「Harry Potter and the Chamber of Secret」公開直前の10月25日に、ダンブルドア役のリチャード・ハリスが死去した。ハリスは最近でこそ
「許されざる者」の老ガンマン、「Gladiator」の息子に殺される皇帝、「A Count of Monte Cristo」の老囚人役など齢相応の渋い役が多かった
が、若い頃は粋なアクション映画を得意としていた。「ジャガー・ノート」の爆弾処理のエキスパート、「殺し屋ハリー/華麗なる挑戦」のヒッ
トマン、「黄金のランデヴー」の秘密諜報部員、「ワイルド・ギース」の傭兵なんてそれはカッコ良かった。何を演っても絵になる男で、「殺
し屋ハリー」ではグリップに花の彫刻をあしらった拳銃を持ち歩き、「これが俺の花壇だ」なんて呟いていた。
アイルランド生まれのこの愛すべき飲んだくれ豪腕俳優に合掌。
今回はその「Harry Potter」、さらに「007」の新作を含む9本のレ
ヴューだ。

1. 「The Truth about Charlie」 C+
(出演: マーク・ウォルバーグ、サンディー・ニュートン、ティム・
ロビンス、監督: ジョナサン・デミ)
「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミが、1963年度のロマンティック・
スリラー「シャレード」を、やはりパリを舞台にリメーク。しかしケイ
リー・グラント、オードリー・ヘップバーン、ウォルター・マッソーの
キャストにヘンリー・マンシーニの音楽、スタンリー・ドーネンによる
演出というオリジナルを向こうに回して、一体どうしようというのか。
殺された夫の残した秘密の大金を巡って命を狙われる美人の未亡人が
「MI:2」のサンディー・ニュートン(可愛い)。彼女を助ける二枚目風
の男がマーク・ウォルバーグ。自称CIAの怪しげな男がティム・ロビン
ス。この映画のどこが悪いと言うよりも、そのセンス、スタンス、すべ
てに「そうじゃないんだ」と言いたくなるのだ。「Boogie Nights」で文
字通り男を上げたマーク・ウォルバーグも、こんな作品を選ぶようでは
覇気がなくなったよな。
(オフィシャルサイト:http://www.thetruthaboutcharlie.com)
2. 「Punch-Drunk Love」 B-
(出演: アダム・サンドラー、エミリー・ワトソン、フィリップ・ シーモア・ホフマン、監督&脚本:
ポール・トーマス・アンダーソン)
「Boogie Nights」、「Magnolia」のポール・トーマス・アンダーソン
の放つ異色のラブストーリー!」とか何とか日本では宣伝されるかも知
れないが、結局何をやりたかったのか良く分からない(「異色」と形容
される映画が面白かったためしはないが)。アダム・サンドラー演じる
バリーは零細企業の社長で、いつもブルーのビジネススーツを着ていて
7人の姉のいるシャイな独身男。サンドラー得意の暴力癖のあるナンセ
ンス男を暴力癖のある真面目男に振ったようなキャラクターだ。だが
(美人ではないがキュートな)エミリー・ワトソン扮するレナが何故か
バリーに魅かれる設定が不自然を通り越して変だ。ダイナミズムのない
アダム・サンドラーに魅力はなく、基本的にロマコメとして成り立って
いない。元々常人とは思えないアンダーソンが作るロマコメなので普通
ではないとは思っていたが、これを一般市民相手に公開してどうすると
いう感じだ。
(オフィシャルサイト:http://www.punchdrunklove.com/)
3. 「I Spy」 B-
(出演: エディ・マーフィー、オーウェン・ウィルソン、ファムケ・
ジャンセン、マルコム・マクダウェル)
1965年から4年間放映された同名のTVコメディシリーズの映画版。オリ
ジナルのビル・コスビーとロバート・カルプに対してエディ・マー
フィーとオーウェン・ウィルソン(「Shanghai Noon」、「Behind the
Enemy Lines」)がコンビを組み、政府のスペシャル・エージェントに扮
する。このコンビはなかなかイケると思っていたのだが、国際的な武器
商人(マルカム・マクダウェル)が透明になる戦闘機を競売にかけると
いうストーリーが退屈で退屈で困ってしまった。マーフィーとウィルソ
ンのやり取りは笑えるのだが、アクションやシチュエーションによる笑
いが取れないために、作品全体がどうしても間延びしている。脚本も書
けるオーウェン・ウィルソンにしては随分お粗末な作品を選んだと言わ
ざるを得ない。
(オフィシャルサイト:http://SonyPictures.com)
4. 「Femme Fatale」 B-
