今週の1本

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2008年9月 アーカイブ

Vol.40 『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』 by 杉田洋子


9月のテーマ:○○フェチ

何を隠そう、私は大の"おじいちゃんフェチ"だ。年齢と共にストライクゾーンが格段にアップするのだ。20代の男性のヒット率が2割なら、70歳以上のヒット率は実に8割に上る。ジャニーズ事務所やハロプロのごとく、私にとっておじいちゃんは、お気に入りのプロダクションであり、ブランドである。

おじいちゃんは国境を越える。しかし、それでも敢えて好みを言うならラテンの翁たちは5つ星レベルだ。渋さの中にお茶目ないたずらっぽさが光る生涯現役派。今回選んだ『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、キューバの老ミュージシャンにスポットを当てた音楽ドキュメンタリー映画だ。世界中でかなりブームになったので、恐らく多くの人が一度は見たことがあるのではないかと思う。私自身もかれこれ4回は見ているし、今さらという感じもするけれど、"翁×キューバ×音楽"ときたら、私にとっては好きなものばかり集めた欲張りプレートのようなもの。8年前に一度見た人も、もう一度見てみてもいい頃かもしれない。渋い旋律が、前回以上にカッコ良く聞こえるかも...。古いレコードを引っ張り出すような感覚で、久しぶりにプレイボタンを押してみれば、そこには帽子と葉巻の似合う粋な翁と粋な音楽が待っている。

作品の中でも特にスポットを当てられている最高齢級ミュージシャン、イブライム・フェレール(ボーカル)、ルーベン・ゴンザレス(ピアニスト)、コンパイ・セグンド(ギター/トレス)の3人は、残念ながらすでに他界してしまった。三者三様、本当に魅力的でタイプも住み分けできており、「花より男子」のF4にも負けないゴールデントリオだ。翁フェチの観点から3人のチャーム・ポイント(音楽抜き)を語らせていただくと...

ベレー帽が似合う歌い手のイブライム・フェレールは、つぶらな瞳のやんちゃな弟キャラ。ユーモアまで茶目っ気たっぷり。"これからタバコは吸わない。......少ししか"といっていたずらっぽく笑う姿にキュンとくる。自分の守護神にハチミツや香水やラムを毎日備える律儀さもいとおしい。

あごひげと白髪が美しいピアニストのルーベン・ゴンザレスは、育ちの良さがにじみ出る長身の紳士。ピアノを弾く時の背中から頭のラインは、そんな老人にしか出せない姿勢の良いうなだれ方をしてる。緊張した80歳の長い指が、軽やかに鍵盤を叩く。アイロンをかけたような優等生タイプだけど、演奏中にほころぶハンサムな顔は、ハートをわしづかみにする。

そしてギター/トレス(三弦ギター)奏者のコンパイ・セグンド。見るからに遊びつくした感が漂うドンの風格。この時点で90歳を超えているが、"この体に血が流れる限り女が好き"、"一夜のロマンス、プライスレス"、"今子供が5人いて、6人目を作るために奮闘中"、など余裕の発言の数々。さすがに、"この人となら..."、との思いがよぎる。奇しくも彼は、私がキューバに滞在していた2003年の夏に95歳で逝去した。遺体は一時ハバナの斎場で一般公開され、見に行くことができた。想像以上にコンパクトで、キレイな顔をした彼の遺体の上には、トレードマークのパナマ帽子とトレスが添えられていた。亡くなって初めて実物を見るなんて、なんだか複雑な気持ちになったけれど、形ある彼と最後に会えたことはやっぱり幸運だったと思う。

いろいろ語ってみたものの、"そんなこと言われたって、どれがどの翁か分からないよ!"という方は、ぜひもう一度各翁の魅力に注目してご覧いただきたい。きっと、きっと、お気に入りの翁が見つかるはずだから...。

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『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:イブライム・フェレール、ルベーン・ゴンザレス
オマーラ・ポルトゥオンド、コンパイ・セグンド 他
製作年:1999年
製作国:ドイツ=アメリカ=フランス=キューバ
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vol.41 『俺たちに明日はない』 by 藤田庸司


9月のテーマ:○○フェチ

今年も夏が終わってしまった。無類の暑がりでありながら、四季の中では夏が最も好きな僕は、毎年この時期、えも言えぬ寂しさにおそわれる。夏が好きな理由に、その"儚さ"がある。夏には儚いものが多い。一瞬パッと光って散り行く線香花火、浜辺に押し寄せては消える白波、セミの抜け殻。一旦涼しくなると妙に懐かしく思える忌々しい猛暑も、ある意味儚い。

前置きが長くなったが、今月のテーマは"フェチ"。「フェチ=好み」と広い意味で捉えていいなら、僕は"儚いものフェチ"だ。映画においても例外ではなく、儚さや哀愁のある作品に心引かれる。今日紹介する"1本"は、銀行強盗であり、恋人でもあるボニーとクライドの儚い逃避行を描いた名作『俺たちに明日はない』だ。

舞台は1930年代、不況時代のアメリカ。物語は、自動車泥棒のクライド(ウォーレン・ベイティ)が、気の強いウェイトレス、ボニー(フェイ・ダナウェイ)の家の車を盗もうとするところから始まる。意気投合した二人はコンビを組み、各地の銀行を襲うカリスマ強盗ボニー&クライドとして名を馳せていく。悪名が知れ渡るほど警察の追っては迫り、やがて逃げ場を失った彼らは...。

誰が何と言おうと、銀行強盗を正当化する理由などない。強盗などこの世には必要ない悪党である。だが、運命の波にもがき苦しみながらも、お互いの手を取り合い、太く短く生きようとするボニー&クライドの姿は儚くも美しく、なぜか心引きつけられる。また、翻訳者は邦題に注目してほしい。デカダンの中にもどことなく希望と自由を感じる『俺たちに明日はない』(原題「BONNIE AND CLYDE」)。意訳?創作?などはさて置き、作品の世界観をこれほど適確に表した邦題は稀である。そのセンスに脱帽!

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『俺たちに明日はない』
監督:アーサー・ペン
出演:ウォーレン・ベイティ、フェイ・ダナウェイ
製作年:1967年
製作国:アメリカ
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