***ヒューストン・アストロズ***
わがヒューストン・アストロズは、今シーズン43年間の歴史で最高の成績を残した。だが悲願のワールドシリーズ初出場に王手をかけたナ・リーグ優勝決定戦の第6戦・第7戦でセントルイス・カージナルスに惜敗、涙を飲んだ。ロジャー・クレメンスがカージナルスの4番打者スコット・ローレンに喫した第7戦の決勝2ランは、恐らく
彼の現役生活最後の被安打になるだろう。皮肉なことに、ローレンはワールドシリーズでは全く打てず、このクレメンスからのホームランが今シーズン最後のヒットとなった。メジャー屈指の強打を誇ったカージナルスはレッドソックスの前に一度も勝てずに屈し、歴史に埋もれる身となった。そのレッドソックスは86年ぶりにバンビーノの呪縛から逃れた。ヤンキーズにはこのオフにスタインブレナーによる粛清の嵐が吹くはずだ。そしてアストロズは例年通りヤンキースの3分の1の予算でやりくりする――早く来シーズンの開幕戦が来ないものか。
***フィル・コリンズ***
好きなミュージシャンを挙げろと言われれば、真っ先に頭に浮かぶのは(ジャンルは違うが)クルセイダースとフィル・コリンズだ。で、先月妻と一緒にフィル・コリンズのコンサートへ行って来た。今回の全米ツアーを最後にフルスケールのコンサートはもう行わず、家族と過ごす時間に充てるとのこと。現在53才のコリンズだが、2時間半ノンストップで山ほどある彼のヒット曲を歌い、踊り、ドラムを叩き、ステージを走り回る、パワフルで充実したコンサートだった。コリンズはハリウッドとの関係も深くて、'84年の「Against All Odds」(邦題:「カリブの熱い夜」、レイチェル・ウォードがきれいでしたね)では同名のバラードを提供し、シングルチャートで初の全米1位に輝いた。また爆発的ヒットとなったドン・ジョンソン主演のTVシリーズ「Miami Vice」('84〜'87)にゲスト出演したのもこの頃で、このエピソードは日本で観た記憶がある。初の映画デビューを果たしたのは、実在の列車強盗バスター・エドワーズを演じた「Buster」('84、邦題:「バスター」共演:ジュリー・ウォルターズ)で、本作で使われた”Two Hearts”と”A Groovy Kind of Love”も共に全米チャート第1位(後者は全英チャートでも第1位)となった。更に'99年には「Tarzan」、'03年には「Brother Bear」のサントラを手懸けて、「Tarzan」の主題歌"You'll Be in My Heart"ではオスカーまで手にしてしまった。マイクを持ったときのフィル・コリンズは妙に格好良く、筆者の「クールなハゲ親父リスト」では常にエド・ハリスとトップを争っているのである。
以下は映画秋の陣7本のレヴュー。
1. 「Friday Night Lights」 A-
(出演: ビリー・ボブ・ソーントン、ルーカス・ブラック、デレック・ルーク、ティム・マグロウ)
アメフトを題材にした映画は「North Dallas Forty」、「The Longest Yard」、「Rudy」、「Brian’s Song」、「Any Given Sunday」、「Remember the Titans」など傑作・佳作が多いが、本作はこれらに匹敵する好編。’88年のテキサス州選手権での実話がベースで、無名の町オデッサのパーミアン高校チーム(パンサーズ)の活躍と葛藤が活写される。ビリー・ボブ・ソーントンが扮するゲインズはチームのコーチで、貧しい町の期待を一身に背負ってパンサーズを州チャンプに向けて勝ち進めて行く。だがプロ入りを目指すエース・ランニングバックのマイルズ(「Antoine Fisher」のデレック・ルーク)が怪我で選手生命を断たれた後、パンサーズは連敗の泥沼に入り込む。キャストの演技はどれもリアルでスリリング。ドキュメンタリータッチで描くピーター・バーグ(「Rundown」)の演出により、アメフト以外何も無い町の強烈なプレッシャーに耐えるチームの姿が見事にスクリーンに浮かび上がる。ソーントンの抑えた真摯な演技はオスカー・ノミネーションがあってもおかしくない。また、カントリーシンガーのティム・マグロウがチームのOBでアル中の父親役を好演している。
