不惑のjaponesa(ハポネサ) ~40歳、崖っぷちスペイン留学~

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第10回:アモール、アモール!
2013年12月20日

【written by 浅野藤子(あさの・ふじこ)】山形県山形市出身。高校3年時にカナダへ、大学時にアメリカへ留学。帰国後は、山形国際ドキュメンタリー映画祭や東京国際映画祭で約13年にわたり事務局スタッフとして活動する。ドキュメンタリー映画や日本映画の作品選考・上映に多く携わる。大学留学時代に出会ったスペイン語を続けたいという思いとスペイン映画をより深く知りたいという思いから、2011年1月から7月までスペイン・マドリード市に滞在した。現在は、古巣である国際交流団体に所属し、被災地の子供たちや高校生・大学生の留学をサポートしている。
【最近の私】職場の同僚から勧められたファイテンのパワーテープの威力に歓喜の声をあげる。肩こりが少し楽になった!
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■" ¿Cuántos años tienes? ¿Tienes novio? (あなた何歳なの?恋人いるの?)"

ある集まりで知り合ったスペイン人のパロマおばちゃんに突然切り出されてドキっとする。それもタバコの吸い過ぎでつぶれかかったようなハスキー声で。

「なにを? ストレートな質問ね」
40歳の留学生であるハポネサ(日本人女性=私)には、単刀直入すぎる質問だ。

「私たちのクラブに青年会があるんだけど、そこは独身男性が多いの。明後日、バルで飲むから、いらっしゃい。せっかくスペインにいるんだから、スペイン人の恋人を見つけなさい」

何とも包み隠さない言葉に説得され、気持ちがグラっとくる。

確かにスペインへ来て1か月が経とうとしていたが、そういえば、男性の影がちらつく気配さえなかった。パロマおばちゃんの言う「クラブ」とは、社会貢献の意識が高い会社の経営者や行政関係者が所属するボランティアクラブのような所だ。私は'お高い感じのするクラブ'と捉えていた。でも、明後日の水曜日は平日だし、宿題を早めに終わらせれば行けるかな-、と軽い気持ちで受けることにした。もちろん、新しい出会いを期待しないでもなかったのだが・・・。

■忍び足
みんなが集まるバルは、私が住むピソがあるサラマンカ地区にあった。治安が良く、レティロ公園に近いこともあり、バルが多かった。ピソの玄関を出た両隣にバル、10歩ほど歩けばバル。その奥の通りにもバルやレストランが並んでいた。目指すバルはその中の一つ。魚介類を専門に扱い、店内のガラスケースにはメルカド(市場)で仕入れたばかりの鮮魚がところ狭しと並んでいた。

おそるおそる扉を開けると、まだ夜7時なのにお客さんで一杯。立ち飲みをしている人の波を抜けて、お目当ての席にたどり着くのは結構大変である。

私を誘ってくれたパロマおばちゃんを見つけた。そこには数人のスペイン人男性も。突然現れた日本人女性に驚いていたようだった。

「これから、まだ若いのが来るから待っててね」

今いる彼らは確かに50代くらいに見える。パロマの言葉には飾り気がなかったので、実は2日前からワクワクしていた私の心に響いた。期待が膨らむ。

30分もすると、クラブの会議を終えた人たちが10人ほど現れた。これまた日本人の姿に驚いていた。

ビジネスパーソンの挨拶ように始めは名刺交換からスタート。彼らはイベリコハムを販売する会社やエネルギー会社の社長だったり、管理職だったりと、それなりの立場だった。その中に一人、スペイン北部のガリシア出身で、私より背が小さく、身体全体を使いエネルギッシュに話す、ノリの良い青年と目が合う。

年は30代。高校では英語教育を受けなかったと言い、英語は片言ではあったが、何とか会話は成立した。メルアドを聞かれて戸惑うが、彼の仲間の手前、顔に泥を塗るのも悪いな-、という日本人らしい優柔不断かつ優しい気持ちが芽生えた。全くタイプではなかったが、教えてしまった。

■仕事<アモール(恋愛)

