今回の特集は、新聞広告に溢れる新作映画のほめ言葉の信用度を経験的に解き明かす、題して「傾向と対策:映画広告のほめ言葉」。
−傾向と対策:映画広告のほめ言葉−
以下が今回使う3つのカテゴリー。
○ : 一応信用して良い表現
△ : 50%くらい信用できる表現
× : どんな駄作にも使われる、絶対信用してはならない表現
1. General
○ : "A Masterpiece!"、"★★★★"、"A Must-see!"
"America's #1movie!"
(解説) プロの映画評論家たちにも多少の良心があるので、かなりその作品を買っていないとこれらの表現は使われない。もっとも良心のない三流の連中もいるので注意されたい。"★★★★"は何故か星4つが最高で、星5つはない。最後の表現は評論家に無関係だが、ボックスオフィス第1位の作品は面白い確率が高いと言っていいだろう。
△ : "Incredible!"、"Fascinating!"、"Compelling!"、
"Sophisticated!"、"Provocative!"、"#1 xxxx
movie in America!"
(解説) これらの表現に共通しているのは、把みどころがなくどこか逃げが入っていることだ。最後の表現のxxxxには"アクション"とか"コメディ"とかジャンルが入る―つまりトータルでは1位でないということ。
× : "Powerful!"、"Two Thumbs Up!"、"Fun!"、"Outstanding!"、
"Brilliant!"、"Astonished!"、"Enjoyable!"、"Sly!"、"Fabulous!"
(解説) "Two Thumbs Up!"は最も好んで使われる表現なので、ひいき
の評論家から出たものでない限りおよそ信用ならない。"Fun!"に到って
は、ほとんど投げているように読める。
2. Drama
○ : "One of the Best Films of the Year!"、"Classic!"
(解説) 1.と同様厚顔無恥と言えどもここまで言うにはそれなりの気概が必要であろう。
△ : "Seductive!"、"A Triumph!"
(解説) "Seductive!"は別にセクシーな映画に限らず使われる。
× : "You will love it!"、"Amazing!"
(解説) 初めの表現は余計なお世話である。
3. Action
○ : なし(Generalを参照)
△ : "Adrenalized!"、"High-octane!"、"Action
packed!"、
"Roller-coaster ride!"
(解説) いづれもアクションの凄さが事実としても、作品として面白いかどうかまた別の問題であろう。
× : "Entertaining!"
(解説) これもコケの生えたような表現である。
4. Horror & Thriller
○ : "Riveting!"、"The Scariest movie since xxxx!"
(解説) 2つともギリギリ合格か。2つ目のxxxxは過去に大ヒットした映画名が入るが、その作品自体がつまらないと思ったら止めといた方が無難だ。
△ : "The Scariest movie of the year!"、"Electrifying!"、
"Nail-biting!"、"Edgy!"
(解説)これらは私も結構騙されたことのある表現だ。
× : "Frightening!"、"Suspenseful!"
(解説) △と×の違いは、後者は日本の中学生でも知っている単語であるという点か。
5. Comedy
○ : "Smart and funny!"
(解説) Smartはcomedyにおけるキーワードであると認識されたい。
△ : "The Funniest comedy of the year!"
(解説) 笑いの基準はかなり個人差があるので信用ならない。
× : "Hilarious!"、"Funny!"
(解説) ホラー映画でただ「恐い」と同様、コメディでただ「おかしい」はないでしょう。
6. Actor/Actress
○ : "xxxx rules!"
(解説) 現在大ヒット中の「Sweet Home Alabama」の広告では"Reese
rules!"(ローリング・ストーン紙)となっている。Reeseは勿論主演のリース・ウィザースプーンのことだ。アクターの魅力が作品の魅力にもなっている場合が多い。
△ : "xxxx is delicious!"、"Terrific performance by
xxxx"
(解説) 前者は"Susan Sarandon is delicious!"のように使われるが、後者に比べると名の知れた俳優が小さな役で良い味を出している時に使われるような気がする。いづれも映画の出来とは別の話だ。
× : "xxxx shines!"