(オフィシャルサイト: http://www.fridaynightlightsmovie.com)
2. 「Shall We Dance?」 B+
(出演: リチャード・ギア、ジェニファー・ロペス、スーザン・サランドン、スタンリー・トゥッチ)
日本製のオリジナルをハリウッドがリメイクしたロマンティック・コメディ。周防正行のオリジナルは観ていないので比較はできないが、これはこれでかなり楽しめる。シカゴの会計士ジョン(リチャード・ギア)は成功して円満な家庭を持つ中年男だが、少しばかり決まりきった生活に飽きている。ある日ジョンは通勤電車の窓から見かけた娘ポリーン(ジェニファー・ロペス)に魅かれて、彼女がインストラクターをするダンススクールに参加する。一方夫の不審な行動を疑うジョンの妻(スーザン・サランドン)は、私立探偵を雇う。全編を通して明るいコメディタッチにしたのが効いていて、社交ダンスにのめり込む男たちが時に滑稽に、時に格好良く描き分けられている。少し腹がせり出してきたリチャード・ギアが、無理に若作りをしないで自然体に演技しているのは好感が持てるし、スーザン・サランドンはいつも通り魅力的(ティム・ロビンスは幸せ者だぜ)。ジェニファー・ロペスだけが終始暗い演技でしらけさせるが、ダンスは上手い。「(筆者のように)J.Loよりスーザン・サランドンの方がセクシーで好きだ」と断言できる家族持ちの中年男にとっては、完全にメイク・センスするストーリーなのである。
(オフィシャルサイト: http://www.miramax.com)
3. 「Team America: World Police」 C+
(声の出演: トレイ・パーカー、マット・ストーン)
「「South Park」の製作者コンビ、トレイ・パーカーとマット・ストーンによるマリオネットを使ったブラック・コメディ。冒頭Team Americaがテロリストを追ってパリの街を廃墟としてしまうシーンは痛快。「サンダーバード」を思い出させるトランスポーターも楽しめる。だがお楽しみはここまで。キム・ジョンイルを悪役に据えて、アレック・ボールドウィン、ティム・ロビンス、ショーン・ペン、ヘレン・ハントらによる反戦家俳優組合(FAG:Film Actors Guild)を脇役に配したストーリー展開は、期待からはほど遠い出来栄え(それにアクターたちの人形は全然似ていない)。「South Park」のような光るセンスもギャグの切れもなく、当初NC17指定を受けたマリオネット同士のセックスシーンや下ネタのギャグは虚しいのみ。パーカー+ストーンによる映画「South Park: Bigger, Longer & Uncut」を観ていない人は、本作よりこちらを薦める。アニメミュージカル・ブラック・コメディの傑作です。
(オフィシャルサイト: http://teamamerica.com)
4. 「The Grudge」 C
(出演: サラ・ミシェル・ゲラー、ジェイスン・ベア、石橋凌、ビル・プルマン、監督: 清水崇)
清水崇の「呪怨」をいたく気に入ったサム・ライミが、清水本人を監督に起用して作成したリメイクで、興行的には7日間で7千万ドルを超える大ヒットとなった。オリジナルは観ていないが、でもこれ、ちっとも恐くも面白くもない。東京に住む交換留学生のケリー(サラ・ミシェル・ゲラー)が、ソーシャル・ワーカーとしてアメリカ人の老婦人宅を訪問するが、その家は何物かが取り憑いているゴーストハウスだった、というのがストーリー。各ショットは日本人監督らしく丁寧に撮られてはいるが、日本の幽霊がアメリカ人を脅かすという不思議な光景に慣れてしまうと、終始スローでフラットな脚本に飽きてくる。恐くもなく、ユーモアがある訳でもなく、しかも結末にも何の工夫も無い。子役も下手だ。いっそのことサラ・ミシェル・ゲラーにはヴァンパイアを、その恋人役のジェイスン・ベア(TV Sci-fiシリーズ「Roswell」の主役)にはエイリアンをぶつけて戦わせたら面白かったのに―と無茶を言いたくなるほど退屈だ。サム・ライミは既に続編の構想に入ったと聞くが、邦画のリメイクとしては「The Ring」や「Shall We Dance?」の方がずっと気が効いている。
(オフィシャルサイト: http://doyouhaveagrudge.com)