美味しい魚介類とビールとワインで、すっかりご機嫌な私は、ピソへ帰るとメールをチェック。すると、早速その青年からのメールが。

「君と出会えてとてもラッキーな日だったと思う。会議に出るつもりは無かったのだが...」

と始まり、つい数十分前の出来事を延々と綴っている。締めくくりはこうだ。

「今度はいつ会おうか?」

ビジネスの習慣から即座に反応する癖がついている私は、「では、2日後の金曜日の夜に」とついつい返信してしまった。「じらして数日間返事をしない」など、恋の手ほどき本にあるようなマニュアルなどすっかり忘れてしまっていた。「タイプじゃないし、まっ、いっか」という、これもまた軽い気持ちだった。

それから金曜の夜までの2日間、彼とのメールのやりとりはほぼチャット状態だった。午前中は大学があったためメールを無視していたが、午後に彼のメールに返事をすると、即レスがきた。それが5~6回は続く。

「いくらなんでも、仕事中だろー。集中しろよ」と思うが、私のそんな心配をよそにメールは立て続けにやってくる。仕事よりもアモール(恋愛)か。

そして、金曜日の夜。
ヤツは約束の時間に遅れてやってきた。私は2月の寒空のなか、15分も待たされた。日本だったら即刻帰るのだが、ここはスペイン。心を広くして待つことにした。
ヤツは登場するや否や、遅れた理由を並べ立てる。日本なら「言い訳がましい」とますます嫌われるパターンだが、スペインでは理由を言わないことのほうが失礼になるらしい。

ヤツの選んだ店はガラス張りで、テーブルに置かれたキャンドルライトがロマンチックな雰囲気を演出しているレストランだった。居酒屋や赤提灯に慣れ親しんでいた私は、彼が期待していたであろうよ、「わぁー、ステキ!」というような言葉を言えなかった。ガリシア出身のヤツのことだから、きっとガリシアの家庭料理を堪能できるかもと期待していたのに、残念だなという思いのほうが強かった。

期待したガリシア料理.jpg
期待していたガリシア料理とはこんな感じ。「タコのガリシア風」。

短い留学期間にスペインのすべてを堪能したいという願望が先に立ち、男心を理解しようとしない、自分勝手なハポネサである。待たされたことでやや不機嫌だった私は、それなりの大人の会話をして、後はシンデレラであることを口実に、その日はそれで家路についた。

2回目のお誘いは映画デートであった。スペインの映画館デビューを果たせる!という軽い気持ちでこれまた受けてしまった。でも、彼の期待に応えるような態度は何一つ示さなかったためか、3回目の約束はなかった。

後日、スペイン人男性と結婚した日本人女性Yちゃんが経営する日本食バルで飲んでいると、話題はいつの間にかスペイン人をめぐる恋愛談義に。ガリシア人との出来事を話すと、Yちゃんは驚いた顔でこう言った。

「2回デートを済ませても何も無かったなんて、スペイン人の男にしては珍しいことだよ。よく引っ張れたね~」
「えっ、そうなの?!」
「日本人みたいにベッドインするのに1~2か月かけないよ。1~2回目で大抵ヤッちゃうからね」
「・・・ ・・・」

スペインはカトリックの国。保守的なイメージが強かった私には衝撃的だった。

日本食バル.jpgのサムネール画像
友だちの女子が経営する日本食バル

■熱心なのはいいけどね...

バルで女子だけで飲んでいればスペイン人の男が決まって声をかけてくると、クラスメートのアメリカ人やイギリス人、中国人の留学生みんなが声を揃えて言う。半径50cm圏内にあっという間に近づき、さり気なく触ってくる。そして、巧妙な話術で彼氏がいるか、いないかをチェックするそうだ。

う~ん、確かに。あるスペイン人男性とバルで話していた時、「気功」を習っていると言われ、興味津々だった私は10分くらい施術をしてもらった。その横で彼の友人はこんなことを言っていた。

「こいつは女性に触りたくて、習ってるんだ。いい口実だろう?」

仕事にはあまり熱が入らない男でも、いざ恋愛となるとエンジンは即全開か。そのエネルギーを経済活動に転用すれば、失業率25%(2012年)という状況を少しは改善できるかもしれないのにと思うのは私だけか。

いずれにしてもスペイン人男性と、私がよく知る日本人男性との大きな隔たりがある。ちょっとドキドキしながら、獲物を狙う狩猟民族(スペイン人)と、晴れでも雨でも天気次第と受け身の農耕民族(日本人)の差について思いを巡らせてみるのだった。