(解説) 有名な俳優に期待を裏切られた時にお義理で誉める時に使われる(?)。
今回は邦画関係の2本を含む9本だ。

1. 「Red Dragon」 A-
(出演: アンソニー・ホプキンス、エドワード・ノートン、ラルフ・
フィアンズ、エミリー・ワトソン、フィリップ・シーモア・ホフマン、
ハーベイ・カイテル)
「羊たちの沈黙」の前章にあたる本作は、とびきり豪華なキャストと原作に忠実なテッド・タリーの脚本を得て(「羊」の脚本も彼による)、一級品のスリラーに仕上がった。基本ストーリーはかつてハニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)を命懸けで捕まえたFBI捜査官グラハム(エドワード・ノートン)が、"Tooth
Fairy"と呼ばれる二家族を惨殺したシリアルキラーの捜査のために獄中のレクターの助けを得るというもの。だが「羊」と決定的に違うのは、ラルフ・フィアンズ演じる犯人が物語の初めから明かされ、圧倒的な存在感を持って描かれている点。おかげで全編緊迫感が続く上に、グラハムの上司のハーベイ・カイテル、三流新聞記者のフィリップ・シーモア・ホフマン、それに犯人の盲目の恋人役のエミリー・ワトソンはいずれも甲乙つけがたい演技で脇を固めている。勿論「Hannibal」よりずっといい。
尚、本作は'86年に「Manhunter」のタイトルで映画化されており、監督にマイケル・マン、グラハムに「C.S.I.」のウィリアム・ピーターセン、レクターにブライアン・コックス、シリアルキラーに怪優トム・ヌーナン、その恋人にジョアン・アレンが扮していてこちらも超お薦めだ。
(オフィシャルサイト:http://www.reddragonmovie.com)
2. 「Moonlight Mile」 B+
(出演: ダスティン・ホフマン、スーザン・サランドン、ジェイク・
ギレンホール、エレン・ポムペオ、ホリー・ハンター)
これは良く出来た家族ドラマ&ラブストーリーで、これまでのところトム・ハンクスの「The Road to Perdition」に対抗する唯一のオスカー・コンテンダーだろう。結婚式の数日前にフィアンセを殺されたジョー(ジェイク・ギレンホール)は、義理の両親になるはずだったベン(ダスティン・ホフマン)とジョジョ(スーザン・サランドン)の家にそのまま住んでいる。ベンに薦められるままに彼の営む不動産会社を手伝っているのだが、実はジョーはフィアンセが殺される直前に彼女とは別れていて、それを誰にも言えないでいる。ジョーはやがて郵便局に勤めるバーティー(エレン・ポムペオ)と恋に落ちて、いよいよ自分がどうしていいか分からなくなる。期待通り絶妙な駆け引きを見せるダスティン・ホフマンとスーザン・サランドン、ジョーの微妙な心理を繊細に表現するジェイク・ギレンホール、そして美人ではないが優しい眼差しで観客を虜にするエレン・ポムペオ(変な名前だ)。この4人が織り成す喪失と再生、愛と勇気の物語だ。ちょっと暗いけどね。
(オフィシャルサイト:http://touchstonepictures.go.com/moonlightmile)
3. 「Spirited Away」 B+
(監督: 宮崎駿、声の出演: デイヴィー・チェイス、スーザン・プレシェット、ジェイソン・マースデン、ローレン・ホリー、マイケル・
チクリス)
昨年「タイタニック」を抜いて日本の興業成績記録を塗り替えた「千と千尋の神隠し」の英語吹き替え版が、ディズニーの配給で全米限定公開された。東洋のワンダーランドに迷い込んだわがまま娘の千尋が、化け物屋敷のような巨大な湯屋で働きながら、豚にされた両親の呪いを解いて人間社会に戻るまでの成長と冒険が描かれる。深みはないが常に次を期待させるストーリー展開、「Monsters'
Inc.」を彷彿させる魅力的なキャラクター達、それに目を見張らせる美しい色彩で、2時間4分を全く飽きさせない。でも「映画欠席裁判」でもガースとウェインが指摘しているように、この舞台となる湯屋はもろに赤線だ。評論家諸氏の評判は飛び抜けて良いが、アメリカ人はどこまで分かっているのか。こっちに住んでいると、ちょっと質問されるのが恐いぞ。
