最近「PREMIER」誌が"The 100 Greatest Movie Moments of All Time"なるものを発表した。紹介された100本の内74本を観ていたので懐かしさが一挙に押し寄せてきた。興味がある人は雑誌の方を見て頂くとして、この特集のおかげで他にも昔観た映画の名場面が次々と浮かんできた。
「12人の怒れる男」で自分以外の11人の陪審員を何とか説得し、黒人ギャングを無実の罪から救ったヘンリー・フォードの疲れた顔。
「或る夜の出来事」でモーテルの部屋の真ん中に張った洗濯ロープに毛布を掛けて、クローデット・コルベールに「ジェリコの壁だ」と宣言したクラーク・ゲーブルの紳士ぶり。
「大脱走」で独房の壁を相手にキャッチボールをしていたスティーブ・マックィーンの不屈。
「おもいでの夏」で夫の戦死を告げる手紙を前にして、泣き腫らした目で立っていたジェニファー・オニールの美しさ。
「ポセイドン・アドベンチャー」で水中に潜って鉄板の下敷きになった紳士を助けた後、心臓発作で死んだシェリー・ウィンターズの悲しさ。
そして「傷だらけの栄光」で"Somebody up there likes me!"と叫ぶ新チャンピオンのポール・ニューマンに、"Somebody down here, too."と答えたピア・アンジェリの愛情。書き出すときりがない。
さて、今回の「ちょっと古くて渋めの映画探偵団−第2回」で紹介する「Atlantic City」の「レモンのシーン」も、前述の"The 100 Greatest Movie Moments of All Time"に見事ランクインしている。
− ちょっと古くて渋めの映画探偵団 第2回 −
「Atlantic City」(1980) A-
(出演: バート・ランカスター、スーザン・サランドン、ケイト・リード、監督: ルイ・マル)
主要5部門(作品、監督、主演男優、主演女優、脚本)でアカデミー賞候補になった人間ドラマの佳作。バート・ランカスター演じるルーは、昔アトランティック・シティのマフィア幹部の使い走りだった。老いた現在はボスの死によって残された情婦(ケイト・リード)の面倒を見ている。ルーのお気に入りは同じアパートに住み、食品売り場の店員をしている中年女性のサリー(スーザン・サランドン)。ルーはサリーの別れた亭主に乗せられて金持ち相手に麻薬を売り始めるが、亭主が殺されたために残った麻薬でいい生活をしながら徐々にサリーと親しくなって行く。本作はタンクトップ姿のサリーが、体に染み付いた食品臭を消すためにレモンで体を拭くのを、ルーが密かに覗き見る忘れ難いシーンから始まる。地味で面白味のないストーリーだが、身ぎれいで小悪党のルーのキャラクターが秀逸だ。バート・ランカスターは老境に入った小悪党の見栄と卑しさを体現する完璧な演技で一見の価値あり。
ここからは新作7本のレヴュー。

1. 「The Recruit」 A-
(出演: アル・パチーノ、コリン・ファレル、ブリジッド・モイナハン、監督: ロジャー・ドナルドソン)
2003年初頭を飾るにふさわしい、新旧スターの共演が見事に成功したエスピオナージュ。MIT卒でコンピューターの天才ジェームズ(コリン・ファレル)は、CIAリクルーターのバーク(アル・パチーノ)にスカウトされて新人トレーニングを受ける。やがてバークは同じトレーニングを受けているレイラ(ブリジッド・モイナハン)が二重スパイであることをジェームズに打ち明け、彼女が誰のために働いているのか突き止めるよう指示する。このストーリーが良く出来ているのは、誰が味方で誰が敵なのかというエスピオナージュ特有の謎解きに、実際に起こっていることがトレーニングなのか現実なのかという疑問が常に加わるところだ。だから観客にとって結末が読みにくいし(勘の良い人でも多分半分しか当たらないはずだ)、お世辞にも伏線が巧みに引いてあるとは言い難いエンディングにも納得させられる。
エスピオナージュの傑作「追いつめられて」('87主演:ケビン・コスナー)のロジャー・ドナルドソン監督による演出は、全編緊迫感が持続する上に終盤にかけて一気にテンションを上げる見事のなもの。また「Insomnia」同様抑えた演技のアル・パチーノ、生粋のアイリッシュながらタフなアメリカ人青年を好演するコリン・ファレル(こいつのインタビューはもろにアイリッシュ・アクセントで何を言っているのか分からない)、才色兼備の魅力に溢れるブリジッド・モイナハン(「Sum ofAll Fears」ではベン・アフレックの恋人役だった)、と適材適所のキャスティングも魅力的だ。
