2004年のサマームービーは、5月7日公開予定の「Van Helsing」(ヒュー・ジャックマン、ケイト・ベッキンセイル共演の妖怪退治もの)を皮切りに、約4ヶ月間の長丁場に突入する。この時期になると毎週話題作が2〜3本公開されるので、一旦遅れをとるとキャッチアップが大変だ。今年も大作だけで「Spider-Man 2」、「Shrek 2」、「Troy」(ブラッド・ピット、オーランド・ブルーム共演のファンタジー巨編)、「The Day After Tomorrow」(ローランド・エメリッヒによる近未来パニックもの)、「I, Robot」(ウィル・スミス主演、アイザック・アシモフによる名作SFのアクションムービー化)、「Sky Captain and the World of Tomorrow」(ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロウ主演のレトロ調Sci-fi)、「The Terminal」(トム・ハンクス主演、S・スピルバーグ監督の人間ドラマ)、「Collateral」(トム・クルーズが銀髪の暗殺者に扮する、マイケル・マン監督によるスリラー)、「The Manchurian Candidate」(デンゼル・ワシントン主演、ジョナサン・デミ監督による「影なき狙撃者」(’62)のリメイク)、「Thunderbirds」(ビル・パクストン、ベン・キングスレー主演、60年代人気TVシリーズの実写版)、「Catwoman」(ハリー・ベリー主演のセクシー・アクション)、「The Bourne Supremacy」(マット・デイモン主演、「The Bourne Identity」の続編)、「The Village」(ホアキン・フェニックス主演、「The Sixth Sense」のM・ナイト・シャマラン監督のホラー)などが続々と登場する。個人的にはズバリ、トム・クルーズ+マイケル・マンの「Collateral」がイチ押しだ。夏休みにアメリカ旅行を計画している人は、1日かけて3〜4本の映画をまとめて観たら充実したものになるぞ。そう言えば、「Alien vs. Predator」なんて怪作も控えている。
以下は「ちょっと古くて渋めの映画探偵団」の第7回と、今回レヴューする新作7本だ。
− ちょっと古くて渋めの映画探偵団 第7回 −
「What about Bob?」(1991) B+
(出演: ビル・マーレー、リチャード・ドレイファス、ジュリー・ハガーティ、監督: フランク・オズ)
昨年の「Lost in Translation」のおかげで、ビル・マーレーを再評価する向きが多い。だがアメリカ人は面白いものを良く分かっていて、ビル・マーレーというと本作や「Quick Change」、「Groundhog Day」を真っ先に挙げる。本作でマーレー扮するボブは、家から一歩出ると閉所、バイ菌、対人と何でも恐がる極度に神経質な男。そのボブに慕われてしまう気の毒な精神科医が、リチャード・ドレイファス演じるマービン。ボブは恐るべき根性と執念深さで、マービン博士の別荘にまで押しかけてくる。尊大な博士はボブを追い出そうとするが、博士の家族は皆ボブが大好きになる。可笑しいのはボブの病気が博士の家族に癒されて良くなるに連れて、逆に博士がストレスで次第に狂って行くプロセス。このボブの厚かましくも愛すべきキャラクターはビル・マーレーの真骨頂で、彼がただ画面にぬっと出るだけで思わず笑ってしまう。
本作は「おつむて・ん・て・んクリニック」などと言う犯罪的な邦題で公開された。この題名だけで敬遠した人も多いはずだが、内容的には家族で楽しめる良質なコメディだ。レンタルされることをお薦めする。
1.「The Alamo」 B
(出演: デニス・クエイド、ビリー・ボブ・ソーントン、ジェイソン・パトリック、パトリック・ウィルソン、ジョーディ・モラ、エミリオ・エチェバリア、監督: ジョン・リー・ハンコック)
テキサスがメキシコからの独立を勝ち取るきっかけとなった、1836年の「アラモの戦い」を描いた歴史大作。200人足らずのフロンティアたちが、3000人のメキシコ軍を相手にアラモの砦に立てこもり、最後は全滅した。本作は、当初ロン・ハワードとラッセル・クロウのオスカー・ペア(「A Beautiful Mind」)が監督・主演する予定であった。だが、ロン・ハワードが製作会社のディズニーにR指定を要求して言い争った結果、2人は降板。代わりにジョン・リー・ハンコック、デニス・クエイドの「The Rookie」コンビに落ち着いた。しかし「Remember the Alamo!」の悲痛な叫びは観客に届かず、興業的には完全に失敗。’60年版でジョン・ウェインが演じた有名なデイヴィー・クロケットに扮するのがビリー・ボブ・ソーントン、ナイフの名手ジム・ボウイ役がジェイソン・パトリック。この2人は良い味を出している。特にソーントンは圧巻で、メキシコ軍の将軍サンタ・アナをライフルで狙い撃つシーンを始め、印象的なシーンはほとんど彼の独占状態だ。一方デニス・クエイドのサム・ヒューストン将軍は貫禄不足で、完全に歴史の重みに負けてしまった。全編を通じて史実に忠実に丁寧に作られていて悪い出来ではないが、その分小ぶりで雄大さや感動に欠ける。観終わった後に口を突いて出てきたのは、’60年版で大ヒットしたディミトリー・ティオムキンの名曲”The Green Leaves of Summer”であった。
