気ままに映画評

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2010年8月 アーカイブ

ジャッキー ファンは必見!
最強の師弟愛が織りなす 新『ベストキッド』

                                                Text by 鈴木純一

id221-1.jpg『ベスト・キッド』は1984年に製作された同名作品のリメイクだ。オリジナル版をリアルタイムで体験した者としては、最近流行のリメイクの1本かと思って観たのだが、結果は予想を上回る面白さだった。基本的なストーリーはオリジナル版とほぼ同じ。違うのは舞台がカルフォルニアから北京になり、主人公が習うのが空手からカンフーへと変更された点だ。


主人公のドレ(ジェイデン・スミス)は、父親を亡くし、新生活を求めて北京に移り住む。新しく始まった北京の生活で、彼はカンフーを習う乱暴な少年チョンのいじめにあう。いじめに苦しむドレは、カンフーの達人であるアパートの管理人ハン(ジャッキー・チェン)にカンフーを教えてくれと頼むのだった。その後、ハンの特訓を受けたドレとチョンは、カンフーのトーナメントで対決することなる......。


ハンから特訓を受けられることになったものの、ドレはいつまで経っても訓練させてもらえず、ひたすら上着を脱いで棒にかけ、それを取って着る動作を繰り返させられる。この場面は、オリジナル版で主人公がひたすら車のワックスがけをさせられるシーンの再現だ。やがて、上着を脱いで棒にかける何気ない動作がカンフーの技につながると分かる。この展開はオリジナル版と同じなのだが、観ていて思わず心が高揚する名場面だ。実は、ワックスがけから、上着の着脱に変更したのは、ジャッキー本人からの提案によるものだという。


30年以上アクション映画に出演してきたジャッキー・チェンだが、今回は師範役ということで得意のカンフーを封印し、俳優として新たな一面を見せている。悲しい過去を持つハンはドレと出会い、人生に希望を持とうとする。一方、父親のいないドレはハンと出会い、大切なことを教えてくれる師範を得る。映画の中で、この擬似的な親子関係が、より顕著に表れるシーンがある。


id221-2.jpgトーナメントを順調に上り詰めていくドレ。ところが因縁のチョンとの決勝戦を目前に、卑劣な選手の反則行為により、大怪我を負わされてしまう。急遽医師の診察を受けるドレ。そこで医師に棄権するよう勧告される。それでも闘うことを主張するドレ。そんなドレに対し、ジャッキー演じるハンが反対し、こう言うのだ。

「もうこれ以上、君が傷つく姿を見たくない ――」

まさに、師匠ではなく、父親としての顔が現れた瞬間だ。しかし、これに対しドレは、なおも闘いの続行を主張する。そこでハンは問う。

「もう十分、君の強さは見せられたはずだ。なぜ、そんなに闘いたいのか」この問いに対するドレの答えはこうだ。


「まだ僕の中に、彼(チョン)を怖いと思う気持ちがあるからだよ。」



これまでの特訓を通して、闘っていたのはドレだけではない。ハンもまた、人生に立ち向かい、己に打ち勝つべく闘っていた。このシーンは、これまで教える立場にあったハンが、初めてドレから「闘いの本質」を教えられた場面だ。

「真の強さとは何か?」本作は、観る者に強烈なメッセージを訴えかけている。


オリジナル版へのリスペクトも忘れず、新たなアイディアを加えて生まれ変わった『ベスト・キッド』。親子で観ても楽しいし、友人同士で観ても面白い。誰が観ても満足できる映画だ。オリジナル版を観たという人も、観ていないという人も、ぜひとも劇場に足を運んでほしい。

熱き男たちが活躍する映画2本の予告編
『ヤギと男と男と壁と』&『エクスペンダブルズ』

日本初!? 劇場公開映画の"予告編"を斬るコラム

明日に向って観ろ!



