気ままに映画評

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2010年7月 アーカイブ

腹を抱えて笑えるか!? 最新コメディ映画2本の予告編
『ゾンビランド』&『ハングオーバー! 消えたハナムコと史上最悪の二日酔い』


日本初!? 劇場公開映画の"予告編"を斬るコラム

明日に向って観ろ!



Text by Junichi Suzuki (鈴木純一/映画コラムニスト)


自分が映画を観るようになったのは80年代の半ば、まだインターネットがない時代だった。公開作の情報を得る手段といえば映画情報誌の記事や新聞の広告、映画館に置いてあるチラシくらい。本編上映前の"予告編"もあるにはあったが、予告編の上映中はまだ席についていない人もたくさんいて、さほど重要視されていなかった。内容も主役が登場するシーンをつないだ程度のものが多かったと思う。

ところが今はどうだ。予告編の良し悪しで観客の入りが変るとまでいわれ、配給会社はその製作に膨大な予算をつぎ込んでいる。本編撮影に先んじて予告編専用のシーンを撮ることさえあるそうだ。そんな風にして世に放たれる予告編たちは、脇役でありながら観客の目を釘付けにし、時にはその後の本編より強い印象を与えることもある。最近は劇場でだけでなく、インターネットを通じて誰もが気軽に楽しむようになった。

もはや予告編は1つの"作品"だ。ならば予告編を独立した完成形と見立てた論評があってもいいと思った。このコラムは、本編を観る前に気になった予告編を取り上げ、その印象から本編の出来などを好き勝手に想像しながら論じるものだ。

なお、実際に本編をご覧になった皆さんの感想がこのコラムの論評とズレていても、当局は一切関知しない......。





腹を抱えて笑えるか!? 最新コメディ映画2本の予告編
『ゾンビランド』&
『ハングオーバー! 消えたハナムコと史上最悪の二日酔い』
コメディ映画を観に劇場へ走れ!でもゾンビはゆっくり歩け!

現在、日本の映画館では邦画と洋画を併せて1年間に800本近い映画が公開されている。劇場公開以外にもDVDストレート(日本で劇場公開を経ずにDVD化される作品)の映画もあるから、1年間にリリースされる映画の本数はもっとすごい数になる。とはいえ、海外では大ヒットしたにもかかわらず、日本ではなかなか劇場公開されない洋画がある。それはコメディ映画だ。ヒュー・グラントやサンドラ・ブロックが主演しているメジャーな映画を除けば、コメディの多くはDVDストレート。そうした中、今回選んだのは劇場公開に漕ぎ着けることができた貴重な作品である。

まずは、アメリカでは大ヒットした『ゾンビランド』の予告編から。
その前に「ゾンビ」について簡単におさらいしておこう。ゾンビとは、死から蘇った生ける屍のこと。人間を襲い、噛まれた人間もまたゾンビになる。それにしてもなぜ死んだ人間がゾンビになるのか?
ゾンビ映画の古典といわれる『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)では、放射能が原因で死体が蘇ったのでは?という説明があった記憶がある。とはいえ(まぁ、細かいことはさておき、とりあえず死体が生き返ったんだな~)と大らかな気持ちで見るのがゾンビ映画の作法だ。そんなざっくりとした設定から生まれたジャンルだからなのか、最近はホラーというよりコメディに位置付けられるゾンビ映画が多い。例えば30代のダメ男が主人公の『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)。ゾンビをペット代わりにするというおバカな設定の『ゾンビーノ』(2006年)。これらはホラー嫌いの人にもオススメできる。邦画でも哀川翔と浅野忠信が主演の『東京ゾンビ』(2005年)がありましたね。

では『ゾンビランド』の予告編を見てみよう。
「ここはもはやアメリカ合衆国ではない。ゾンビ合衆国(ランド)である」とナレーション。いきなりゾンビが人間を襲い、ゾンビたちに追われる人間たち......。

ここでストップ!!!(Webの予告編は本当に止められて便利である)

あぁ、ゾンビが走っているなあ。

ご存知だろうか。ゾンビ映画マニアは、"ゾンビはゆっくり歩いてほしい派"と、"腐った肉体に鞭打って元気に走り回るゾンビがいてもいいじゃないか派"に二分され、激しい議論が繰り広げられていることを。(どこで?)

