<第76回アカデミー賞雑感>
いやはや、「The Lord of the Rings」の11部門完全制覇とは驚いた。これは受賞数では「Ben Hur」、「Titanic」と並び、clean sweepという意味では「Gigi」、「The Last Emperor」の9部門を抜く新記録。更に珍しいことに、今回はサプライズが一切なし。ド本命受賞の連続で、日米両方のsweepstakesを見事全問当てたものの、これでは正解者多数で賞品はもらえそうもない。しかしこの日の主役は「LOtr」ではなく、「Mystic River」でついに頂点を極めたショーン・ペン。観ましたか、あのスタンディング・オベーションを受けるペンの上気した顔の輝きを。かつてマドンナと結婚していた不良少年の面影は残っているものの、そこにはアメリカを代表する俳優に成長した男の風格と自信がみなぎっていましたね。「Bad Boys」(1983)以来のショーン・ペンファンとしては嬉しい限りで、「21 Grams」が今年公開されていれば、2年連続のオスカー受賞も夢ではなかった。ちょっと惜しかったな。
さて今回は、「ちょっと古くて渋めの映画探偵団」の第6回と、シャーリーズ・セロンがオスカーを取った「Monster」を含む7本のレヴューだ。
− ちょっと古くて渋めの映画探偵団 第6回 −
「Rudy」(1993) A-
(出演: ショーン・アスティン、ネッド・ビーティ、チャールズ・S・ダットン、リリー・テイラー、ロバート・プロスキー、監督: デヴィッド・アンスポー)
「LOtr」を観て、改めてショーン・アスティンは誠意を感じるいい俳優だなと思った。で、本作(邦題「ルディ/栄光のウィニングラン」)は、そのアスティンがタイトルロールのルディを演じる、実話をベースにした感動のスポーツドラマ。ルディは北部にある鉄工所経営者の次男で、地元高校でフットボールをしている。将来は名門中の名門ノートルダム大学でフットボールを続けたいと願うが、成績は悪く、体格は小さく、おまけに典型的なブルーカラーの息子で経済的な余裕もない。物語はルディがこれらのハンディを克服し、4年かかってノートルダム大学への入学を果たし、更に一軍選手枠に入るまでの苦闘が描かれる。ルディが試合で活躍するシーンはゼロに等しく、全編才能に恵まれなかった人間の努力と情熱が語られる、スポ根ドラマの王道を往く映画である。アスティンは正に適役で、お涙頂戴的ストーリーも彼の誠意と真摯さによって臭みが消されている。ルディを影で支える黒人管理人役のチャールズ・S・ダットンが、また泣かせる。アメリカの良心を感じる入魂の一作で、今回レヴューした「Miracle」と観比べてみるのも面白い。
1. 「Monster」 B
(出演: シャーリーズ・セロン、クリスティーナ・リッチ)
80年代後半にフロリダで7人の男を殺害し、一昨年処刑された女性シリアルキラー、アイリーン・ウォーノスの生涯を描いた実録ドラマ。「美形」のシャーリーズ・セロンが監督に直訴してアイリーン役を勝ち取り、増量とメーキャップで醜い大女に変身し、見事オスカーに輝いた。物語は、やがて親友兼恋人となるシルビー(クリスティーナ・リッチ)とのレズビアン・バーでの出会いから始まり、正当防衛による初めての殺人、そしてアメリカ初の女性シリアルキラーになるまでが描かれる。良くも悪くもシャーリーズ・セロンの独壇場で、ただその変身ぶりとパワフルな演技に圧倒されるだけの作品。一昨年「The Hours」でヴァージニア・ウルフに化けてオスカーを取ったニコール・キッドマンもそうだが、美人女優の不美人演技はいかがなものか。不美人女優に対する営業妨害ではないか。例えば本作など、キャシー・ベイツかキャスリーン・ターナーが演れば、そのものズバリだったと思うのだが。
(オフィシャルサイト: http://monsterfilm.com)
2. 「American Splendor」 B+
(出演: ポール・ジアマッティ、ホープ・デイヴィス、ハーベイ&ジョイス・ペカー)
