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第3回:真夏のお正月〜ダムフアの儀式〜
2013年05月24日

【written by 馬場容子(ばば・ようこ)】東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
【最近の私】2年前にふらりと家にやってきた野良犬ダムちゃんを、正式に我が家の犬として迎えました!予防注射をしたり、家の柵を作ったり、気持ちも空間もリニューアル。いずれ、ダムが登場する日があるかな?.
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4月、ジャスミンの花が咲き始める頃は、旧正月を祝う「ソンクラーン(水かけ祭り)」の季節でもあります。12月末に行われるタイ山岳民族モン族のお正月から始まり、1月には日本のお正月、2月には中国の旧正月(タイには中華系タイ人も多い)、そして夏真っ盛りの4月には「ソンクラーン(水かけ祭り)」があります。

ずっとお正月気分を味わっている気がするのですが、日本人である私にとって、暑いお正月は「どうも気分が盛り上がらない...」のです。

とはいえ、チェンマイで暮らす人々にとってはこれこそが1年のメインイベント。4月に入るやいなや、みんな心ここにあらずといった様子でお祭りの日を心待ちにします。

ソンクラーンは4月の13日から15日まで。日本のお正月のように丸々3日間続きます。

ソンクラーン祭り.jpeg
ソンクラーン祭りで水をかけ合う子供たち

「水かけ祭り」として有名ですが、本来は仏像を清めたりお寺へお参りしたりと、旧正月を祝う様々な精神的な行事があるのです。飲んで食べて、そして何より家族一緒の時間を過ごせることも、多くの人々がソンクラーンを待ちわびる理由の1つです。

その中でも私がいいなぁと思うのは、昔ながらの伝統的行事、「ダムフアの儀式」です。

これは、お年寄りを敬う儀式であり、お年寄りに対する旧年中の感謝や謝罪の気持ちを表す新年の挨拶の意味を持ちます。

ナムホムという香りのする液体と紅花やソンポイの実などをいれた聖水を、タイの伝統的なアルミ製のボールに入れます。それをお年寄りの所へ持って行き、香りのついた聖水をおじいさんやおばあさんの手にかけるのです。おじいさんやおばあさんは祝福の言葉を唱えながら、挨拶に訪れた一人ひとりの腕に白い紐を結び、今度は聖水を頭に降りかけて祝福してくれます。

ナムホムと聖水.JPG
ナムホム(瓶)と聖水。手前に敷きつめた白い小さな花、ジャスミンは、
儀式の時に捧げられる代表的な夏の花。大きな花は季節の花、ガーデニア。

■お母さんからの祝福

今年、彼の実家を訪れた時、久しぶりにこのダムフアの儀式を見ました。

30人近い親族が集まって夕飯の食卓で水入らずの時間を過ごしたあと、お母さんは息子の一人に手を引かれ、真ん中に置かれた椅子に座ります。60歳くらいの親戚のおじさんから小さな孫たちまでの全員が、歳が上の者から順にお母さんの足元にひざまずき、ワイ(両手を合わせること)の姿勢でお母さんから祝福の言葉を受けるのです。

穏やかで、謙虚で、まるで洗礼を受けているよう。だからといって、形式ばったり、堅苦しい感じはなく、たまに笑いも起きたりして。そんな空気感がすごくタイらしい。見ているだけで、凝り固まっていた心のしこりが溶けて流される気分でした。

ただただ騒ぐだけのお正月ではなく、お年寄りを敬い、一年分の感謝や謝罪の気持ちを表す日。人と人とが縁や絆を確かめ合う節目の日。同時に、自分自身を振り返り、新しい年に向けて気持ちを新たにする日。

年長者を敬う気持ちや受け継ぐべき豊かな精神、謙虚な心。
なんだか色々忘れてた。。。

2013年、タイでは仏暦2556年。日本は平成25年。
真夏の異国で味わうお正月でも、心はやっぱり同じ。

ジャスミンの花とナムホムの香りに包まれながら、久しぶりに母に電話しようかなぁと思うのでした。

マライ(花飾り).JPG
タイの花飾り、マライ。仏像や祠に捧げられる。