(オフィシャルサイト: http://the-recruit.com)
2. 「How to Lose A Guy in 10 Days」 B+
(出演: ケイト・ハドソン、マシュー・マコノヒー)
コメディエンヌとして母親(ゴールディー・ホーン)ゆずりの才能を見せるケイト・ハドソンと、最近ロマコメで魅力を発揮するマシュー・マコノヒーによる、どちらかと言うとコメディ色が強いロマンティック・コメディ。ケイト・ハドソン扮するアンディは一流女性誌のレポーターで、ボーイフレンドが最も嫌がる女性の典型的行動を実践して本作のタイトルとなる記事を書いている。一方マコノヒー演じる広告会社のエグゼクティブ、ベンは10日以内にどの女性でもものにすると豪語し、上司と賭けをする。そしてアンディとベンが出会ったことから、2人は互いに魅かれているふりをしながら、アンディは10日以内にベンに捨てられるようあらゆる作戦を展開、逆にベンは10日間アンディを繋ぎ止めておかねばならない。本作はこの不自然なストーリーを容認するか否かで評価が分かれるところだが、この設定は主演2人の魅力を十分引き出している。ハドソンはエレガントでチャーミング、テキサス出身のマコノヒーはヒュー・グラントやジョン・キューザックにないタフな魅力がある。まあ底の浅いchickflickと言えなくも無いが、観て楽しいのは確かだ。
(オフィシャルサイト: http://HowToLoseAGuyMovie.com)
3. 「The Quiet American」 B
(出演: マイケル・ケイン、ブレンダン・フレイザー、ド・シー・ハイ・イェン)
ヴェトナム戦争前のサイゴンを舞台にしたグレアム・グリーンの同名小説の映画化('58年にも映画化)。2002年度作品だがここHoustonでは2ヶ月遅れての限定公開。ロンドン・タイムスのベテラン記者トーマス(マイケル・ケイン)はもはやジャーナリストとしての情熱はなく、若いヴェトナム人の愛人フォン(ド・シー・ハイ・イェン)と暮らすこと以外生きがいを見出せないでいる。そこに現われるのが医療チームをまとめるアメリカ人のパイル(「The Mummy」のブレンダン・フレイザー)で、彼とトーマスは友人になるが、同時にパイルはフォンに一目惚れしてしまう。トーマスは当然気が気ではないのだが、同時にパイルの不審な行動を疑い始める。物語はパイルの死体が発見されるシーンから始まり、フーダニットの興味とフォンを巡る三角関係の行方が平行して描かれる。円熟の演技でオスカー候補となったマイケル・ケインと、シリアス・ドラマも充分にこなすブレンダン・フレイザーの2人は見ごたえ充分。だが主演2人に愛されるフォン役のイェンに全く魅力がないのと、殺人事件の謎解きにも新味が無いことが映画としての興味を半減してしまった。また原作の持つ政治スリラー的要素はほんの付け足しだ。
(オフィシャルサイト: http://www.miramax.com)
4. 「Daredevil」 B
(出演: ベン・アフレック、ジェニファー・ガーナー、コリン・ファレル、マイケル・クラーク・ダンカン、ジョー・パントリアーノ、デヴィット・キース)
公開3日間で4千5百万ドルを稼ぐ大ヒットとなったマーベル・コミックの比較的地味なヒーローの映画化。マット・マードック(ベン・アフレック)は子供の頃に有毒廃棄物を浴びる事故で失明したが、代わりに聴覚と運動能力が異常に発達する。そして父との約束を守り昼は盲目の弁護士として貧しい人々を助けながら、夜はスーパーヒーロー"Deredevil"として必殺仕置人に変身する。だが赤皮のジャンプスーツにマスク姿のアフレックは長すぎる顔と太り気味の体型のせいでおよそクールとはほど遠く、恋人エレクトラ(人気TVドラマ「Alias」で人気沸騰のジェニファー・ガーナー)の切れのあるアクションや、スキンヘッドで運動神経の固まりのようなコリン・ファレル扮する悪役ブルゼイの前に全くいいところがない。父親役のデヴィッド・キース、町の顔役のマイケル・クラーク・ダンカン、唯一スーパーヒーローの正体を知る新聞記者役のジョー・パントリアーノと脇役陣はぴたりとはまったが、肝心の主役がミスキャストでは「Spider-Man」に及ぶ術もない。
尚、マーベル・コミック物としてはさらに5月公開の「X-Men 2」と、夏公開の「Hulk」が控えている。特にアラン・カミングを悪役に迎えての「X-Men 2」の予告は無茶苦茶面白く、大いに期待したい。
