今回はまず、10月1日に世紀の大記録を樹立したイチローに心から敬意を表したい。
セントルイス・ブラウンズのジョージ・シスラーが1920年に作った年間257安打の記録を、実に84年ぶりに塗り替えてしまった。およそメジャーリーグの安打に関しては、このシスラーの記録は最も達成困難なもので、ディマジオの「56試合連続安打」と、1941年のテッド・ウィリアムス以来達成されていない「打率4割」に匹敵する。誤解を恐れずに言えば、オリンピックで金メダルを獲るより遥かに難しい。何せ近代野球で安打製造機と呼ばれたピート・ローズ、ウェイド・ボッグス、ロッド・カルー、ジョージ・ブレット、トニー・グイン、リッキー・ヘンダーソンら伝説的なプレイヤー達ですら破れなかった記録なのだ。今回のイチローの新記録は、本コラムの読者よりずっと長生きするはずだ。
いみじくも3年前、イチローが華麗なるメジャーデビューを果たした時にバリー・ボンズが言ったように、イチローにとって日本の野球界は狭過ぎた。彼はメジャーでプレーするために生まれて来たのだ。愛知県生まれの野球の天才が、「素晴らしきアメリカ野球」の頂点を極めた瞬間だった。
以下は今回レヴューするポストサマーシーズン・ムービーの9本。
1. 「Paparazzi」 C
(出演: コール・ハウザー、トム・サイズモア、デニス・ファリーナ、ロビン・タネイ)
メル・ギブソンがプロデューサーに名を連ねる悪趣味なバイオレンス・アクション。アクション・スターの新星ボー・ララミー(コール・ハウザー)は、札付きのパパラッチであるレックス(「Saving Private Ryan」のトム・サイズモア)と対立する。レックスの悪質な嫌がらせにより家族に重傷を負わされたボーは、警察の緩慢な対応に業を煮やし、自らレックス一味へ復讐を始める。チャールズ・ブロンソンの「狼よさらば」('74)の変形だが、感情移入が難しくて爽快感が全く無いのは致命的。実生活でも麻薬所持で逮捕されたばかりのトム・サイズモアは適役で、次第にエスカレートして行くレックスを憎々しく怪演するが、ボー役のコール・ハウザーには人間味がなく、さほど同情心が湧いてこない。本作は俳優仲間以外からは好意的には迎えられないだろう。
(オフィシャルサイト: http://www.paparazzithemovie.com)
2. 「Wicker Park」 B+
(出演: ジョッシュ・ハートネット、ダイアン・クルーガー、ローズ・バーン、マシュー・リラード)
タイトルとなっているシカゴのウィッカー・パークを舞台にした、凝った構成のラブ・ストーリー。広告代理店に勤めるマシュー(「Pearl Harbor」のジョッシュ・ハートネット)は、2年前にひと目惚れしたリサ(ダイアン・クルーガー)が忘れられない。だがリサは突然姿を消し、代わりにアレックスと名乗る女性(「Troy」のローズ・バーン)がリサのアパートに住んでいた。予告編からしてアレックスがリサに成り代わり、マシューに迫るという完全なサイコ・スリラーとして売っている。だがサイコの部分はオブラートで、内容的にはマシュー、リサ、アレックスの3人に、マシューの親友であるルーク(マシュー・リラード)を絡めた複雑なラブ・ストーリーなのだ。若手主演によるヒッチコック作品もどきの趣もあって、悪くない。リサを演じるダイアン・クルーガーは、「Troy」でヘレナを演じた美形のドイツ人女優。次作はニコラス・ケイジと共演する「National Treasurer」で、ちょっと気に入っている。
(オフィシャルサイト: http://www.mgm.com/wickerpark/)
3. 「Cellular」 B+
(出演: キム・ベイシンガー、クリス・エヴァンス、ジェイソン・ステイサム、ウィリアム・H・メイシー)
「Phone Booth」と同じ原作者(ラリー・コーエン)によるアクション・スリラー。LAの平凡な主婦ジェシカ(キム・ベイシンガー)は、突然武装集団に誘拐される。理由も分からないままあばら家に監禁されたジェシカは、そこで壊れた電話を使ってランダムに電話をかけ始める。だが唯一通じた相手は、ビーチで女の尻ばかり追いかけるダメ男のライアン(クリス・エヴァンス)だった。ストーリーは後半目まぐるしく展開するが、結構意外性もあり、破綻しそうでしない。主役の2人に加えて誘拐犯役のジェイソン・ステイサム(「The Transporter」)、引退するベテラン警官役のウィリアム・H・メイシー(「The Cooler」)も適役。サスペンス物と言うより軽いアクション・スリラーだが、最後まで飽きさせない。
