今週の1本

« 2008年1月 | 今週の1本 トップへ | 2008年3月 »

2008年2月 アーカイブ

vol.25 『AS LONG AS WE ARE IN LOVE』 by 藤田奈緒


2月のテーマ:デトックス

実は私、知る人ぞ知る、マイケル・ジャクソンの大ファンです。中学生の時には福岡ドームにやってきたマイケルに会うため、学校をサボって名古屋から飛行機で福岡まで飛んだことも。(心酔していたのは90年代前半までだったことを、念のため注釈として加えておきましょうか...)
今年は空前絶後のセールスを記録したアルバム『スリラー』の発売25周年なのですが、豪華7曲追加収録+デジタル・リマスターされたショートフィルムを加えて、2月末に新アルバムが発売されます!

名曲「スリラー」と言えば、現在存在するプロモーションビデオ(PV)と呼ばれるものの原点!今回は『スリラー』25周年を記念して、「今週の1本!」番外編として私の最近のイチオシPVを紹介したいと思います。

ここ数週間私がハマっているのは、ウーター・ヘメルというオランダ出身のジャズ・シンガー・ソングライター。『AS LONG AS WE ARE IN LOVE』は見る人すべての心を温かくしてくれる、とびっきりスウィートなPVです。タイトルから分かるとおり、テーマは"LOVE"。次々に登場するカップルたちの幸せそうな笑顔を見たら、"ニッコリ"笑顔にならずにはいられません。(たとえあなたが現在恋人募集中で、くそ~うらやましい!と密かに心の中で思っていたとしても!)

朝から晩までパソコンの前に座り、キーボードを叩く毎日。1つ仕事が終わったと思ったら、また次の仕事が降ってくる...。メルマガを読んでいる皆さんのほとんどがそんな生活をしていると思いますが、そんな日々を繰り返していると時々、ウワーッ!!と叫んでそのままどこかへ走り去ってしまいたい衝動に駆られること、ありませんか?

そんな時、久々に会った友人とついつい飲み過ぎて正体をなくさなくても、
飛行機代とホテル代をかけて海外に逃亡しなくても、お昼休みにワンクリックするだけで心は別世界へ。

眉間のシワがなくなること、間違いなしです。

─────────────────────────
『ヘメル』/ウーター・ヘメル
発売元 P-Vineレコード
『As Long As We Are In Love』を観るには→こちら
─────────────────────────

vol.26 『かもめ食堂』 by 杉田洋子


2月のテーマ:デトックス

寒い日が続いていますね。2月のメインイベント、バレンタインも終わり、洋菓子屋さんはホッと胸をなでおろしてる頃でしょうか。さて、今月のテーマはデトックスです。普段はラテンとこじつけがちな私ですが、たまにはテーマに素直になって、キング・オブ・デトックス映画『かもめ食堂』をご紹介します。
主人公のサチエはフィンランドのヘルシンキで"かもめ"という名の食堂を営んでいる。連日ガラ空きの店のドアを最初にくぐったのは、日本かぶれの青年、トンミ・ヒルトネン。ガッチャマンの歌に興味津々の青年に、サチエは歌詞を教えようとするがどうしても思い出せない。そんな折り、町で偶然日本人のミドリを見かけたサチエは、歌詞を知っているかと尋ねる...

原作は群ようこさん、舞台はフィンランド、そしてキャストに小林聡美、片桐はいり、もたいまさこのゴールデントリオを迎えた本作品。すでにご覧になった方も多いのでは?監督は荻上直子さんで、まだ30代の若き女性監督です。監督本人は女性であることを特に意識していないといいますが、作品全体に流れる空気には、核を固めたのが女性たちだったからこそ成立し得た微妙なバランスを感じずにはいられません。

さて、前置きが長くなりましたが、このかもめ食堂には、デトックスアイテムがそこかしこにちりばめられています。

たとえば...

◇フィンランドという国
普段、なかなか接点のないフィンランド。イメージするものといえば、ムーミン、キシリトール、北欧家具?何だか清らかな気持ちになってきますね。スクリーンに映し出されるのは、湿気のなさそうな、清清しい町並み。淡いターコイズブルーと白い木肌で統一された食堂の中。ゆったりと流れる時間。そして監督いわく、"肩の力を抜いて自然なんだけど、でも潔くシャンと背中を伸ばして生活をしている"フィンランド人。この国の空気は、マイナスイオンのようにひっそりと、作品の根底に流れています。

◇おいしそうな料理たち
食堂というだけあって、作品中には料理がたくさん登場します。サチエが日本のソウルフードと謳う"おにぎり"。香りまで漂ってきそうなシナモンロールとコーヒー。美しく盛られた肉じゃがに、ジュ~っと揚げられサクサクと切り分けられるとんかつ。網の上でじっくりパチパチとグリルされる鮭。美しい見た目はもちろん、最低限のBGMのおかげで、耳までおいしくいただけちゃいます。おにぎりをにぎるあの音を聞くと、何だか優しい気持ちになれます。

◇小林聡美という人
主人公のサチエを演じる小林さんが本当に素敵。何気ない仕草や立ち居振る舞いのひとつひとつが丹念で凛としてて、美しい。彼女はきっと私生活も大切に生きているんだろうなと思わずにはいられません。トンカツに包丁を入れたり、鮭を返したりするだけで見とれます。何より目を奪われたのは、サチエが就寝前の日課としている"膝行"のシーン。これは膝で歩く合気道の鍛錬法なのですが、この時の小林さんの体の動きが実に美しいのです。彼女が話すフィンランド語もとてもきれい。(フィンランド語はわかりませんが、多分)。そして、映画の中でも褒められる"いらっしゃい"のかけ声。作品中で言及されるということは、あらかじめ、すごくいい、と褒められるレベルが求められているわけです。このハードルを見事に飛び越え、期待高まる視聴者に、確かにいいなと納得させる彼女は、やっぱりスゴい。きっと血液もサラサラに違いない。