『ゾンビ』(1978年)などの初期の作品では、ゾンビはゆっくりノロノロと歩いていたものだ。『バタリアン』(1985年)では走るゾンビが出ていたが、『28日後...』(2002年)や『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)など比較的最近の作品から全力疾走するゾンビが多く出現するようになった。

ゆっくり歩くゾンビを描き続ける巨匠、ジョージ・A・ロメロ監督の『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(2007年)にはこんなセリフがある。

「死体が走ったら脚の関節がちぎれるだろ!」

その通りである。ゆっくり歩く派の僕にとっては、(裏)映画史に残る名ゼリフである。だって死体が走ったら、パニック映画の暴動シーンと変わらないでしょう?「ゾンビなんてノロマだから大丈夫だ」と油断しているやつらが、いつのまにか無数のゾンビに囲まれてガブリ!が、ゾンビ映画の不条理であり、恐ろしさだと信じているからである。 
 
予告編には、

「ゾンビ映画 全米歴代興行収入史上NO.1!」

のテロップ。
ちなみにこれまでのゾンビ映画全米NO.1ヒット作品は先述の『ドーン・オブ・ザ・デッド』である。

生き残ったのは、胃弱の引きこもり童貞少年。童貞少年を演じるのは、家庭崩壊コメディ『イカとクジラ』(2005年)のジェシー・アイゼンバーグだ。もう一人のタフなガンマンを演じているのは『2012』(2009年)のウディ・ハレルソン。
ウディ・ハレルソンって、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)とかもそうだけど、カタギの役ってあまりないような気がする。そして詐欺師の姉妹を演じるのは、青春コメディの傑作と言われる『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年)のエマ・ストーンと『私の中のあなた』(2009年)のアビゲイル・ブレスリンだ。

彼らが目指すのは、ロサンゼルスにある「パシフィックランド」。そこにはゾンビはいないらしい。パシフィックランドってディズニーランドのことか?

面白いのが"ゾンビの世界で生き残る32のルール"。「トイレにご用心!」とか、「二度撃ちでトドメをさせ!」とか。「二度撃ち」は、ゾンビは脳を破壊されると動かなくなるから、頭を二度撃っておけという意味だろう。32って他にどんなルールがあるのか知りたくなった。

そこはゾンビに囲まれた救いなき世界のはずなのに、予告編はコメディ的な描写で最後まで明るく突っ走っている。ホラー映画が苦手な人でも楽しめる映画になっているはずだ。

よって「ゾンビとコメディ映画好き」にとって、前売り券を買っておきたいレベルは★★★★★である(★五つが満点)。


    *   *   *   *   *   *   *   *   *


次は『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』の予告編だ。

やたら長い邦題であるが、この映画が劇場公開に至った経緯にふれておこう。ゴールデングローブ賞では作品賞(コメディ・ミュージカル部門)を受賞し、アメリカではコメディ映画史上最大のヒットを記録したものの、日本では劇場公開されず、2010年3月にDVDリリースされる予定だった。ところが、「劇場で公開されるべきだ!」というファンの声が高まり、劇場公開を求める会の発足に至った。ネット上での署名運動の結果、ついに劇場公開が実現したという珍しい作品である。
因みに、同じように映画ファンの署名運動で劇場公開された作品では『ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2007年)がある。

かく言う僕自身も『ハングオーバー!』の署名に参加した1人なので、劇場公開は嬉しいかぎりである。だってコメディ映画は大勢で観た方が盛り上がって面白いに決まってるから。
 