Text by Junichi Suzuki (鈴木純一/映画コラムニスト)


自分が映画を観るようになったのは80年代の半ば、まだインターネットがない時代だった。公開作の情報を得る手段といえば映画情報誌の記事や新聞の広告、映画館に置いてあるチラシくらい。本編上映前の"予告編"もあるにはあったが、予告編の上映中はまだ席についていない人もたくさんいて、さほど重要視されていなかった。内容も主役が登場するシーンをつないだ程度のものが多かったと思う。

ところが今はどうだ。予告編の良し悪しで観客の入りが変るとまでいわれ、配給会社はその製作に膨大な予算をつぎ込んでいる。本編撮影に先んじて予告編専用のシーンを撮ることさえあるそうだ。そんな風にして世に放たれる予告編たちは、脇役でありながら観客の目を釘付けにし、時にはその後の本編より強い印象を与えることもある。最近は劇場でだけでなく、インターネットを通じて誰もが気軽に楽しむようになった。

もはや予告編は1つの"作品"だ。ならば予告編を独立した完成形と見立てた論評があってもいいと思った。このコラムは、本編を観る前に気になった予告編を取り上げ、その印象から本編の出来などを好き勝手に想像しながら論じるものだ。

なお、実際に本編をご覧になった皆さんの感想がこのコラムの論評とズレていても、当局は一切関知しない......。





熱き男たちが活躍する映画2本の予告編
『ヤギと男と男と壁と』『エクスペンダブルズ』超能力と腕力で世界を救え!

猛暑日が続く今年の夏、エアコンの効いた映画館はまさに最良の避難場所だ。高校時代に冷房の強い映画館で3本立を観て風邪をひいた思い出もあるが、映画館は涼と娯楽を同時に得られる素晴らしい場所なのである。
今回は、猛暑の最中、涼しい映画館に"熱い男たち"を見に行こうという提案だ。

まずは『ヤギと男と男と壁と』の予告編から。

いきなり千原ジュニアが登場する。
「僕がこの映画のタイトルをつけました」
タレントが字幕監修をすることはあるが、タイトルを考えたというのは珍しい。

兵士リン(ジョージ・クルーニー)がヤギをにらむ場面。ジーッとにらむと...
ヤギが倒れる。
それを見た他の兵士は言う。「何てやつだ」

「これは実在したアメリカ軍超能力部隊の物語」とのテロップ。
超能力というと、ユリ・ゲラーという人を思い出す(知ってる人、手を挙げて!)。1970年代に日本を席捲した超能力ブームの主役だ。ユリ・ゲラーは多数のテレビ番組に登場して、止まった時計を動かしたり、スプーンを曲げたりしていた。当時小学生だった僕もスプーンを曲げようとしたが、決して曲がることはなかった。(実はさっきも挑戦してみたが、やっぱりスプーンは曲がりませんでした・泣)

超能力者を描き話題となった作品には、ブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』(1976年)や『フューリー』(1978年)がある。映画史に残る『キャリー』のラストシーンに度肝を抜かれた人は多いだろう。

ユアン・マクレガー演じる記者、ボブが、リンに「あなたが平和(ジェダイ)の戦士ですか?」と尋ねる。ジェダイとは『スター・ウォーズ』(1977年~)シリーズに登場する戦士のこと。『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)から始まった『スター・ウォーズ』新3部作に、ジェダイ戦士のオビ・ワン=ケノービ役で出演しているマクレガーにそう言わせるのだから、シャレがきいている。

『クレイジー・ハート』(2009年)でアカデミー主演男優賞を受賞したジェフ・ブリッジスも出演している。オスカー男優であるのに、アクション『アイアンマン』(2008年)とか、これから公開されるSF大作『トロン:レガシー』(2010年)など、どんな作品の出演依頼も断らないエラい俳優である。ちなみに『トロン:レガシー』は『トロン』(1982年)のリメイク。ブリッジスはオリジナル版に出演していた。

また、『セブン』(1995年)でアカデミー賞の助演男優賞、『アメリカン・ビューティー』(1999年)で同賞の主演男優賞を受賞したケヴィン・スペイシーが、ダークサイドに堕ちた超能力者を演じている。随分骨太の俳優陣に脇を固めさせたものだ。ダークサイドに堕ちた人って、ダース・ベイダーのことですね。ベイダーを思わせる場面も出てくるし。

予告編を見る限り、そんな豪華なキャストのわりには、"熱い"というよりヌル~い雰囲気が漂っているところが映画ファンの興味をさらにそそる。超能力部隊の訓練シーンもなんだかヨガ教室みたいだし・・・。

そもそも、ヤギを倒すことで平和を守れるのか?ってことですよ。

主演のジョージ・クルーニーは、本作でプロデューサーも兼任している。『グッドナイト&グッドラック』(2005年)では、監督、脚本、主演をこなし、コメディ『インフォーマント!』(2009年)では自身は出演せず、製作総指揮を担当。興味が湧いたら何でも挑戦する男である。そんな訳で、「俺とスペイシー、マクレガー、ブリッジスの豪華メンバーでコメディ作ってみたよ。面白そうだろ?」と言いながら、子どものような笑みを浮かべるクルーニーを想像してしまうのである。