ちなみに、この映画、舞台がフィンランドだけにフィンランド語には
日本語字幕がついています。

コーヒーは自分でいれるより
人にいれてもらうほうがうまいんだ

じーーん...。

でも哀しいかな、次の瞬間、猛烈に字数を数えてしまう。
"1行16文字もあるよー、いいなあ"なんて思ったりして...。

何はともあれ、見終わった時、体の毒素が抜けてることは間違いナシ。
クールで、ベタベタしてなくて、だけど優しくて暖かいこの映画。
たまったときは借りに走って、お家で簡単デトックス!

-----------------------------------
『かもめ食堂』
出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ
監督:荻上直子
製作年:2006年
製作国:日本・フィンランド
-----------------------------------

vol.27 『緑の光線』&『青の時間』 by 石井清猛


2月のテーマ:デトックス

スイスのローザンヌ付近を通るハイウェーの路肩に車を止め、ロケを始めた撮影クルー。そこに警察官が近づいてきて「ここは緊急時しか駐車してはならない」と注意したところ、現場を指揮していた監督はこう答えます。
「この光は10秒しかもたない。今撮影することが重要なんだ。これは十分緊急事態だ。」

この、ある短編ドキュメンタリーの1シーンで、監督は警察をからかっているのでも、はぐらかそうとしているのでもありません。彼が大まじめだということは、今回ご紹介する2本の映画をご覧になったことのある方ならきっとお分かりだと思います。
『緑の光線』そして『青の時間』と呼ばれるそれらの作品は、ハイウェーで思わず車を止めてしまった彼とは別の監督の手によるものですが、そこには映画の"緊急事態"が驚くほどあっけなく、かつ感動的に捉えられているのです。

フランス映画界の重鎮の1人に数えられながら、新作を撮るたびにその作品の瑞々しさで世界を驚かせるエリック・ロメールが1980年代に相次いで発表したのが、『緑の光線』と『青の時間』でした。(先ほど2本と書きましたが、正確には"1.25本"でしょうか。実は『青の時間』は単独の作品ではなく、『レネットとミラベル 四つの冒険』というオムニバス作品の1エピソードなので...。)
撮影時期も近くテーマも類似しているため、多くの観客から"姉妹品"とみなされているこの2作品は、"バカンスの作家"ロメールの真骨頂とも言うべき傑作です。

『緑の光線』の主人公デルフィーヌは、内気で頑固なベジタリアン。パリで働く彼女は一緒にバカンスに行く予定だった友人からドタキャンを食らい、理想のバカンス(=人生)を求めて7月の日差しの中をさまようことになります。そんなある日、浜辺の歩道を歩く彼女が偶然耳にしたジュール・ヴェルヌの小説「緑の光線」の話。沈む太陽が最後に放つ緑の光が幸福をもたらすというのです。果たして、孤独なデルフィーヌのバカンスの行方は...?

『レネットとミラベル 四つの冒険』は2人の少女の冒険と友情を描いたオムニバス映画。最初の作品である『青の時間』でレネットとミラベルは出会い、親友となります。パリ郊外の田舎町に住むレネットは画家志望の夢想家。彼女はある日、道端で自転車がパンクして途方に暮れていたミラベルと出会い、すぐに意気投合。そしてミラベルにとっておきの話を打ち明けます。夜明け前の一瞬、世界から完全に音が消えてなくなる"青の時間"が訪れるというのです。果たして、2人の冒険の行方は...?

ほら、非常によく似てるでしょ(笑)。

ロメール作品のクセになる魅力をここですべて数えていくことはしませんが、大きな特徴の1つとして、その独特な時間感覚が挙げられるように思います。

例えば『緑の光線』ではデルフィーヌが過ごす退屈なバカンスの様子が淡々と描かれる中で、時おり何かの"予感"のようなシーンが差し挟まれます。
デルフィーヌが道端で何気なく(というかいかにも白々しく)落ちているトランプのカードを拾ったり、シェルブールの森を奥へとずんずんと歩いていったりする時、観客はそれまで淡々として、一定のペースだった時間の流れが少し歪むのを感じることでしょう。

同じ時間なのに長かったり短かったり、あるいは密度が濃かったり薄かったり感じることはよくありますが、ロメールはそんな奇妙な時間感覚の変化を映画の中で実にあっさりと、実に見事に描写していきます。そんなシーンを見る時、私たちはまるで時間を"物"として触っているような感覚に陥るのです。

そして決定的な瞬間が訪れる時、時間はもはや歪むのをやめています。過去とつながった時間が伸びたり縮んだりしているのではなく、そこにあるのは全く新しい時間です。

軽く自家中毒になりかけていて時に見る者をイラ立たせる人物を淡々と描きつつ、不意にやってくる最高の"デトックス"の瞬間が仕掛けられたロメールの新作を、私たちはやはり、いつまでも待ち続けることになるのしょうね。


───────────────────────
『緑の光線』
出演: マリー・リヴィエール他
監督、脚本: エリック・ロメール
撮影:ソフィー・マンティニュー
製作年: 1985年
製作国: フランス

『レネットとミラベル 四つの冒険』
出演: ジョエル・ミケル、ジェシカ・フォルド他
監督、脚本: エリック・ロメール
撮影:ソフィー・マンティニュー
製作年: 1986年
製作国: フランス
───────────────────────