気ままに映画評

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2007年11月 アーカイブ

『プラネット・テラー in グラインドハウス』by 山田裕子(2007年4月期基礎Iコース修了)

最も過激で最もやさしい女性映画


ロバート・ロドリゲスが実は「女性にやさしい映画」を作る監督だったことに、この映画を観て初めて気がついた。血と内臓がこれでもかと画面を飛び交う中、ひとクセもふたクセもあるキャラクターが繰り広げる荒唐無稽なこのアクション劇を見て、世の映画評論家たちは、間違ってもこの映画を女性にはオススメしないだろう。しかし私はこの映画で不覚にも涙してしまった。あまりのバカバカしさにお腹がよじれるほど笑って出た"笑い涙"であると同時に、ロドリゲスに対する、女性としての"感謝の涙"でもあったのである。そういえばロドリゲス監督作品で、同じく人が死にまくるおバカアクション&スプラッター満載映画「フロム・ダスク・ティル・ドーン」でも、ジュリエット・ルイスがいい味出してたなぁ...。
「プラネット・テラー」のヒロインであるゴーゴーダンサーのチェリーは、恋人と別れたばかり。毎夜のショーで得意のダンスを披露しても、劇場の支配人にはちっとも気に入ってもらえない。ゾンビとの死闘が始まるその日まで、惨めでちっぽけな自分の存在を嘆く日々を送っていたのである。シチュエーションこそ違え、この種の焦燥感は女性なら誰もが一度は味わったことがあるのではないだろうか。やがてゾンビに片脚を食いちぎられながらも絶望することなく、義足代わりにマシンガンを装着して戦い続けるチェリー。そんなあり得ない状況の中で命をかけて奮闘するヒロインを、私たちはいつしか心の底から応援するようになる。ロドリゲスはそういう私たちの思いに、最高にハチャメチャな、そして最高に爽快なエンディングで応えてくれるのである。そんなわけで私は、恋に仕事に悩みつつ、愛されメイクと可愛い巻き髪でがんばっている女性たちにこの映画をオススメしたい(ただし、スプラッター系ホラーもケラケラ笑って見られるたくましい女性に限る!)。理想どおりにいかないことばかりの日ごろの鬱憤を、チェリーがマンガンでブッ放してくれるに違いない。

『プラネット・テラー in グラインドハウス』by 湯原史子(2006年4月期実践コース修了生

"本気の遊び心″満載、ロドリゲスワールド!


「デス・プルーフ」に続き、「グラインドハウス」に欠くべからざるもう1本の"片割れ"映画が公開されました。その名も「プラネット・テラー」。
ロバート・ロドリゲス監督が、B級映画に対する生真面目なまでの思いを惜しみなく注ぎ込んだ作品となっています。存在しない映画の予告である「ニセ予告編 ( fake trailer)」で始まったり、映画の途中で画面が突然暗転し「この場面のフィルムを一巻分紛失」と人を食ったテロップを出したり、当時を知らない人でも70年代アメリカ映画のいかがわしい雰囲気を味わえる作品になっています。
劇場で見る予告編は本編鑑賞前の心のウォームアップに必要不可欠なものですが、ニセ予告編で70年代アメリカの安劇場的雰囲気を作り出すという粋な計らいには嬉しくなりました。ロドリゲス映画の常連ダニー・トレホを主演に据えた「マチェーテ」というアクション映画の予告編は、思わず公開日を調べてしまいそうなくらい"いかにもありそう"なリアルさで、出色の出来栄え。
主人公カップルも、"まっとうな"B級映画の香りが漂うツボを突いたキャスティングでした。先日ロドリゲス監督がヒロインを演じた女優と婚約したことを知った時も、監督がこの映画へ抱く気持ちの深さと愛情を改めて感じたものです。内容はといえば、デス・プルーフをはるかに上回る過激な映像が満載。ギターケース仕込みのマシンガンを世に出したロドリゲス監督の面目躍如とも言うべき、脚に装着されたマシンガンによる乱射シーン壮観のひと言です。予想通りのありがちな展開も、予想を超えた仰天シーンもすべて観客を楽しませようというサービス精神に溢れていて最後まで目が離せません。
「グラインドハウス」は夢の競作です。願わくは池袋の新文芸座や上野のスタームービーといったような老舗の名画座のシートに身を沈め二本立てで鑑賞できれば、タランティーノ、ロドリゲス両監督ファンにとって至福の時となるのではないでしょうか。

『プラネット・テラー in グラインドハウス』by 鈴木純一(2006年4月期実践コース修了生)

炎の映画監督、ロバート・ロドリゲス


ロバート・ロドリゲスは器用な監督だ。犯罪映画がホラー的な展開を見せる「フロム・ダスク・ティル・ドーン」、そして「スパイキッズ」みたいなファミリー向け映画まで、様々なジャンルの作品を撮っている。それはロドリゲスが実にたくさんの映画を観てきて、好きな映画も多種多様な時代やジャンルに渡っていたためだろう。だから映画監督になってからも、常に異なったスタイルの作品を撮り続けているのではないかと思う。そんな彼の最新作「プラネット・テラー」は、ホラー映画への情熱のありったけを注ぎ込んだ作品である。
物語の舞台はテキサス。化学兵器で人間がゾンビに変身し、生き残った人々を襲い始める。次第に追い詰められた主人公たちが取った行動とは...。
「28日後...」「ドーン・オブ・ザ・デッド」以降、ホラー映画には動きの素早いゾンビが登場するようになった。しかし本作では、ゆっくり歩く昔ながらのゾンビが登場する。おそらくロドリゲスは、ジョージ・A・ロメロ監督作「ゾンビ」に出てくるような古典的なゾンビ映画を再現しようとしたのだろう。しかもゾンビが銃で撃たれる場面は必要以上にやたらと血しぶきの量が多い。明らかにこれは、ホラーマニアへの"大出血サービス"だ。
「プラネット・テラー」にはクェンテイン・タランティーノ演じる変態兵士や、ある"モノ"を収集する科学者など、常軌を逸した特異なキャラが登場する。しかし何と言っても極めつけは"片脚マシンガン・レディー"だろう。「死霊のはらわた2」のように、失った腕に武器を装着するキャラは過去の映画にもいたが、脚に銃を装着させたケースはほとんど前例がない。美女が脚に装着したマシンガンを撃ちまくる場面は壮快で、文句なくカッコいいのである。オープニングのノリのいい音楽から始まり、美女、ゾンビ、血しぶき、爆発、そしてマシンガン!荒唐無稽でくだらないが、ホラー映画ファンには大満足なエンターテイメントである。ロドリゲスには、これからも映画への情熱の炎を燃やし続けてほしい。こんな"マジメにふざけてる映画"を撮れるのはロドリゲスしかいないのだから。