(出演: レベッカ・ロミン・スタモス、アントニオ・バンデラス、
ピーター・コヨーテ、監督: ブライアン・デ・パルマ)
冒頭タイトルロールの妖婦ことローレ(レベッカ・ロミン・スタモ
ス)が、ベッドでビリー・ワイルダーの「深夜の告白」を観ているシー
ンから始まる。更にパリのカンヌ映画祭を舞台にレズビアンシーンを絡
めた宝石強盗が描かれる導入部に到り、思わず「おお、ついにブライア
ン・デ・パルマが「殺しのドレス」や「ボディ・ダブル」に匹敵するセ
クシー・スリラーを作ったか!」と思わせる。ストーリーはこの宝石を
巡ってローレの強盗仲間、ローレを行方不明の娘と間違える老夫婦、こ
れにパパラッチのアントニオ・バンデラスが交錯するのだが、凝ってい
るようで緻密さがなく、ツイストさせる結末もあっけない。前半で完全
にネタ切れだ。レベッカ・ロミン・スタモスはフルヌードで体当たり
演技だが、この手のキャラクターを演じるにはかつてのキム・ベイシン
ガーやシャロン・ストーンのような強烈な魅力に欠ける。結局通しで観
るとセクシー度、スリラー度ともに今一つで、凡作以下。
尚、坂本龍一がいかにもそれらしいスコアを提供している。
(オフィシャルサイト:http://femmefatalemovie.warnerbros.com/)
5. 「Comedian」 B
(出演: ジェリー・サインフェルド、オーニー・アダムス)
全米で9年間続いたモンスター番組「Seinfeld」(邦題「となりのサイ
ンフェルド」)。赴任前に出張でヒューストンに滞在した7ヶ月間に、
全164エピソードの殆どを毎晩再放送で観たのは今では楽しい思い出だ。
その主演4人は、30分の1エピソードで各々が百万ドルのギャラを取っ
ていた。番組終了後、マイケル・リチャード、ジェイソン・アレキサン
ダー、ジュリア・ルイ・ドレイファスの3人はそれぞれ主演のSit-comを
ひっさげてNBCでデビューしたが、見事に全員自爆。本作は、そんな3人
を尻目に全米各地の小コメディ劇場でスタンダップ・コミックを行う
ジェリー・サインフェルドを追跡するドキュメンタリー。スタンダップ
そのものを見せる訳ではなく、サインフェルドを始めとするコメディア
ンたちが本番に臨む様子や楽屋裏が描かれる。ビル・コスビー、ジェイ
・レノ、クリス・ロック、ゲイリー・シャンドリングらアメリカを代表
するスタンダップ・コメディアンの素顔が覗けるのは楽しいが、特に興
味がない限り一般向けではない。難点はそれでなくてもリスニングが困
難なスタンダップに加えて、常に観客やBGMの騒音に邪魔されて英語が大
変聞き取りにくい点だ。
(オフィシャルサイト:http://www.miramax.com/comedian/)
6. 「Half Past Dead」 B-
(出演: スティーブン・セガール、モリス・チェスナッツ、ジャ・
ルール、ブルース・ウェイツ)
「刑事ニコ/法の死角」、「沈黙の要塞」の頃のスティーブン・セガール
は、切れ味鋭いアクションと水戸黄門的勧善懲悪ストーリーで一世を風
靡した(「ごんぶと」のCMにも出ていたし)。だが最近は太目になり動
きが鈍くなったことに加えて手抜きが目立ち、ほとんど再起不能状態に
近い。新アルカトラズと呼ばれる最新鋭の刑務所を舞台に、200億ドルの
金塊の隠し場所を知る死刑囚を拉致するテロリストと、それを阻止せん
とするセガール率いる死刑囚が対決するこの最新作も、シャープなアク
ションに乏しく期待外れ。だが予想外だったのは、セガールの相棒ニッ
ク役のジャ・ルール、テロリストの首謀者を演じるモリス・チェスナッ
ツ、老死刑囚レスターを演じるブルース・ウェイツ、果ては刑務所長、
テロリストの女コマンダー、戦う囚人たちに到るまでキャストの1人1
人がクセ者揃いでとろい演出を見事にカバーしている。セガールのファ
ンには物足りないが、この手のB級アクションが好きな人には一見の価
値ありだ。
(オフィシャルサイト:http://SonyPictures.com)
7. 「Harry Potter and the Chamber of Secret」 B+
(出演: ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソ
ン、ケネス・ブラナー、ロビー・コルトレーン、リチャード・ハリス、
マギー・スミス、アラン・リックマン、監督: クリス・コロンバス)
オープニング・ウィークエンドの興行成績歴代3位(1位:
「Spider-Man」、2位:「Harry Potter and the Sorcerer's Stone」)
の8千8百万ドルで好スタートを切ったシリーズ第2弾。今回も良く出
来たJ.K.ローリングの原作に忠実に、ケネス・ブラナー演じる対黒