予告編の最後に登場して、壁に激突する男は『アバター』(2009年)で悪い大佐を演じたスティーヴン・ラングだ。『アバター』ではヒール役のシリアスな演技に徹していたラングだが、こっちでは何だか楽しそうだ。

クルーニー隊長が率いる超能力部隊の(ヌルくて)笑える活躍に期待して、"劇場に行こうレベル"は★★★★★(★五つが満点)。

    *   *   *   *   *   *   *   *   *

次の紹介するのは、『エクスペンダブルズ』。
『ヤギと男と男と壁と』から一変して、『エクスペンダブルズ』の予告編は熱いです。
まず、ライオンズゲートとミレニアムフィルムのロゴが表示される。ライオンズゲートは『ソウ』(2004年~)シリーズを作った会社だし、ミレニアムフイルムは『ランボー 最後の戦場』(2008年)を製作した会社である。すでにこの段階でホラー・サスペンス・アクション映画好きならワクワクしてしまう。

次いで、

「全世界興奮、エクスペンダブルズ(消耗品軍団)降臨!」

と威勢のいいナレーション。登場するのはシルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ミッキー・ローク、ドルフ・ラングレン、ブルース・ウィリス、そしてアーノルド・シュワルツネッガー!!!!!もはや説明不要の超一級アクション野郎たちだ。

他にもジュリア・ロバーツの兄で『暴走機関車』(1985年)など多数のサスペンス・アクション映画に出演しているエリック・ロバーツ、そしてアメリカ版『北斗の拳』(1995年)でケンシロウ役を演じたゲイリー・ダニエルズも参戦!

まるでアクション映画版「K-1グランプリ」である。このキャスティング、熱いどころかスクリーンから炎が噴き出しそうな勢いだ。

「ハリウッド映画史上最強の軍団が仕掛ける、アクション核弾頭!」
"アクション核弾頭"ときましたか。確か、『ロッキー4/炎の友情』(1985年)でスクリーン・デビューしたドルフ・ラングレンが『レッド・スコルピオン』(1988年)の公開時に与えられたキャッチフレーズが"人間核弾頭"だった。これはその"応用"ですね。

続いては、男たちの肉弾戦に次ぐ肉弾戦。窓をぶち破る車、マシンガン、爆発!
「命知らずの傭兵軍団、エクスペンダブルズ!」
締めは、スタローン隊長が銃を撃つ!撃つ!撃つ!

これでおしまい。わずか30秒の予告編である。
予告編として短いですか?
短くないよ。アクション映画ファンならこれで十分だ。歴代のアクション番長たちが大暴れする映画であることが分かるから、もう補足することはない。

観たいやつは観ればいい、興味がないやつは観るな。

そんな潔い姿勢、僕は好きだから観ますけど何か?ちなみに8月の公開週には、興行成績第1位を記録した。やっぱり「こんな映画を待ってたぜ!」という人はたくさんいるのだ。

『ターミネーター4』(2009年)では、CGのみで出演しているシュワルツネッガーの姿にガッカリしたものだ。でも『エクスペンダブルズ』ではCGなし、生身での出演が実現した。政界に行ったまま、もう映画界には帰ってこないだろうと思っていたシュワちゃん。彼の映画によく登場する得意のキメ台詞「I'll be back」がこんな形で実現しました。おかえりなさい!

スタローン隊長率いるドリームチームの活躍に期待して、『エクスペンダブルズ』の"アクション映画が好きなら絶対に前売り券を買えレベル"は当然★★★★★!




今回注目した予告編
『ヤギと男と男と壁と』と『エクスペンダブルズ』



★『ヤギと男と男と壁と』
監督:グラント・ヘスログ
脚本:ピーター・ストローハン
出演:ジョージ・クルーニー、ジェフ・ブリッジス、ユアン・マクレガー、
ケヴィン・スペイシー、ヤギ
制作国:アメリカ
8月14日より公開中
公式サイト:http://www.yagi-otoko.jp/



★『エクスペンダブルズ』
監督・出演:シルベスター・スタローン
脚本:シルベスター・スタローン、デヴィッド・キャラハム
出演:ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ミッキー・ローク、ドルフラングレン、
ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツネッガー、その他男たち大勢
制作国:アメリカ
10月16日より公開
公式サイト:http://www.expendables.jp/

