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第5回:呼び名に見る'タイっぽさ'
2013年07月25日

【written by 馬場容子(ばば・ようこ)】東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
【最近の私】雨季真っ只中。フランス人が自宅で土曜日だけ開くパン屋さんを最近見つけました。クロワッサンが絶品。チェンマイに来た6年前にはこんな美味しいパンはありませんでした!
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タイ人の本名には、サンスクリット語が多く使われているからなのか、とても長く難しい。覚えにくいし、なんせ呼びにくい。

そのためタイ人は生まれた時に皆、"チューレン(あだ名、愛称)"をもらいます。チューレンは動物の名前や花の名前、口語の形容詞やら様々な言葉をもとにしています。

タカテン(バッタ)、ダーオ(星)、ムー(ぶた)、カノム(お菓子)、ヘン(乾燥)、ウアン(おでぶちゃん)などなど。日本でそう呼ばれたらなんだかむっとしてしまいそうなあだ名も、みんなご愛嬌。なんて明るい性格なんだと、タイ人の国民性に感心しています。

あだ名をつけるのは、ただ「本名が長くて呼びづらい」という理由だけではありません。一説には、赤ちゃんが生まれた時、お化けに赤ちゃんの魂を奪われないために、人間の赤ちゃんだと悟られないようなあだ名をつけるともいわれています。

また、昔は「牛など動物の名前をつけることで災厄から逃れることができる」と信じられていたそうです。こんなところにも、かつて繁栄したというアニミズム信仰の名残りが垣間見られます。

写真3 テンモー(すいか).JPGのサムネール画像
「テンモー(すいか)」も人気の高いあだ名の1つ。

写真1 祠.JPGのサムネール画像
家の庭によく見られる祠(ほこら)。アニミズム信仰の名残り。

■ちょくちょく名前を変える?!

さて、先日の出来事。
「またうちの姉ったら名前を変えたよ。何回変えたか分からないから、なんて名前だかわからなくなっちゃうよ。」チェンマイでの暮らしのパートナーである彼がこんなことを言いました。

彼は8人兄妹、5人のお姉さんがいます。彼女たちは人生でいまいちなことが起きたり、失恋したり、体調不良だったりすると、「運をかえるぞ!」とばかりに簡単に名前を変えてしまうのです。

日本で改名する人は稀ですが、タイでは頻繁にあること。お坊さんや占い師、霊媒師のところへ行って姓名判断をしてもらい、運がよくなるような名前をつけてもらいます。

もしくは日本にもあるような姓名判断の本から自分の好きな名前を選ぶこともあります。たとえば、「フルネームのタイ語画数が100画以上が運が良い」などといった感じです。

彼の一番上のお姉さんは1回改名しているので、親からもらった名と合せて2つ名前が存在します。二番目も同様に2つ、三番目は2回変えているので3つ、四番目は3回なので4つ、五番目は2回なので3つ・・・。

5人の姉妹に14の名前があるわけです。確かに分からなくなってしまいます。

親からもらった名に執着することより幸運に希望を託して名前を変えてしまう気軽さと大らかさ。初めて知った時はびっくりしましたが、これも私の好きなタイっぽさの1つです。


写真2 名前占いの本.JPG
タイ人の必需品(!?)。名前占い(姓名判断)の本。

■存在感が薄い「苗字」

タイ人にとって一番馴染み深い呼び名はあだ名、次に名前、意外なことにもっとも馴染みの薄い存在が苗字なのです。

タイに名字法ができたのは今からちょうど100年前。みんなが苗字を持ちはじめてからの歴史が浅いわけですから、それも当たり前なのかもしれません。

日本では鈴木さんや佐藤さんなど同姓の人が沢山存在しますが、タイでは同じ姓というのはめったにありません。むしろ他人と同じ姓を持つことを避ける傾向にあるそうです。

また、結婚した時に男性方の姓を名乗っても女性方の姓を名乗ってもいいし、それぞれの苗字そのままでもいいのです。さらには新たな苗字を作ることもできます。

存在感が薄いからこそ自由に選べる苗字。結婚しても名前を変えなくていいと聞いた時は「なんて進んでる国なんだろう」と感心しましたが、実は、その背景には姓名にこだわりのない文化と人々の自由な気質があったのです。


写真④ ファーン(シダ).JPG
「ファーン(シダ)」もあだ名によく用いられている。