(オフィシャルサイト: http://alamo.movies.com)
2.「Kill Bill: Vol. 2」 B
(出演: ユマ・サーマン、デヴィッド・キャラダイン、マイケル・マドセン、ダリル・ハナー、ゴードン・リュー、監督兼脚本: クエンティン・タランティーノ)
昨年公開されたVol.1は、斬新なアイディアを散りばめたアクション、スタイリッシュで丁寧なカット、ユニークなキャラクター、「修羅雪姫」の梶芽衣子をモチーフにしたシークエンスなど、観客の度肝を抜く空前のエンターテインメントであった。そして本作では主人公のザ・ブライド(ユマ・サーマン)が、遂にビル(デヴィッド・キャラダイン)に行きつき、その復讐を遂げるまでの血みどろの死闘が繰り広げられる――と思っていた。ところが、これが案に反してアクション・シークエンスはVol.1の10分の1、スローなテンポと退屈な会話で少々かったるいのだ。さすがにタランティーノの脚本らしく、いきなりザ・ブライドがビルの弟バド(マイケル・マドセン)にショットガンで吹っ飛ばされるシーンを始め、ストーリーの先を読ませない上手さはある。また、マカロニウエスタンや、昔流行った香港製B級カンフー映画のエッセンスを巧みに組み合わせた楽しさも見所。デヴィッド・キャラダインも粋で魅力的な老ガンマンを好演している。しかし観終わると、Vol.1はオリジナルの長い一編のいいとこ取りをしたという感じで、どうにも本作は見劣りするのだ。
(オフィシャルサイト: http://www.kill-bill.com)
3.「The Punisher」 B
(出演: トーマス・ジェーン、ジョン・トラボルタ、ウィル・パットン、レベッカ・ロミン=ステーモス)
まだまだ続くマーベル・コミックの映画化(’89年に一度ドルフ・ラングレン主演で映画化されたがあまりの酷さにお蔵入りし、ビデオでのみ発売された)。FBIのおとり捜査官フランク・キャスル(「63」のトーマス・ジェーン)は、大掛かりな武器密輸を阻止して引退し、ようやく家族との生活を取り戻す。ところがその時の銃撃戦で息子を失った組織のドン(ジョン・トラボルタ)の怒りを買い、妻子と親族全員を虐殺される。で、フランクは組織壊滅のために”The Punisher”として絶望の淵から立ち上がる。ドラマと劇画の面白さが良くブレンドされ、スーパーヒーローでないフランクを演じるトーマス・ジェーンも適役。スタイリッシュな悪役は、ちょっと手抜き演技が気になるがトラボルタの十八番。またフランクを献身的に助ける孤独なウェイトレス(「X-Men」のレベッカ・ロミン=ステーモスが好演)と、おたく2人の存在が際立っている。ただしB級のバイオレンス・アクションファンのみにお薦め。
(オフィシャルサイト: http://www.punishermovie.com)
4.「Hellboy」 B+
(出演: ロン・パールマン、ジョン・ハート、セルマ・ブレアー、ダグ・ジョーンズ、ルパート・エヴァンス、監督&脚本: ギレルモ・デル・トロ)
これはマーベル・コミックよりぐっとカルト的なダークホース・コミック原作のSci-fiアクション。何せ設定が凄い。第2次世界大戦末期――ナチスは起死回生の策として、科学力と黒魔術を駆使して現世に悪魔を甦らせようとするが、成功寸前で連合軍に阻止される。その時生まれた悪魔の赤ん坊はアメリカ人科学者(ジョン・ハート)によって育てられる。そして彼はヘルボーイとして正義のために、ゾンビ化したナチスの残党と日夜闘い続けるのだ。ヘルボーイを演じるロン・パールマンは、「Blade II」やTVシリーズの「The Beauty and the Beast」で知られる醜い巨漢の俳優。本作では、荒っぽいが滅法タフで心優しい赤鬼のようなヘルボーイに見事にはまった。また共に闘う半魚人のようなエイリアン(ダグ・ジョーンズ)、ヘルボーイが想いを寄せるファイアスターターの美女(セルマ・ブレアー)、若きFBIエージェント(ルパート・エヴァンス)も良くキャラクターが描き分けられている。「Mimic」、「Blade II」の監督ギレルモ・デル・トロのアクションは新味はないがスピーディーで、エンターテインメントとしては申し分ない。是非シリーズ化して欲しい。
