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2007年10月 アーカイブ

Vol.17 『スクリーミング・マスターピース』 柳原 須美子


10月のテーマ:何かを始めたきっかけ

~いつも心に音楽を~

今回は、アイスランドの音楽シーンを描いたドキュメンタリー『スクリーミング・マスターピース』を紹介させてください。普段は"石橋が割れるまで叩いてから渡る"タイプの私を、ある衝動に走らせてくれた映画です。

この映画の舞台となったアイスランド共和国。人口わずか30万人のこの島国には音楽学校が約90校もあり、首都レイキャヴィクには至る所にライブハウスがあります。人口と音楽学校の数を考えるだけでも、国民の誰もがミュージシャンと言っても過言ではないのでしょうね。人々の生活に音楽がしっかりと根付いているのです。この映画は、アイスランドに存在する数々のミュージシャンのインタビューとライブシーンで構成されています。

映画の冒頭を飾るのは、アイスランドの大自然とシガー・ロス(注1)のライブ音源。青みがかかった映像と轟音が幻想的な雰囲気をかもしだしています。この冒頭こそが自然と音楽に溢れたアイスランドを一番象徴している場面なんだろうと思います。

アイスランドのミュージシャンで一番有名なのは何と言ってもビョーク(注2)でしょう。子供の頃、初めて彼女の歌を聴いた時、野性的なオーラを放つ彼女の歌声に恐れおののいたことを覚えています。類まれなる声量を誇るビョークは"子供の頃、歩きながら歌っていたから、自然と声量が鍛えられたのかもしれないわね"と語っています。大いなる自然に恵まれ、自由に音を鳴らすことができる環境が整っていたのでしょうね。

映画が終わった途端アイスランドの虜になってしまった私は、さっそく調べ物を開始しました。ホームページを渡り歩き、図書館でアイスランドについての文献を読みふけったのです。そしてとうとう"アイスランドに行かなきゃ"と一大奮起。ある旅行会社の説明会に参加するべく、アイスランド大使館に向かいました。
結局、現実的な問題に阻まれ、今年のアイスランド行きは諦めざるを得なかったのですが、説明会に参加して私のアイスランド熱はさらにヒートアップ。いつか必ず訪れたいと思っています。

この作品に出会うまで、私にとってアイスランドは未知の世界でした。子供の頃、『E.T.』を見てアメリカに憧れたように、今の私はアイスランドに魅せられています。

映画を見て、こんな衝動に駆られた経験、皆さんにもありますか?


注1)シガー・ロス
ポスト・ロックとも呼ばれる、いまやアイスランドを代表する4人組のバンド。

注2)ビョーク
アイスランド人のシンガー・ソングライター兼マルチ・ミュージシャン。

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『スクリーミング・マスターピース』
出演: ビョーク、シガー・ロス、ムームアパラット・オルガン・カルテット 他
監督: アリ・アレクサンダー
イルギス・マグヌッソン
製作年: 2005年
製作国: アイスランド
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Vol.18 『フェリスはある朝突然に』 by 石井 清猛


10月のテーマ:何かを始めたきっかけ

80年代アメリカの"ティーンムービー"に多少でも思い入れのある皆さんなら、『デス・プルーフ』でロザリオ・ドーソンがジョン・ヒューズの名を口にした時も、きっと「どこかで聞いたんだけど...」と映画中ずっと頭の片隅で気にし続けるなんてことはなかったはずです。ましてや「確か『マルタの鷹』作った人だよね」とジョン・ヒューストンと間違えて即座に納得するなんてこともなかったはず。

ここで言う"ティーンムービー"とは、80年代アメリカで多く製作された青春映画の一種で、ハイスクールを舞台に白人中産階級の若者の恋や友情を描いた映画を指します。
そして、ジョン・ヒューズとは、アメリカで"ティーンムービーのゴッドファーザー"と呼ばれる(?)監督・脚本家・製作者のことです。

さて、そんな彼の名が皆さんに想起させるのはひょっとすると『ブレックファスト・クラブ』のアンソニー・マイケル・ホールの不安げな視線でしょうか?
『プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角』のモリー・リングウォルドのふくれっ面?それとも『恋しくて』のメアリー・スチュアート・マスターソンの涙でしょうか?

それら全部に触れたい気持ちをグッと抑えて、今回は彼のもうひとつの傑作、『フェリスはある朝突然に』をご紹介します。

主人公はシカゴの郊外に住む高校生フェリス・ビューラー。学校一の人気者でサボりの常習犯のフェリスは、ある晴れた秋の朝に、その年9回目となるずる休みを敢行することに決める。果たして、その日はフェリスにとって人生最良の日となるのか、それとも...?

マシュー・ブロデリック演じるフェリスは、ジョン・ヒューズが他の作品で好んで描いている"苦悩する若者"とは異なり、世知に長けて強引で不遜で、かつ憎めないキャラクターとして登場します。
映画はそんなフェリスがシカゴの街で伸びやかに過ごす"休日"の描写に、彼を妬む人々が巻き起こす騒動を絡めながらコメディタッチで進行していきます。
"妬み組"の筆頭である校長先生役のジェフリー・ジョーンズの怪演ぶりは必見!

見所はたくさんありますが、シカゴでロケ撮影を行ったというジャーマン・アメリカン・シュトューベン・パレードのシーンには圧倒的な高揚感があります。
また、それとは対照的に、シアーズ・タワーの展望階で窓に額をくっつけて下を見下ろすフェリスたちを後ろからとらえた静かなショットは、この映画でも特に感動的な瞬間です。

そして何よりも、『フェリスはある朝突然に』という邦題のすばらしさ。何か楽しそうなことが起こる予感に満ちていて、まさにこの映画のテーマを体現していると思います。

さて、私にとってこの映画が何のきっかけになったのか?映画を見た皆さんなら、きっと分かっていただけるでしょう。
当時、高層ビルなんて1つもない広島で、冴えない高校生1年生だった私は、翌週、学校をサボって別の映画を見にいったのでした...。

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『フェリスはある朝突然に』
出演: マシュー・ブロデリック、アラン・ラック、ミア・サーラ 他
監督、脚本: ジョン・ヒューズ
製作年: 1996年
製作国: アメリカ
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