まずは「結婚式を2日後に控えた新郎ダグは、悪友3人とドンチャン騒ぎの旅へ」とのナレーション。
悪友の3人を演じるのは、『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(2010年)に出演しているブラッドリー・クーパー、『ナイトミュージアム2』(2009年)のエド・ヘルムズ、そして『マイレージ、マイライフ』(2009年)のザッカリー・ガリフィナーキスである。そしてダグと悪友たちが向かったのはラスベガスだ。

結婚式前に新郎と男友達が大騒ぎすることを"バチェラー・パーティ"という。バチェラー・パーティを描いた映画ではトム・ハンクスの『独身SaYoNaRa! バチェラー・パーティ』(1984年)や、クリスチャン・スレイターとキャメロン・ディアスが共演でブラックジョーク連発の『ベリー・バッド・ウェディング』(1989年)などがある。

男たちだけのパーティは楽しい夜になるはずだったが・・・待っていたのは史上最悪の二日酔い(ハングオーバー)だった。朝、ホテルで目覚めると、そこにはなぜかニワトリがいる。焼け焦げたソファ。そして本物のトラが部屋を歩き回っている!

さらに...なぜか赤ん坊が!誰の赤ん坊なんだ?

なのに新郎のダグがいない。結婚式は明日なのに......。悪友のズッコケ3人組は、新郎を探そうとするが、酒の飲みすぎで何も覚えていない。

僕もお酒は好きですが、ここまで記憶を失ったことはございません。酒飲みの映画といえば、ルトガー・ハウアー主演の『聖なる酔っ払いの伝説』(1988年)や、ニコラス・ケイジがアルコール依存症の男を演じてアカデミー主演男優賞を受賞した『リービング・ラスベガス』(1995年)を思い出すが、そんな2人にも「お前ら飲み過ぎだろ!」とさじを投げられそうだ。

一向に見つからない花婿。そして結婚式は5時間後......。 

予告編の最後にはマイク・タイソンが登場する。もちろん、タイソン本人役で。なぜ「もちろん」なのか? だって彼、『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006年)でも本人役だったし。きっとハリウッドには「マイク・タイソンへの出演オファーは本人役に限る」というルールが存在しているんだと思う。

とにかくすごく面白そうでしょ?7月3日から公開...って、もう公開中だ!
というわけで、「(署名運動に参加した人もしなかった人も)映画館に向かって走れ!」レベルは★★★★★!




今回注目した予告編
『ゾンビランド』と『ハングオーバー 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』



★『ゾンビランド』
監督:ルーベン・フライシャー
出演:ウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、
アビゲイル・ブレスリン、エマ・ストーン
制作国:アメリカ
2010年7月24日より公開
公式サイト:http://www.zombieland.jp/



★『ハングオーバー 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
監督:トッド・フィリップス
出演:ブラドッリー・クーパー、ヘザー・グラハム
制作国:アメリカ
7月3日より公開中
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/thehangover/

アンジェリーナ・ジョリー主演映画『ソルト』
冷酷無比なスパイか? ただの哀れな女か? イヴリン・ソルトの正体に迫る!    

  
                                                   Text by 松澤友子

ソルト_チラシ裏.jpg7月27日(火)、アンジェリーナ・ジョリー主演のアクション・サスペンス「ソルト」のジャパンプレミア試写会に行ってきた。

このジャパンプレミアでは、本編の上映前に、レッドカーペットにアンジェリーナ・ジョリーが登場。同日昼間に行われた記者会見では黒のパンツスーツだった彼女だが、レッドカーペットでは黒のドレス姿で登場。背中が大きく開き、太ももの付け根から深いスリットが入った黒いドレスは、彼女のスタイルの良さを際立たせていた。

また装いのみならず、ドレスに身を包んだアンジーの立ち振る舞いは、女性らしい優しさと、気品に満ち溢れていた。彼女を直接見るのは初めてだったが、そのキラキラしたオーラに、思わずうっとりとしてしまった。