(オフィシャルサイト: http://Showtimes.sonypictures.com)
5.「The Girl Next Door」 B+
(出演: エミール・ハーシュ、エリシア・クースバート、ティム・オリファント)
必見のTVシリーズ「24」で、主人公の対テロリスト工作員ジャック・バウアーの娘キムを演じてブレイクした、エリシア・クースバート初主演のロマンティック・コメディ。マシュー(エミール・ハーシュ)は生徒会長を務め、有名大学の奨学金を目指す堅物の高校生。彼はクースバート扮する隣に越して来たとびきりホットなダニエルにひと目惚れし、ラッキーなことにデートをものにする。だがダニエルが元ポルノ女優だったことから2人の関係はおかしくなり、やがて彼女はポルノ業界に戻ってしまう。内容的にはセクシーコメディと意外にも真面目な純愛物語とが良くバランスしている上に、脚本も最後まで良く練られていて飽きさせない。しかもエリシャ・カスバートはセクシーでキュート。海千山千のポルノプロデューサーに扮するティム・オリファントや、マシューの親友のおたく2人も好演している。トム・クルーズの「Risky Business」と「American Pie」シリーズと「愛と誠」を足して3で割ったような楽しさだ。アメリカのティーンエイジャー達だけに見せておくのはもったいない1作。
(オフィシャルサイト: http://www.thegirlnextdoormovie.com)
6.「Man on Fire」 B+
(出演: デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、クリストファー・ウォーケン、ミッキー・ローク、ラダ・ミッチェル、マーク・アンソニー、監督: トニー・スコット)
A・J・クィネルによる冒険小説の金字塔「燃える男」の映画化。原作では世界屈指の傭兵だった主人公クリーシィのキャラクターが、元政府の暗殺者という設定に変えられてデンゼル・ワシントンが演じる。殺しに疲れて酒に溺れるクリーシィは、メキシコに住む友人(クリストファー・ウォーケン)を訪ねる。そして彼の紹介で、不承不承金持ちの娘ピタ(「I Am Sam」のダコタ・ファニング)のボディガードを引き受ける。ピタの存在は次第にクリーシィの荒んだ心を開いて行くが、ピタが誘拐殺人されるに及び、クリーシィは復讐の鬼と化してかつての殺人マシンに戻って行く。ストーリーは、ピタの身代金要求あたりから原作を離れて二転三転する。デンゼル・ワシントンを意識して物語に深みを持たせたかったのだろうが、成功しているとは言い難い。それでもワシントンの圧倒的な存在感と、上手すぎるくらい上手いダコタ・ファニングは魅せる。また、トニー・スコットが前半の2人の交流を丁寧に描いているので、凡庸なアクション映画とは一線を画す出来には仕上がっている。
尚、クィネルの作品は外れのない傑作揃い。「メッカを撃て」、「血の絆」、「スナップ・ショット」、「イローナの4人の父親」、「パーフェクト・キル」などが文庫化されているので、未読の方にはこの機会に是非一読を薦める。
(オフィシャルサイト: http://www.manonfiremovie.com)
7.「Laws of Attraction」 B
(出演: ピアース・ブロスナン、ジュリアン・ムーア、フランセス・フィッシャー)
ピアース・ブロスナン、ジュリアン・ムーアによる、ケミストリーが働かないロマンティック・コメディ。ダニエルとオードリーは無敵を誇る離婚専門の弁護士。だが、共に弱点はアルコール。2人はロック・シンガーとデザイナー夫婦の離婚訴訟で争うことになるが、アイルランドへ依頼人の所有するお城を鑑定に行き意気投合、酔った勢いで結婚してしまう。この結果、二人が敵味方に分かれて戦う際にトラブルになるし、またへたに離婚をすると、離婚専門の弁護士としての名声に傷がつく。ところが脚本はこのジレンマの面白さをロクに追求することなく、別の解決策で逃げてしまう。話としては幾らでも面白くなり得たのだが…。少し太目のジェイムズ・ボンド=ピアース・ブロスナンは、粗野に見えて根は優しいダニエルをいい味を出して演じているが、ジュリアン・ムーアは完全にミスキャスト。「Boogie Nights」の彼女は菩薩のようなポルノ女優を、「Far from Heaven」では黒人庭師に惹かれるひたむきな人妻を見事に演じて見せた。でもロマコメは駄目、向いていない。
(オフィシャルサイト: http://www.lawsofattractionmovie.com)
次回は、「Van Helsing」を含むサマームービー特集の第1回をお届けする。