気ままに映画評

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「ブーリン家の姉妹」 by 大出浩子(2008年10月期実践コース火曜日クラス)

宮廷という名の戦場で~権力を愛した姉、人を愛した妹~


ヘンリー8世統治下のイングランド。それは女が男の"道具"として扱われていた時代。男の世継ぎを望めない王を見て、ある貴族がここぞとばかりに、自分の娘を差し出して地位を得ようともくろむ。
賢く気丈な未婚の姉アンをみそめてもらうつもりが、王は優しく従順な既婚の妹メアリーにひかれる。始めはためらうものの、王の素顔に触れ、彼を愛し始めるメアリーは、愛人として懐妊、出産する。だが王は、元々父親から王を誘惑する任務を託されていたアンの手玉にとられ、子供共々メアリーを見捨ててしまう。
妹の王への愛を踏みにじってまで王妃の座を手に入れたアンだが、男の世継ぎはどうしても産めなかった。"このまま産めないでいると無用の妃として殺される"という恐怖からパニックになり、自分の弟に関係を迫るまでに。
この頃には既にアンへの執着がさめていた王は、アンを姦通の罪で処刑してしまうのだった...。

この映画で描かれたような"貴族"や"宮廷での生活"といえば大抵、きらびやかに着飾り、庶民は口にすることのできないぜいたくな食事をして、優雅に悩みなく暮らしているイメージがある。しかしこの作品では、実はそんな悠長なことなど言っていられなかった内情が描かれている。
世継ぎ(それも男の)を絶やさず、王の地位と権力を引き継いでいかなければならない。そこではもちろん、ただ機械的に子孫を作っているわけではない。夫婦間以外での愛や、世継ぎの親族であることの思惑が入り混じる。
更にこの王は、移り気たっぷりだった。そうなると宮廷は、もはやほとんど"戦場"だったといえるかもしれない。
そんな中で、メアリーは王の愛を信じ、彼の子までもうけた揚げ句、よりによって姉に王を奪われた。アンはアンで、野望のため口説き落とした王との愛など長続きするべくもなく、短い栄華を終える。ヘンリー8世は結局、アンを含めた6人の女性と結婚した。アンやメアリー以外の妻や愛人たち、また他の国王に寵愛を受けた女たちにとって宮廷は、庶民のあこがれる場所ではなく、やはり"戦場"だったのだろう。
映画を観終わった今、改めてテーマ曲(公式HPで流れる曲)を聴くと、そんな女たちの流す苦しみの血が滴っているように感じられる。

華やかなイメージを覆す、どんよりと暗い宮廷での、アンのぎらぎらした野心的な目(そこに王への愛は読み取れない)、そして流産したことを王に告げられず、なんとか妊娠せねばと追い詰められた時の絶望的な目が印象的だ。それとは対照的に、"戦場"を離れたメアリーの目は、その後結婚した愛する男性と我が子(と引き取った姉の娘)をやさしく捉え、どこまでも穏やかであった。