作に期待しよう。
(オフィシャルサイト: http://sony.com/TripleX)
5. 「Blue Crush」 B+
(出演: ケイト・ボスワース、ミシェル・ロドリゲス、サノエ・レイク、マシュー・デイヴィス)
これは「ビッグ・ウェンズデー」の女性版などとは侮れない、爽快な 青春映画の佳作。主人公のアン(ケイト・ボスワース)は、かつてはサーフィンの子供部門のチャンピオン。彼女は友人2人(ミシェル・ロ
ドリゲスとサノエ・レイク)と共にハワイの高級リゾートでメイドとして自活しながらサーフィンに励んでいる。しかしアンはスポンサーを見
つけるためのコンテストを目前にして、未だにコーチだった母親の死と練習中に死にかけたショックから立ち直れない。ストーリーはアンの苦
脳、友情、恋、そして再生を中心に描かれる、と書くといかにも俗っぽいが、ケイト・ボスワースの適度な可愛らしさと芯の強いキャラクター
は上手く作品にマッチしているし、意外に骨太なストーリーは昨今のティーンエイジャームービーとは一線を画する。圧巻なのはド迫力の サーフィンシーン。特に終盤の"Pipe
Competition"でアンを始めとする女性サーファーたちが立ち向かう「Perfect Storm」並みの巨大なウェー ブがスクリーン一杯に広がると、思わず画面に引き込まれる。サーフィンの魅力と怖さが満喫できる、夏の終わりに観るには絶好の1本だ。
(オフィシャルサイト: http://www.blue-crush.com)
6. 「Undisputed」 A-
(出演: ウェズリー・スナイプス、ヴィング・レームズ、ピーター・フォーク、監督: ウォルター・ヒル)
「ザ・ドライバー」、「ストリート・オブ・ファイヤー」、「48時間」 など、男の映画で一世を風靡したウォルター・ヒル久々の快作。殺人犯のモンロー(ウェズリー・スナイプス)は、刑務所内で10年間無敵を誇
る元プロボクサー。そこにレイプで有罪となった現役世界ヘビー級チャンプの"アイスマン"チャンバース(「ミッション・インポッシブル」の
ヴィング・レームズ)が入獄して来る。これに眼を付けたのがピーター・フォーク演じるボクシング狂のマフィアの囚人。彼は組織の力を借り
て、メディアから完全に隔離した刑務所内でモンローとチャンバースの試合をプロモートする。スピードのモンローとパワーのチャンバースの
一騎打ちだ。試合は時間無制限で、どちらかがダウンすると初めて1ラウンドとしてカウントし1分間の休憩が与えられ、一方が完全にノック
アウトされるまで続けられる。観客は囚人とマフィア幹部のみで、巨額の掛け金が裏で動く。モンローが勝てば40%のギャラが、チャンバース
にはマフィアの力で特赦が用意されるのだが、既に刑務所内で反目しあっている2人にとっては、報酬は二の次。男のプライドを賭けた戦いだ。
全編を通してハイテンション、「ロッキー」などまるで問題にならない迫真のファイトシーン、そして意外なほど爽やかなエンディングが90分
間に見事に凝縮された1本だ。
(オフィシャルサイト: http://miramax.com/undisputed)
7. 「Simone」 B
(出演: アル・パチーノ、キャスリーン・キーナー、ウィノナ・ライダー、シモーン、監督: アンドリュー・ニコル)
「トゥルーマン・ショー」の脚本家、アンドリュー・ニコルがやはりマ スメディアに対するサタイアとして脚本/監督した、日本人が苦手なタイプのあまり笑えないコメディタッチのドラマ。有名スターのご機嫌取
りに嫌気のさした映画監督のビクター(アル・パチーノ)が、彼の熱烈なファンが密かに開発したソフトウェアを使って新進女優シモーンを創
造し、映画デビューさせる("Simone"は"Simulation One"の略)。シモーンの魅力は世界中を席巻し、ビクターは彼女の正体をメディアから
隠すために右往左往する。シモーンを自在に操りながらもプロデューサーの別れた妻(キャスリーン・キーナー)に未練を持つビクターを演
じるパチーノの名人演技、理想の女優シモーンをコンピューターで創造するプロセスの面白さ、シモーンにかき回されるメディアなど、部分的
には見所は多い。だが、致命的なのはシモーンそのものにさほど魅力がないことで、そのために映画全体に躍動感がない。後半ツイストするス
トーリー展開も容易に先が読める。いっそのことパチーノが自分とシモーンの区別が次第につかなくなるサイコスリラーに仕立てた方が数段
面白かったのに(アンソニー・ホプキンスの「マジック」だね)。尚、最後のクレジットでシモーンの造形に使われた女優名とモデル名が 列挙され(基本的にはファッションモデルのレイチェル・ロバーツが原型)、またクレジットの後にはパチーノのおまけショットが入ってい
る。映画館へ行った人は最後まで席にいよう。
(オフィシャルサイト: http://www.simonemovie.com)
これから年末にかけて更に150本以上の新作が控えている。「HarryPotter」や「The Lord of the Rings」の続編もいいが、楽しみなのは12月公開の「Star
Trek:Nemesis」だ。「新スタートレック」シリーズのキャストとしては最後の映画になるらしい。