(オフィシャルサイト: http://www.daredavilmovie.com)
5. 「Dark Blue」 B+
(出演: カート・ラッセル、スコット・スピードマン、ブレンダン・グリーソン、ヴィング・レイムス)
スキンヘッドのマイケル・チクリス主演の人気TVドラマ「The Shield」や、一昨年のデンゼル・ワシントン主演「Training Day」に似たストーリーの"Dirty Cop"もの。ただし本作は背景に1991年の白人警官による黒人容疑者への暴行事件に端を発したロスアンゼルス暴動事件を使っていて、巧みに臨場感を高めている。カート・ラッセル扮する刑事ペリーは上司(ブレンダン・グリーソンが往年の佐藤慶のようなおぞましい悪役を怪演)と結託して腐敗の限りを尽くしながら、新米のボビー(スコット・スピードマン)を一人前の悪徳警官に育てようとしている。だが次第にボビーが良心の呵責に耐えかね、さらにロス暴動の気運が高まるにつれて物語りは悲劇に向かう。本作のカート・ラッセルはブレイクスルーを見せ、デンゼル・ワシントンのようなカリスマはないものの、今までにない圧倒的な存在感で見ごたえ十分。だがエンディングで妙に良い子になってしまうのは減点だ。この根性なしが。
(オフィシャルサイト: http://www.unitedartists.com)
6. 「The Life of David Gale」 B-
(出演: ケビン・スペイシー、ケイト・ウィンスレット、ローラ・リネイ、監督: アラン・パーカー)
全米で最高の死刑執行回数を誇るここテキサス州を舞台にした社会派ドラマの失敗作。レイプ殺人で死刑判決を受けた熱烈な死刑反対論者の大学教授デヴィッド・ゲイル(ケビン・スペイシー)は、ジャーナリストのベッツィ(「タイタニック」のケイト・ウィンスレット)との独占インタヴューで無罪を訴える。ストーリーはゲイルの堕落をフラッシュバックで見せながら、死刑執行前の4日間真実を求めて絶望的な努力を重ねるベッツィを中心に展開する。現在こと演技に関しては技術的に頂点に立つスペイシーは、カリスマを持つ大学教授、アル中への転落、無実を訴える死刑囚を見事に表現する。上手いものだ。だがスペイシーに決定的に欠けるのは、アル・パチーノ、デンゼル・ワシントン、トム・ハンクスらと違って観客を感動させられない点だ。また作品的にもトリッキーなエンディング(ミステリーファンなら容易に推察できるが)と死刑制度の是非という固いテーマがバッティングしてしまい、楽しめず、かと言って考えさせられる訳でもなく、欲求不満だけが残るのだ。
(オフィシャルサイト: http://www.thelifeofdavidgale.com)
7. 「Cradle 2 the Grave」 B+
(出演: ジェット・リー、DMX、アンソニー・アンダーソン、トム・アーノルド、ゲイブリエル・ユニオン、マーク・ダカスコス、ケリー・ヒュー)
これはジェット・リーのカンフー・ファイトとラッパーDMXの華麗なアクションが楽しめる大変良く出来たB級アクション。ジェット・リー扮するスーは台湾CIAのエージェントで、盗まれたブラック・ダイアモンドを追っている。DMX演じるトニーはハイテク装備の強盗団を率いるが、ブラック・ダイアモンドを盗み出したことから国際武器商人リン(マーク・ダカスコス)に娘を誘拐されてしまう。スーとトニーは共同戦線を張ってリンを追うが、ブラック・ダイアモンドは実は単なる宝石ではなかった。
スーをストイックに演じるジェット・リーは金網デスマッチでストリート・ファイター全員を敵に回し、エンディングではマーク・ダカスコスとの死闘とサービス満点。一方DMXもポルシェカレラとモトクロス用バギーを使った斬新なアクションで対抗する。加えて脇役陣も元ストリッパー役のゲイブリエル・ユニオン、故買屋のトム・アーノルド、コミック・リリーフのアンソニー・アンダーソン、さらにリンの愛人を演じる美しいケリー・ヒュー(「The Scorpion King」)らが良く描き分けられていて飽きさせない。ツボを抑えたアクション映画で1ヶ月遅れのお年玉だね、これは。
(オフィシャルサイト: http://www.cradle2thegrave.com)
第75回アカデミー賞授賞式まで約3週間。司会は2年ぶりのスティーブ・マーチン。今回はこの才人が何を見せてくれるか楽しみだ。