(オフィシャルサイト: http://www.cellularthemovie.com)
4. 「Wimbledon」 B+
(出演: ポール・ベタニー、キルステン・ダンスト、サム・ニール、ジョン・マッケンロー、クリス・エバート)
ウィンブルドンを舞台に、落ち目の英国人プレイヤーとアメリカ人スター選手のロマンスを描いた、スポーツドラマっぽいロマコメ。ピーター(ポール・ベタニー)は本大会を最後に引退を決意している、かつて世界ランク11位まで上ったベテラン選手。ところがアメリカの新星リジー(キルステン・ダンスト)と密かにデートをした途端に勝運に乗り、破竹の勢いで勝ち始める、というのが基本ストーリー。本作のハートは「A Beautiful Mind」と「Master and Commander」でラッセル・クロウのパルを演じたポール・ベタニー(実生活ではジェニファー・コネリーの旦那)だ。ちょっと控えめなピーターの愛すべきキャラクターがロマコメとしてはいささか起伏に乏しいストーリーを補って余りあるし、テニスシーンも達者にこなしている。「Spider-Man」のキルステン・ダンストも今がピークで魅力的だ。おまけにウィンブルドンの舞台裏も楽しめて、デートムービーとしては現在これ以上のものはないですね。
(オフィシャルサイト: http://www.wimbledonmovie.com)
5. 「Mr. 3000」 B+
(出演: バーニー・マック、アンジェラ・バセット、クリス・ノース、ポール・ソルビーノ)
これはちょっと嬉しいベースボール・コメディ。ミルウォーキー・ブリュワーズのわがままスター選手スタン・ロス(バーニー・マック)は、3000本安打の大記録(日本では張本勲のみ、メジャーでもピート・ローズ他数人しか達成していない)を達成する。だがスタンはシーズン途中にも係わらずさっさと引退するや否や、”Mr. 3000”をキャッチフレーズにして自分の事業に専念し始める。ところが9年後、念願の野球殿堂入り直前になって、スタンの記録はカウント違いで3000本に3本不足していることが発覚。スタンは残りの3本を打つために渋々47才でカムバックする。バーニー・マックは日本での知名度は低いが、アメリカでは「Bernie Mac Show」で主演する人気黒人コメディアン。本作では傲慢でカリスマのあるスタンを好演する。ゲームのシーンの臨場感は今ひとつで、本物の選手も出演していないが、実在するブリュワーズとスタジアム(ミルウォーキーのMiller Park)を使っているのは嬉しい。我がヒューストン・アストロズも敵役で登場するし、MLBファンには楽しめる。
(オフィシャルサイト: http://Mr3000.com)
6. 「Sky Captain and the World of Tomorrow」 A-
(出演: ジュード・ロウ、グゥイネス・パルトロウ、アンジェリーナ・ジョリー、ローレンス・オリビエ)
監督兼脚本のケリー・コンロンの執念とクラフトワークが結実したレトロ調Sci-fiアドベンチャー。物語は、1930年代のマンハッタンがいきなり無数の空飛ぶ巨大ロボットに襲撃されるシーンで始まる。スカイ・キャプテンの異名を持つジョー(ジュード・ロウ)と事件記者のポリー(グゥイネス・パルトロウ)は、次々と失踪した著名科学者の行方を追って、やがて世界制覇を目論むマッドサイエンティストの組織へ辿り着く。CGによりセピア調に彩られた画面は時に古典SF映画のようでもあり、フィルム・ノワールのようでもあり、後半は「Jurassic Park」や「Indiana Jones」張りの一大アドベンチャーが展開する。またコミックリリーフ的に描かれる、かつて喧嘩別れしたジョーとポリーのロマンスが随所に絶妙のタイミングで挿入される。メカにうるさい映画ファンも暇つぶしの観客も同時に満足させる、贅沢なスーパーエンターテインメントだ。
(オフィシャルサイト: http://SkyCaptain.com)
7. 「The Forgotten」 C+
(出演: ジュリアン・ムーア、ドミニク・ウエスト、ゲイリー・シニーズ、アンソニー・エドワーズ)