これは昨年のインディペンデンス系作品の代表格で、アングラの漫画家ハーベイ・ペカーの自伝的映画(漫画家と言ってもハーベイ自身は絵が下手で、構図とセリフを考えて漫画は下請けに描かせている)。「American Splendor」とはコミックブック・コレクターのハーベイが、クリーブランドの病院で事務仕事をしながら、自分の詰まらない人生を自嘲的に語って人気を博したコミックスのタイトル。物語は、コミックブックを通して出会った妻ジョイスとの生活、ガンとの闘病生活などが、正直にかつ自虐的に描かれる。この映画のすごいのは本人が全く美化されていない点で、ポール・ジアマッティ演じるハーベイは見かけも性格も最低。だがジョイス(ホープ・デイヴィス)と出会ってから、少しずつ人生が良い方に変わって行くプロセスは心暖まる。監督兼脚本のボブ・フロルチーニとシャリ・スプリンガー・バーマンの演出は凝りに凝っていて、アニメーションを効果的に使いながら、随所にハーベイとジョイス本人を俳優に代えて実際に作品に登場させ(ハーベイが"Late Show"に登場するシーンも実際のクリップを巧みに作っている)、更に2人のインタビューまで挿入するという離れ業をやってのけた。この斬新な手法と本質的にはラブ・ストーリーという2つの要素が両立しているところが、本作の最大の魅力だ。
(オフィシャルサイト: http://www.americansplendormovie.com)
3. 「Along Came Polly」 B-
(出演: ベン・スティラー、ジェニファー・アニストン、デボラ・メシング、アレック・ボールドウィン、フィリップ・シーモア・ホフマン、ハンク・アザリア)
「Meet the Parents」のベン・スティラーと、「Friends」のジェニファー・アニストンによるスラップスティック・ロマコメ。リューベン(ベン・スティラー)は、NYの保険会社でリスクコントロールを担当する世界一用心深い男で、ハネムーンの最中に新妻(デボラ・メシング)に浮気されて傷心の日々。彼は高校の同級生ポリー(ジェニファー・アニストン)に偶然出会い、デートするようになるが、ポリーの趣味もワイルドなライフスタイルも、リューベンとは正反対。本作はこの2人の間に生じる"カルチャーギャップ"と、芸達者な脇役陣(がさつなリューベンの上司がアレック・ボールドウィン、親友の売れない役者がフィリップ・シーモア・ホフマン)の活躍というレシピで面白くなるはずだったのだが、完成品はあまり美味しくない。明らかにリューベンとポリーというキャラクターの偏屈さが不足していて、笑いを生む"ギャップ"が不十分なのだ。予告編で観た以上のギャグも用意されてなく、これでは「There's Something about Mary」のファンも、「Friends」のファンも消化不良を起こすだろう。
(オフィシャルサイト: http://alongcamepolly.com)
4. 「Miracle」 B+
(出演: カート・ラッセル、パトリシア・クラークソン、エディ・カヒル、ノア・エミリッチ)
'80年のレイクプラシッド冬季五輪で、USAアイスホッケーチームが、当時無敵だったソ連を破った実話の映画化。アメリカのスポーツ史上最も感動的だった瞬間が、見事にスクリーンに甦った。カート・ラッセルが演じるのは、まだプロ選手の五輪出場が一般的ではなかった時、才能ある若手を集めて徹底したスパルタで鍛え上げた鬼コーチ、ハーブ・ブルックス(ハーブ・ブルックス本人は、昨年本編完成前に交通事故で他界した)。紛れもなくラッセルのベストワークで、かつてソ連に手玉に取られた借りを返すまで死んでも死にきれない男の執念を、鬼気迫る演技で体現した。有名俳優は1人も使わず、全て元アイスホッケー選手で固めたゲームシーンは圧倒的な臨場感で、スウェーデンとの1回戦、チェコとの2回戦と、試合が進むにつれて興奮が加速度的に増幅する。そして準決勝で激突するUSA−USSR戦で興奮は最高潮に達し、試合の観衆と映画の観客が一体化する。この映画をアメリカで観られたのはラッキーで、これは駐在員の役得だった。ただ一点付け加えれば、この映画には余韻がない。観ている時は"ソ連をやっつけろ的乗り"で興奮するが、感動が続かない。事実は強いが、ドラマとしてはいささか弱いと言わざるを得ない。