ジュリア・ロバーツ主演『食べて、祈って、恋をして』
"程よくスピリチュアル"な、ニュー・ライフスタイル・ムービー

                                                  Text by naiamao

8月19日、この9月に公開される、ジュリア・ロバーツ主演の最新作『食べて、祈って、恋をして』のジャパンプレミア試写会に行って来た。


この試写会には初来日のジュリアとプロデューサーのライアン・マーフィーが登場。今までスクリーンで観る分にはほとんど意識していなかったが、ジュリアはモデルさながらの長身で、客席からも「(以前よりもっと)きれいになったね」と感嘆の声が洩れていたほど美しかった。プロデューサーも女性で原作はエリザベス・ギルバートの自伝的小説とのこと、いかにもガールズシネマなのではと想像していた。その予想は、ある意味大当たり(笑)。

ただ、人間の根源的な欲求である「食べる」、「祈る」、「恋をする」という3つのテーマの中で、ウィットに富んだ言葉のスパイスが効いていて、男性が観ても楽しめる内容になっている。


あらすじは、非常にわかりやすい。ニューヨークでジャーナリストをしていたアラフォー女性エリザベス(ジュリア・ロバーツ)は、ある占い師に出会い人生の予言をされる。その後、予言通り離婚をした彼女は、失った何かを取り戻すべく1年をかけて「自分探しの旅」に出ることを決意。そして、イタリアで「食」を堪能し、インドで瞑想に励んで「祈り」、最終的にバリで運命の人と出会い「恋をする」のである。これだけ聞くと「自分探し?もしや単なる傷心旅行記→ハッピーエンドものなのでは...」という、他人の日記を見せられるかような一抹の気まずさを感じて、私などは引いてしまう。しかし、本作は違っていた。


あらすじは単なる設定であり、伝えたいメッセージは全て、旅で出会った人々との会話や、一つ一つの出来事の中での「気づき」として語られるのだ。


例えば、人間の三大欲求である食欲を取り戻すべく訪れたイタリア。このイタリアで、リズはある時友人から「あなたはどんな人なの?」と聞かれる。これに対して、彼女は上手く答えることができない。ここで初めて、彼女は気づく。自分が何者(どういう人間)で、本当は何を望んでいるのか。この根本的なことが、自分自身で分からなくなっていたのだ。

その後、リズはむさぼるように貪欲にイタリアの食を求め、同時に自分を形容する言葉を探し始める。自分の心や体が喜ぶ美味しい食べものを貪欲に追い求めること(=どこで、何を、誰と、どんな風に食べたいかを追求すること)は、誰でもない「自分」を知ることに他ならないからだ。


また、2国目に訪れたインドではメディテーションや祈りといったスピリチュアルな要素が登場し、物語の核になっているのも時代を反映していて興味深い。極端なオカルトではなく、あくまで叡智のエッセンスの一つとしてスピリチュアルな要素を生活に取り入れる。その「ゆるい」感覚が、バランスが取れていてとても新しい。また全編を通して、自然と調和したライフスタイルの提案がさり気なくされているのにも好感が持てる。

最近、特に都会で生活していると「個人レベルで心の平和を手にしたい」と考える人が増えていることを実感する。日本でのスピリチュアルブームもその現れで、戦前の日本人が日常持っていた精神への回帰なのかもしれない。そして、まさに本作は、今私たちがどうすれば心の平和を得られるのか、そのヒントをいくつも与えてくれる。


エンディングのバリは、「天国と地が出会う」場所というだけあり、選りすぐりのロケ映像が最高だ。どこまでもなだらかに広がる棚田(日本より緑が濃い)や、夕陽に照らされた海が金色に輝く断崖の風景に心洗われる。そのBGMにはべべウ・ジルベルトやジョアン・ジルベルトなどのブラジル音楽が絶妙なタイミングでかかり、新鮮かつしっくりと耳に響く。


何気ない台詞の中に散りばめられた、心の琴線に触れることばを見つけるのが楽しい本作は、いわば、ことばと旅の風景が織りなす一遍のタペストリー。観終わっても、心に残ったその美しく繊細な織物のイメージが、豊かな気持ちにさせてくれる。

この映画は、ありがちな「自分探し」というストーリーを追っていたのでは、決して堪能しきれない。観る側も、スピリチュアルに"感じ" "味わう"ための作品なのだ。


肩の力を抜いて自分の人生を考えてみるもよし、バーチャルの世界旅行を楽しむもよし。"程よいスピリチュアル感"で心の平安を得たいと考える人は、ぜひ本作を観に映画館に足を運んでほしい。