明けの明星が輝く空に

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第24回:脚本家、市川森一
2012年01月06日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】今年は辰年。龍と言えばキングギドラ!でも残念ながら、キングギドラの年賀状など売ってないし、自分で作る技術もない。仕方なく普通の年賀状になった。
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市川森一氏が去年の12月に亡くなった。氏が特撮ヒーロー番組のシナリオ作家だったことを、今回のニュースで知ったという人も少なくないだろう。デビュー作は、ラーメン好きで愛らしい怪獣が騒動を巻き起こす『怪獣ブースカ』。それ以降『ウルトラセブン』、『帰ってきたウルトラマン』、『ウルトラマンA(エース)』の他、やはり特撮ヒーローものである『シルバー仮面』の脚本を手がけている。

この機会に、市川氏の作品を何本かまとめて見た。その中で、一番強く僕の印象に残ったのが、『ウルトラセブン』の第24話「北へ還れ!」だ。そのストーリーのあらましは・・・。

航空機同士の衝突事故を調査するため、ウルトラ警備隊のフルハシ隊員が出動。宇宙人が発する怪電波により、彼の乗った飛行機も操縦不能となってしまう。近づいてくる旅客機との正面衝突を避けるため、フルハシ隊員は自爆装置を起動させる。ところが脱出装置が動かず、絶体絶命の状況に陥った。そこに、基地にいたフルハシ隊員の母親から無線で通信が入る。たまたま田舎から出てきていた彼女には、息子の置かれた状況は知らされていない。フルハシ隊員は母親を心配させまいと、努めて明るく振舞う。一方、怪電波の発信源を突き止めたモロボシ・ダンは、ウルトラセブンに変身し宇宙人の乗った宇宙船を爆破。事件は解決し、フルハシ隊員は無事に帰還した。

10歳で母親を亡くし、継母にいじめられた経験を持つ市川氏は、自らを"家族が嫌いな作家"と呼んでいたという。評論家の切通理作氏は著作『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』の中で、そういったものが垣間見える作品を取り上げて解説している。しかし市川作品の中には、「北へ還れ!」のように、母と子の愛情がストレートに描かれたものもあった。息子に北海道の牧場を継いでもらいたいと願う母と、ウルトラ警備隊を辞める気が全くない息子。物語の冒頭、フルハシは母親が病気だからと妹にだまされ故郷に戻ったが、真相を知り逃げ帰ってくる。そんな彼でも、絶体絶命の状況に立たされた時、思わず口をついて出た言葉は"母さん"だった。

フルハシが帰還した時、母親はすでに基地を去り北海道に帰っていた。少し寂しそうな彼に対しキリヤマ隊長が粋な計らいを見せ、北海道上空のパトロールを命じる。フルハシは、故郷の空に偵察機を飛ばしながらこう言う。"フルハシより本部へ。北海道上空異常なし。夕日がとってもきれいだ。もう一回りして帰る"。そこには、少しでも長く母親の存在を感じていたい、という彼の想いが感じられる。

結局この物語の中で、フルハシ親子が直接会うことはなかった。2人は無線で言葉を交わしただけだ。僕はこの親子に、市川氏自身と亡くなった母親の姿が投影されているように思えてならない。市川氏は少年時代、天国の母親と会いたくても会うことはできなかった。きっと市川少年は、母の顔を思い描きながら、心の中で語りかけることもあっただろう。"お前、いま何をしているんだい"とフルハシの母は息子に尋ねる。市川少年も時に触れ、天国に向かって自分の近況を報告していたのではないだろうか。そしてそれは、成長し脚本家となってからも続いていたかもしれない。

ラストシーン、故郷の夕日を見て感傷に浸るフルハシは、母との思い出の場所を訪れている市川氏自身のようにも見える。かつて市川親子は、夕日を見ながら"きれいだね"と話したこともあっただろう。残念ながら、今となっては、誰もそれを確かめることはできない。でも、天国で再び一緒になれたであろう2人に、あれこれ詮索して思い出話を聞くのも野暮なことだ。他人が踏み込んで行くのが許される部分でもないだろうし。それに、そんな深読みをしなくても、「北へ還れ!」は十分心に響く佳作なのである。