5. 「Ray」 A
(出演: ジェイミー・フォックス、ケリー・ワシントン、レジーナ・キング、監督: テイラー・ハックフォード)
本年6月に他界したレイ・チャールズの半生を、「Ali」、「Collateral」でブレークしたジェイミー・フォックスが完璧に演じきった音楽映画/伝記映画の傑作。ストーリーはレイが生まれたフロリダの極貧地域からの旅立ちから始まり、その天才の開花、結婚、女道楽、ドラッグ、更正が余すことなく語られる。とりわけフラッシュバックで挿入される、幼少の頃にレイが事故で弟を失い、さらに自分の視力をも失うエピソードは感動的だ。伝記映画と言っても全編ユーモア、ヒット曲、キャストの極上演技の連続なので全く飽きさせず、エンターテインメントとしても一級品。終盤は2時間半の上映時間を忘れてこのまま終わらないで欲しいと思わせるほど魅力に溢れている。クラシックピアノ奨学生として大学に進み、R&Bアルバムも出しているジェイミー・フォックスは、若き日のレイ・チャールズ本人としか思えない離れ技的演技で観客を魅了する。本作は間違いなく来年のアカデミー賞主要部門で台風の目となるだろうが、主演男優賞はフォックスで決まりだろう。上映終了後は満員の観客から嵐のような拍手が沸き起こった。本年度必見の1本。
(オフィシャルサイト: http://www.raymovie.com)
6. 「Birth」 C-
(出演: ニコール・キッドマン、キャメロン・ブライト、ダニー・ヒューストン、ローレン・バコール、アン・ヘッチ)
マンハッタンの冬を舞台にした、観客が冬眠してしまいそうなサイコ・スリラー。10年前に夫ショーンに急死されたショックを乗り越えて再婚を決意したアン(ニコール・キッドマン)の前に、自分はショーンだと言い張る10才の少年(キャメロン・ブライト)が現れる。初めはたちの悪い悪戯だと相手にしなかったアンだが、やがて彼女はショーン以外に知り得ない事実を知る少年を信じ始める。本物のリーインカネーションなのか、アンの精神が狂っているのか、あるいは何者かのトリックなのか、という冒頭の興味は、次第に退屈な画面展開のためにどうでも良くなって来る。何の動きもないロングショットの多用、アンを含めて魅力のない登場人物たち(特にアンの再婚相手を演じるダニ―・ヒューストンはひどい)、説得力を持たない結末と、見るべきものはない。漠然と、「まるで退屈なフランス映画を観ているみたいだ」と思いながらうとうとしていたら、エンドクレジットで脚本家の1人がフランス人であることが分かった。若い頃からフランス映画は苦手だった。
(オフィシャルサイト: http://www.birthmovie.com)
7. 「Saw」 B+
(出演: ケーリー・エルウェス、リー・ワネル、ダニー・グローバー、モニカ・ポッター)
ハロウィン・ウィークエンドに観るには絶好の相当恐いショッカー。ストーリーは、理由も分からないまま誘拐されて古びたトイレに監禁された2人の男――外科医のローレンス(ケーリー・エルウェス)と平凡な青年アダム(リー・ワネル)との困惑した会話で始まる。やがてローレンスは、自分がアダムを殺さないと自分とその家族全員が殺される事を知る。犯人は、決して自分では手を下さず、被害者の精神をずたずたにしてから死に至らす天才的シリアルキラーなのだ。本作が数あるB級ショッカーと決定的に違うのは、強引で荒っぽいとは言えストーリーが良く練られていて、起承転結がきちんとしていること。それとカセットテープ、写真、ノコギリなど小道具がふんだんにかつ効果的に使われていることだ。その結果、冒頭の謎から盛り上がるサスペンスが最後まで持続して、結末のツイストまで観客のアドレナリンは上がりっぱなしになる。同時期に公開された「The Grudge」に比べると残虐で品格はないが、新しいアイディアや工夫が散りばめられていて、センスや可能性を感じることが出来る。それに何より古臭い日本製幽霊物より100倍は恐くて面白い。
(オフィシャルサイト: http://www.sawmovie.com)
次回は「Alfie」、「The Incredibles」、「Alexander」、「The Polar Express」を含む、Thanksgiving movie特集だ。