またまた「The Sixth Sense」、「The Others」的サプライズを狙って見事に失敗した奇想天外なスリラーが登場(ただしゴーストは登場しない)。ジュリアン・ムーア扮するテリーはNY郊外に住む主婦で、飛行機事故で8才の息子サムを失ったショックから立ち直れないでいる。ところがある日を境に夫(「ER」のアンソニー・エドワーズ)も彼女の精神科医(ゲイリー・シニーズ)も、サムはテリーの想像の産物で存在しないと言い出し、サムの存在を証明する写真や書類も一切消えてしまう。陰謀の気配を感じ取り、逆にサムがどこかで生きていると頑なに信じるようになったテリーは、自分と同様の経験を持つ隣人のアッシュ(「Mona Lisa Smile」のドミニク・ウエスト)と共に、失踪した子供たちを捜し始める。何者かの陰謀なのか、それともテリーの想像の産物なのか、ネタばらしを出来ないので詳しくは書けないが、このストーリーの基本となる心理トリックは良く出来ている。ただ今回は完全にプレゼン(犯人を含めた状況設定)に失敗してしまい、物語の途中で何度も観客の失笑を買ってしまった。その結果最後に明かされる真相に辿り着く前に、既に観客は本作を馬鹿馬鹿しい映画だと思っているので、騙された事が二の次になってしまう。どうにも実に興味深い失敗作なのである。
(オフィシャルサイト: http://showtimes.sonypictures.com)
8. 「Shark Tale」 B
(声の出演: ウィル・スミス、ロバート・デニーロ、ジャック・ブラック、レニー・ゼルウィガー、マーティン・スコセージ、アンジェリーナ・ジョリー)
超豪華声優陣におんぶに抱っこのDream Works製CGアニメ。Whale wash(鯨の銭湯のようなもの)で働く雑魚のオスカー(ウィル・スミス)は、上流階級の仲間入りを夢見るだけのルーザーで、ガールフレンド(レニー・ゼルウィガー)の自分を想う気持ちにも気付かない。オスカーは偶然出会った優しい鮫のレニー(ジャック・ブラック)と結託して”Shark slayer”に成りすまし、一躍ヒーローに祭り上げられる。ウィル・スミス、ジャック・ブラック、デニーロら芸達者たちの吹き替えはそれなりに楽しめて、中でも早口で有名なマーティン・スコセージが吹き替える小悪党のフグのキャラクターが秀逸で、一番笑える。しかし同じ「海底もの」でも昨年Pixarが大ヒットさせた「Finding Nemo」とは、ストーリー、キャラクター、ユーモア、色彩感覚、動画の出来栄え、ともに数段劣るのは明らかで、何よりもストーリーの底が浅過ぎた。一方Pixarの次作は「Monsters,Inc.」チームが放つ「The Incredibles」で、11月公開予定。予告を見る限りこちらは滅法面白そうだ。
(オフィシャルサイト: http://www.sharktale.com)
9. 「Ladder 49」 A-
(出演: ホアキン・フェニックス、ジョン・トラボルタ、ジャシンダ・バレット、ロバート・パトリック、モリス・チェスナッツ)
ボルチモアを舞台に、ある勇敢な消防隊員の人生を謳った感動ドラマ。ホアキン・フェニックス演じるジャック・モリスンは、高層ビルの消火作業中に重症を負い、瓦礫の中に閉じ込められる。生死の境をさ迷いながら、ジャックは新米だった頃の思い出、仲間の死、愛する妻リンダ(ジャシンダ・バレット)との出会いなど、消防士としての自分の人生を振り返る。「The Village」のホアキン・フェニックスは、素朴で等身大の主人公を自然に演じているし、ジャックの上司ケネディに扮するジョン・トラボルタも久し振りに気合が入った演技だ。また、ヒロイズムとセンチメンタリズムをほど良くバランスさせた正攻法の演出にも好感が持てる。9・11から3年が経ち、消防隊員を主人公にした作品を世に問うのに機は熟していたと言える。素直に感動させられる好編。
(オフィシャルサイト: http://ladder49.com)
ここ何ヶ月かは劇場映画を減らしてDVDでテレビシリーズばかり観ている。その内まとめて報告する――かもしれないので期待しないで待っているように。
追伸:
何とヒューストン・アストロズが、162試合目(最終戦)でナショナルリーグのワイルドカードによるプレーオフ進出を決めた。中3日で先発を買って出たロジャー・クレメンスが腹痛のため先発を外れる大アクシデントがあったが、結局継投で守り切り、ロッキーズに5-3で勝利したのだ。ラッキーなことにこの試合のチケットは事前に入手していたので、決定的瞬間を体験することが出来た。今シーズンのアストロズはアクション映画顔負けのジェットコースター・ライドで、最後の2週間は胃けいれんを起こしそうだった。とりあえず良かった、良かった。