レッドカーペット上でのファンサービスが終了すると、いよいよ舞台挨拶だ。アンジーが登場するやいなや、会場からは黄色い歓声が上がった。舞台上でのインタビューでは、「今回の作品は、これまでのファンタジー色の強いアクション映画とは異なり、現実世界でのストーリーだったので、よりタフで激しい作品に仕上がっている」とコメントし、今回の役柄を演じるにあたり、実際に女性スパイに会って話を聞いた、というエピソードも話した。

本編はアクション・サスペンスと言うだけあり、謎めいたストーリーの中に、激しいアクションシーンが満載。ソルトは本当にロシアのスパイなのか? 彼女の真の目的は一体何なのか? 物語が進むにつれ、この謎が少しずつ明らかになっていく。が、二転三転するストーリーは、驚きの連続で、観る者に息をつく暇すら与えてくれない。そしてもちろん、アクションも見どころの1つ。1時間40分という本編では終始、体当たりのアクションシーンが続く。特に、逃亡を試みるソルト(アンジェリーナ・ジョリー)が高層マンションを壁伝いに移動するシーンでは、手に汗を握りつつも、彼女のしなやかな動きに魅了された。

激しいアクションが続く一方で、女性スパイの内面の描写も印象的だ。冷徹なスパイではあるが、そこにいるのは生身の女性。過酷な訓練に耐え、強靭な肉体と精神を手に入れても、繊細な心は失っていない。相手に危険が及ぶことを承知の上で、人を愛してしまうこともある。自分の任務を全うするために、必死に感情を押し殺すソルトの姿からは、強さと同時に「ただの1人の女である」という儚さを感じた。

複雑なストーリー展開やアクションに加えてアンジーの美しさに魅了され、あっと言う間に過ぎ去り充足感に包まれた1時間40分だった。

アンジェリーナ・ジョリー主演映画『ソルト』
一流のクリエイター陣が生み出したアクション大作を見逃すな!

                                                   Text by 鈴木純一

ソルト1.jpgCIA職員であるイヴリン・ソルト(アンジェリーナ・ジョリー)は、突如現れた謎の男の密告でロシアのスパイだと疑われてしまう。追跡を逃れるため、ソルトは知力と体力を駆使し、トラックの屋根に飛び乗り、ビルの壁をよじ登って窮地を切り抜けようとする...。

ここから物語はハイスピードで展開していくが、ソルトの目的は終盤まで明かされないため、最後まで緊張感が持続する映画になっている。

撃たれても立ち上がり、爆発に吹き飛ばされても戦い続ける主人公の姿は、観る者にも痛みが伝わってくる。また実際、激しいアクションのためにアンジェリーナ・ジョリーは負傷しながら撮影を続けていたそうだ。

しかし『ソルト』の魅力は、アンジェリーナ・ジョリーの熱演だけではない。本作品は、優秀なクリエイター陣が周囲を固めているのだ。

監督のフィリップ・ノイスは『パトリオット・ゲーム』などの作品をはじめ、アクションを得意としている人物なので、『ソルト』の演出には適任だ。また、脚本を書いたカート・ウィマーは監督もこなす才人で、これまでにも『リベリオン』(隠れたアクション映画の傑作)や『ウルトラヴァイオレット』といった作品において、たった1人で巨大な組織と戦う主人公の姿を描いてきた。これは、孤独に戦う設定の主人公『ソルト』と共通している。

さらに本作品の息もつかせぬ展開に貢献した人物として、編集のスチュアート・ベアードの存在も大きい。ベアードは『リーサル・ウェポン』、『ダイ・ハード2』の編集を手がけたベテラン編集者で、ハイジャック・サスペンスの秀作『エグゼクティブ・デシジョン』の監督も務めている。

『ソルト』はアンジェリーナ・ジョリーの体当たりの演技と、数々のアクション映画を手がけてきたクリエイターたちが結集し、生み出した秀作なのだ。これで面白くないわけがない。優れたアクション大作は、大画面で観なくては作品に対して失礼にあたる。『ソルト』は、ぜひとも劇場で観ることをお勧めする。