(オフィシャルサイト:http://spiritedaway.net)
4. 「The Transporter」 B-
出演: ジェイソン・ステイサム、スー・チー、フランソワ・ベルレアン、マット・シュルツ)
「レオン」のフランス人監督リュック・ベッソン製作・脚本、チャイニーズのコーリー・ユエン監督、英国出身のジェイソン・ステイサム主演というインターナショナルなB級アクションメロドラマ。ジェイソン・ステイサム演じる運び屋のフランクはプロ中のプロで、契約すれば手段を選ばずどんな物でも必ず時間通りに運ぶ。このフランクの人間FedExのような際立ったキャラクターが描かれる冒頭、彼のBMW735iと仏警察のプジョー305とのカーチェイスが活写される前半はスタイリッシュで「これは」と思わせるものがある。だがフランクが自らのルールを破って「ブツ」であった人質レイ(チャイニーズ・アクターのスー・チー)を助けてからの後半は、人身売買を巡る陰謀とステイサムのマーシャルアーツによる派手なアクションシーンは用意されているものの、2人の安っぽいメロドラマが中心だ。ステイサムのちょっと古いタイプのキャラクターは新鮮だが、ヒロインのスー・チーはスタイルは良いもののガキっぽくて魅力に乏しい。またエンディングも疾走感が途切れて歯切れが悪く爽快感がない。もっとも「つまらない」と言うよりは「惜しい」と思わせる作品で、続編が出来たらまた騙されるなと知りつつ劇場へ足を運ぶだろうな。
(オフィシャルサイト: http://www.transportermovie.com)
5. 「The Rules of Attraction」 C-
(出演: ジェームズ・ヴァン・ダー・ビーク、シャニン・ソサモン、
イアン・ソマーホルダー、キップ・パーデュー)
クエンティン・タランティーノと共同で「パルプ・フィクション」の脚本を書き上げたロジャー・エイヴァリーが監督・脚本のセックス&ドラッグ絡みの青春映画。きれいごとを期待していた訳ではないが、予想以上に不快で30分くらいで帰りたくなった。カレッジのドラッグディーラー、ショーン(「Dawson's
Creek」、「Varsity Blues」のジェイムズ・ヴァン・ダー・ビーク)、ショーンが密かに憧れるローレン(「AKnight's
Tale」のシャニン・ソサモン)、ゲイのポール(イアン・ソマーホルダー)の3人3様の自己破壊的な学園生活と恋愛が凝った映像で描かれ、ストーリーもまとまっている。だが、ヴァン・ダー・ビークのマスターベーションやゲイの絡みのシーンは笑って済ますにはちょっと気持ち悪い。ロジャー・エイヴァリーのファンは喜んでいるのかもしれないが、この手の映画を見るには歳を取り過ぎたなと感じさせられる1本であった。
(オフィシャルサイト: http://www.rulesofatraction.com)
6. 「White Oleander」 B+
(出演: アリソン・ローマン、ミシェル・ファイファー、ロビン・ラ
イト・ペン、レニー・ゼルウィガー、パトリック・フュージット、ノア
・ワイリー)
これは恋人を殺害し投獄された後も獄中から娘の人生をコントロールしようとする美貌の母親(ミシェル・ファイファー)と、その母親の呪縛から逃れて独り立ちしようとする娘(アリソン・ローマン)の数奇な人生を描く人間ドラマ。本作はまずミシェル・ファイファー演じる氷のように冷たく美しい芸術家イングリッドの怪物じみたキャラクターが圧巻。一方知り合いや里親、孤児院をたらい回しにされながら次第に自我に目覚め、母親譲りの芯の強さをバネに育っていくアストリッドを演じる新顔のアリソン・ローマンも末恐ろしい。一貫してお涙頂戴に流されない冷めた視点が好ましく、優れたスリラーでもあるが、決して観て楽しい作品ではない。ファイファーとローマンのオスカーノミネーションは十分期待できるし、もしファイファーが助演でノミネートされれば受賞に100ドル賭けるところだ。