(オフィシャルサイト: http://miraclemovies.com)
5. 「Highwaymen」 C
(出演: ジム・カビーゼル、ローナ・ミトラ)
'86年の傑作「The Hitcher」(主演:ルトガー・ハウアー)の監督ロバート・ハーモンが、夢よ再びと放った"ロード・レイジ・スリラー"。だが、これはどうにもならない失敗作。目前で妻を轢き逃げされた男(「Frequency」、「The Count of MonteChristo」のジム・カビーゼル)の復讐がメインストーリーで、「The Hitcher」の異常な犯人像にスピルバーグの「Duel」('71)の恐さを加えようとした意図は分かる。だが肝心のサスペンスが持続するのは冒頭の15分くらい。「Terminator」そっくりのスコアは愛嬌としても、比較的早く明かされる犯人の姿は異常と言うより滑稽だ。更に随所に見られるご都合主義なストーリー展開、登場人物たちの間抜けな行動はちょっと正視に耐えない。4ドル払う価値も無かった。
(オフィシャルサイト: http://www.highwaymenmovie.com)
6. 「50 First Dates」 A-
(出演: アダム・サンドラー、ドリュー・バリモア、ショーン・アスティン、ロブ・シュナイダー、ダン・アイクロイド)
'98年の「The Wedding Singer」に続く、アダム・サンドラーとドリュー・バリモアのコンビによるウルトラロマンティック・コメディ。バレンタインデーの週末に公開され、3日間で4千万ドルを越えるスーパーヒットとなった。ハワイの水族館で獣医をするヘンリー(アダム・サンドラー)は、地元の娘ルーシー(ドリュー・バリモア)に一目惚れする。だがルーシーは1年前の交通事故で短期健忘症を患い、事故後の出来事は1日たつと全て忘れてしまう(「Memento」のガイ・ピアースですね)。ルーシーの家族は彼女に自分が病気であることを悟らせないよう、毎日同じ行動を繰り返している。ヘンリーは自分のことを覚えていて欲しくて、毎朝ルーシーとのファースト・デートを画策する(だからタイトルは"51st
Date"でなく、"50 First Dates"なのである)。この映画、爆笑シーンも多いのだが、後半は意表を突いて感動的で思わず泣かされる。「LOtr」のショーン・アスティン演じるルーシーの気の良い弟ダグも楽しいし、ルーシーの健忘症がどうなるのか?――エンディングの処理も文句なく上手い。「The
Wedding Singer」同様サンドラーとバリモアのペアにはケミストリーが働いており、近年最高のデートムービーだ。
(オフィシャルサイト: http://Showtimes.SonyPictures.com)
7. 「Welcome to Mooseport」 B
(出演: ジーン・ハックマン、レイ・ロマノ、マルシア・ゲイ・ハーデン、モーラ・ティアニィ)
「Everybody Loves Raymond」のレイ・ロマノ主演によるロマンティック・コメディ。ロマノ演じる配管工のハロルドが住むMooseportの町に、元大統領のモンロー(ジーン・ハックマン)が戻って来る。離婚係争中のモンローは、見初めた娘サリー(モーラ・ティアニィ)の気をひくために新市長に立候補するが、その選挙にはハロルドも立候補している。その上サリーはハロルドのガールフレンドなので、市長選は三角関係が絡んだ個人的な戦いになって行く。タフなサリーを演じる「ER」のモーラ・ティアニィは大変魅力的、ジーン・ハックマンはこの手のスクリューホール・コメディも楽にこなすし、歯切れの悪いハロルドのキャラクターは正にロマノの持ち味だ。ただし細部の工夫に乏しくて底の浅いストーリー展開は、流れに任せただけと言う感じで、観て損はしないが凡作の域を出ない。
(オフィシャルサイト: http://www.welcometomooseport.com)
次回はメル・ギブソン監督作、記録的な大ヒットとなったものの、全米で評価が真っ二つに別れる超話題作「The Passion of the Christ」を含めたレヴューをお届けする。