魔術の専門家ロックハートが加わったキャスト、確実にレベルアップし
たSFXを得て、まずは無難な出来栄えで家族揃って楽しめる。ホグ
ワーツで50年前に閉じられた秘密の扉の謎を巡る本作は、前作以上の出
来」という前評判ではあったが、個人的には1作目の方が好みだ。ハ
リー、ロン、ハーマイオニーの性格付けと役割がしっかりしていて、謎
解きの面白さがあり、作品的にまとまっていて、何よりインパクトが
あった。それに比べると本作はロンとハーマイオニーの活躍が物足りな
いし(頻出するロンの情けない顔は笑えるが)、スネイプに扮するアラ
ン・リックマンも憎々しさが足りず、死期が近かったせいかリチャード
・ハリス扮するダンブルドアも心なし生彩がない。2時間40分の上映時
間も罪のない娯楽作品としてはちと長い。次作「Harry Potter and the
Prisoner of Azkaban」は原作が更に長いので(第4作はもっと長い
が)2部作にするかストーリーをちょん切るしかないだろうが、いず
れにしろ成長が早い子役たちは総取っ替えで製作される。
(オフィシャルサイト:http://www.harrypotter.com)
8. 「Die Another Day」 B
(出演: ピアース・ブロスナン、ハリー・ベリー、トビー・スティー
ブンズ、ラザモンド・タイク、リック・ユン、ジュディ・デンチ、ジョ
ン・クリーズ、マイケル・マドセン)
007の最新作は終わってみるとあまりにも大味で、オスカー俳優ハリー・
ベリーの鮮やかなオレンジ色のビキニ姿だけが記憶に残る。北朝鮮、バ
ハマ、ロンドン、アイスランドを舞台に、北朝鮮工作員と手を組みサテ
ライトを使った巨大レーザー砲で世界制覇を目論むダイヤモンド王(マ
ギー・スミスの息子、トビー・スティーブンス)を、MI-6、NSAのエー
ジェントが阻止するというのが基本ストーリー。だが冒頭ボンド(ピ
アース・ブロスナン)が北朝鮮軍に14ヶ月も拷問を受けるというアホら
しいシーンの後で(ホームレスのようなブロスナンは笑える)、武装し
たアストン・マーチンとジャガーXK8の氷上対決に代表されるおなじみの
荒唐無稽なアクションシーンの数々を見せられてもノリが悪い。作品の
トーンが統一されていないのだ。それにスタントは相変わらず観せてく
れるが、SFXはお粗末で単純な合成くらいもう少し何とかならんか、イギ
リス映画!と言いたくなる。マドンナの歌う同名のテーマソングも最
低。で、話を元に戻すと、「ドクター・ノー」のウルスラ・アンドレス
へのオマージュとしてハリー・ベリーが演じる謎のスパイジンクスだけ
が突出していたという訳(とは言ってもボンドガール・ナンバーワンは
やっぱり「ロシアより愛をこめて」のダニエラ・ビアンキでしょう)。
でも観て損はないよ、お金かかってるし何だかんだ言っても007映画だ
し。何か最後に取ってつけたようだけど。
(オフィシャルサイト:http://www.mgm.com)
9. 「The Emperor's Club」 A-
(出演: ケビン・クライン、エミール・ハーシュ、エドワード・ハーマン、スティーブン・カルプ、監督: マイケル・ホフマン)
今月は駄作を死ぬほど観たのでうんざりしていたのだが、最後の最後に
心から感動できる作品が待っていた。これだから映画は止められない
(とすっかり気分が良くなっている)。予告編を観たほとんどの人が、
本作を89年のロビン・ウィリアムス主演「今を生きる」の焼き直しと思
うだろう。だがこれはもっと深く、思慮深い。有名私立校の教授ハン
バート(ケビン・クライン)は、歴史に対する情熱とその人柄で生徒た
ちからの信頼も厚い。ハンバートは上院議員の不肖の息子ベル(エミ
ール・ハーシュ)の更正に成功しかかるが、ベルは期末試験での不正が
発覚し結局ハンバートの労力は徒労に終わる。そして25年後、今では引
退したハンバートにベルから招待状が届く。この先は本作のハートなの
だが、誰もが予想するような単純なハッピーエンドが待っている訳では
ないぞ。極めて説得力のあるストーリーに生命を吹き込むのがケビン・
クライン。変化球のない直球勝負の演技で人生の奥深さを謳い上げる。
「シルバラード」でアクションを、「デーブ」と「ワンダとダイヤと優
しい奴ら」でコメディを極めたこのアメリカのシェイクスピア俳優が、
念願のドラマも極めた瞬間だ。今年必見の1本。
(オフィシャルサイト:http://www.theemperorsclub.com)
次回からは新企画「ちょっと古くて渋めの映画探偵団」をスタートさせ
る予定。それからX'mas映画が一杯。勿論「The Lord of the Rings:The
Two Towers」も入っているぞ。