(オフィシャルサイト: http://www.whiteoleander.com)
7. 「Abandon」 C-
(出演: ケイティ・ホルムス、ベンジャミン・ブラット、チャーリー・フナム)
これまた「Dawson's Creek」出身のケイティ・ホルムス主演の三流スリラー。失踪した大学生エンブリイ(チャーリー・フナム)の捜査をする刑事ウェイド(ベンジャミン・ブラット)は、エンブリイの元恋人ケイティ(ケイティ・ホルムス)と恋におちる。そのうちにケイティはエンブリイを目撃するが、ウェイドの鼻先で姿をくらます。大体タイトルのダブルミーニングからしてストーリーがミエミエ。その上「The
SixthSense」が世界的に過大評価されたので今後この手の低俗な作品が増えるだろう。たれ目で口元に品のないケイティ・ホルムスにとても主演を張る魅力はなく、「Law
& Order」の精鋭ベンジャミン・ブラットに到っては間抜け同然の役柄と陳腐なセリフで気の毒なくらいだ(この人はジュリア・ロバーツと別れてから進境著しかったのだが)。かなり面白そうに思わせた予告編の製作者に敬意を表しておきたい。見事にだまされた。
(オフィシャルサイト: http://AbandonMovie.com)
8. 「Below」 B+
(出演: ブルース・グリーンウッド、マット・デイビス、オリビア・ウィリアムス)
これは「第2次大戦下の潜水艦もの」だが見事にひねりが効いた1級のスリラー。1943年、米国潜水艦タイガーシャークがドイツ軍に撃沈された英国船の生存者3名を救助してから、同艦内で奇妙な出来事が起こり始める。一種のゴーストシップものなのだが、設定が上手い(余談だが、もうすぐそのものずばり「Ghost
Ship」なるスリラーが公開される)。代理艦長とそのクルーは、敵艦との戦闘に加えて艦内のゴーストの正体を突き止めなければならず、その結果閉塞感にショッカー的要素が加わり「エイリアン」に近い雰囲気がある。代理艦長に扮する「Thirteen
Days」のブルース・グリーンウッド以外ほとんどなじみのないキャストは逆に作品にリアリティーを与え、謎解きは中盤で推測できるが説得力がある。「Abandon」の翌日に観たので、損した4ドル50セントを取り戻したような気分になった。
(オフィシャルサイト: http://www.belowthemovie.com/)
9. 「The Ring」 B+
(出演: ナオミ・ワッツ、マーティン・ヘンダーソン、デヴィッド・ドーフマン、ブライアン・コックス)
日本で映画化され大ヒットした「リング」(原作:鈴木光司)をベースに、オージー女優のナオミ・ワッツ主演で翻案されたアメリカ映画(ややこしいな)。雑誌レポーターのレイチェルは、姪の突然死の真相を探るうちにそれを観ると必ず7日以内に死ぬというビデオテープの存在を突き止める。自らビデオを観てその不思議な力を確信したレイチェルは、7日以内にビデオの謎を解き明かさなくてはならなくなる(彼女の元ボーイフレンドと一人息子もビデオを観ているのだ)。ビジュアルに恐がらせる場面と想像力で怖がらせる場面が良くバランスしている上に、「第1日目」、「第2日目」とカウントダウンされる演出も効果的だ。冒頭からハイテンションでホラーと言うよりもなかなか良く出来たスリラーになっている。欲を言えば今回は美形なだけのナオミ・ワッツには「Mulholland
Drive」のようなセクシーさも加えて欲しかった。
日本版「リング」は観ていないが、妻によれば今回のアメリカ版の方が面白いとのこと。
(オフィシャルサイト: http://www.dreamworks.com/thering)
次回からはいよいよ「007/Die Another Day」、「Harry Potter and the Chamber of Secret」などThanksgiving映画に突入するぞ。