気ままに映画評

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2004年7月 アーカイブ

「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」

××なオトナには、ちょっと難解?
「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(全国で公開中)

by Mihoko Yamamoto

"果たして、このスピーディーな展開を、子供たちは理解できるのか?"――大人気シリーズの3作目となる「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」を観終わった時、ちょっと心配になった。

実は、2作目の「ハリー・ポッターと秘密の部屋」でも湧き上がってきた疑問があった。それは、"このおぞましい映像を、子供たちに見せていいのか?"というものだ。襲いかかってくる無数の凶暴な巨大蜘蛛たち、蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛...。思わずスクリーンから目を背けてしまったのは、私だけではないはずだ。その夜、「映画を観た子供たちは、あの映像がまぶたの裏に焼きついているだろうなぁ。夜泣きしてないかなぁ」と、心配になった。何を隠そうベットで泣きそうだったのは、私の方だったのである。

さて、3作はどうか。恥ずかしながら2作目の時と同様に、私は、子供たちの心配をしている場合ではないのである。ストーリーを完全に理解できなかったのだ。原作を読んでいないからだろうか? いや、原作を読まなければ理解できない映画なんて、あったらいけないのだ。もちろん、製作者だってそう思っているはず。誤解のないように言えば、映画全体としては、決して複雑な構成ではない。そう感じるからこそ、「マトリックス」シリーズのように、「この世界観は説明なんてできないよ。でもまぁいいや!」とまで諦めきれないし、開き直れない。

後でじっくり考えて気づいた。鍵となるシーンの字幕の1、2枚を見過ごしてしまったのが、最大の原因だったのだ。オープニングから息をもつかせない奇想天外な事件の連続、スピーディーにリズム良く展開する物語。観客は否応なくその世界に引き込まれていく。しかし、あまりの急な展開に、私の理解力は追いつかない。「えっ?待って待って。それってつまり、えっとーっ...」。脳みそがオーバーヒート寸前になる。そんな一瞬に、後から考えてみれば、物語を読み解く鍵となる大事なフレーズの字幕が、サラリと流れていたのである。

そのことに気づいたのは、終演後に興奮が冷めて、いっしょに観た連れと話し合っている時だった。連れというのは、普段は映画の細かな部分までもチェックする人。ヴィン・ディーゼル主演の「トリプルX」を観た時などは、「潜水艦の名前の字幕、間違ってたよ。あれは小説「白鯨」をもじってるんだから'アハブ'じゃなくて'エイハヴ(船長)'だよ」なんてツッコミを入れるほどだ。なのに、今回は私と同
じように混乱して、私とは別のところで字幕を見落とすミスを犯していた。お互いが勝手に、違うようにストーリーを解釈していたから、「理屈が合わないねーっ」なんて話していたのだが、二人の記憶をつなぎ合わせると、それなりに筋が通ってきたのである。

素直な感想を問われれば、「最高に面白かった!」としか言いようがない。ジャンルは異なるが「マトリックス」シリーズや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのように、「つながりや関係性がわからない部分もあるけど、まっ、いいか!」といった感覚で楽しんだ方がいい映画は、最近多いような気がする。もちろん、原作をじっくり読み込んでいる人なら、また違った楽しみ方ができるだろうし、そうでなくても、
想像力豊かな子供たちなら、字幕を見逃そうと何だろうと、大いに興奮し、夢を広げることができるだろう。そんな心配をしたくないなら、始めから思い切って「吹き替え版」を選ぶ、という手もある。'映画好きのオトナ'ならではの「何が何でも字幕版。映像も字幕も、端から端まで理解してやろう」という先入観が、この映画の楽しみ方には合わないのかもしれない。

シリーズ3作品の中でも最高傑作と評判の高い本作である。 細かな展開を理解し切れなかったとしても、ワクワク・ドキドキできることは間違いない。終演後のロビーでは、おそらく「吹き替え版」を観たのであろう小学生の男の子5人組が、グッズやパンフレットをうれしそうに買い求めていた。そう、楽しければいいのだ、このシリーズは! (2004.7)

山本美穂子●やまもと みほこ
映像翻訳者。2002年、日本映像翻訳アカデミー・実践コース修了。主な作品にアニメ「スポンジ・ボブ」(吹き替え)、情報番組「ビデオファッションNews」など。