今週の1本

vol.123 『エターナル・サンシャイン』 by野口博美


1月のテーマ:リセット

私は時々、お酒を飲みすぎて記憶をなくす。後日その時の酔っぱらいぶりを一緒にいた友人知人に聞かされると、もう記憶ごと自分を消し去ってしまいたくなる。私ほどくだらない例ではなくとも、誰しも記憶を消したいと思うことがあるのではないだろうか。そんな願いを叶えてくれる魔法のような場所がこの作品には登場する。

ラクーナ社は自分が忘れたいと望む記憶だけを消してくれるクリニック。ごく平凡な会社員ジョエルは、ケンカ別れした恋人のクレメンタインが自分に関する記憶をすべて消去したことを知り、大きなショックを受ける。悲しみのあまり、自分もクレメンタインの記憶を消そうとラクーナ社を訪れたジョエル。そこでは、現在から過去へと思い出をさかのぼりながら記憶を消す施術が行われていた。

この作品を初めて観たのはアメリカに留学していた時だ。えらく感動した私は、DVDを購入して繰り返し観ていたものだ。日本語字幕の設定などない。英語字幕を表示したり、必死に耳をそばだてたりしていた頃が懐かしい。今回このブログを書くにあたって、初めてレンタルして字幕付きで観たのだが、字幕翻訳の難しさをあらためて実感した。この作品には"nice"という単語がキーワードとして使われる。エキセントリックなクレメンタインは何に対しても使えるこの当たり障りのない言葉を嫌悪しているが、反対にジョエルはこの単語を連発し、彼女の逆鱗に触れる。字幕では大抵 "いいひと"という訳が使われているが、もちろん人に対してだけ使われるわけではなく、すべてを同じ訳でカバーすることはできない。序盤でクレメンタインがジョエルに"電話して"と伝えたあとに"That'd be nice!"と思わず口にするセリフは2人の距離がすごく縮まったと思えるシーンなのに、字幕にniceのニュアンスは入っていない。かといって、じゃあお前ならどう訳すんだ、と言われても困るのだけれど。

もうひとつは、"Two blue moons."とクレメンタインがジョエルに自作のカクテルを手渡すシーン。尺が短いのでカクテルの名前を出せないのは仕方ないが、ちょっと残念だ...と思いながら念のためネットでスクリプトを検索していたら、何と"blue moon"ではなく"blue ruin"と書いてあるではないか。映画の中に登場するお酒(「ビッグ・リボウスキ」のホワイトルシアンとか)を飲むのが好きな私はバーに行くとブルームーンを頼んでいたのに(味は好きじゃないのに)、存在しないお酒だったとは...。結構ショックだ。

お酒の話は置いておいて、この映画を久しぶりに観て思ったのは、何もかもをまっさらな状態にリセットして、人生をやり直すのは不可能だということ。たとえ記憶を消されても、登場人物の考え方や口にするセリフは変わらない。これまで出会った人たちから受けた影響や、経験したことがその人に染みついているのだ。あれほどniceを連発していたジョエルが、ふと昔の婚約者を思い出して "She was nice, nice is good."とちょっと投げやりに口にする場面がある。記憶を消したあとなのに、クレメンタインの影響を受けているからかな、と思うとちょっと切なくなる。


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『エターナル・サンシャイン』
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット他
製作国:アメリカ
製作年:2004年
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vol.122 『ヒューゴの不思議な発明』 by藤田彩乃


1月のテーマ:リセット

1930年代のフランス、パリ。父親を家事で失った孤児ヒューゴは、独りで駅の時計台で、時計の修理やねじ巻きをして隠れ住んでいた。食べ物を店から盗んでは駅の警備員に追いかけられる毎日。友達は時計技師だった父親の残した壊れた機械人形だけだった。そんなある日、ヒューゴは駅内の玩具店からおもちゃを盗もうとして店の主人のジョルジュにつかまってしまう。それをきっかけにヒューゴは、機械人形を修理するのに必要なハート型の鍵を持つ少女逃げる途中でイザベルに出会う。冒険に憧れる活発なイザベルはヒューゴの力になろうとし、2人は人形に秘められた謎を解明すべく奮闘する。そして徐々に、ジョルジュの葬り去られた過去と偉大なる功績が明らかになっていく・・・。

世界各国でベストセラーとなったブライアン・セルズニックの冒険ファンタジー小説「ユゴーの不思議な発明」を、マーティン・スコセッシ監督が3Dで映画化。マーティン・スコセッシ、12年ぶりのレオナルド・ディカプリオ抜きの作品、そして初めての子供向け作品だ。今週末1月15日の第69回ゴールデン・グローブ賞においては、主要3部門(作品賞/ドラマ部門・監督賞・音楽賞)にノミネートされており、観客はもちろん評論家からも高い評価を受けている。

見所は3Dならではの映像美。3Dの利点を最大限に利用したまるで夢を見ているかのような素晴らしい風景描写に圧倒される。これは絶対に3Dで見るべき作品だろう。またヒューゴの目から描かれた心温まるストーリーも魅力的だ。登場人物は、孤児院で厳しく育てられ笑顔を失った警備員や、苦しい挫折を忘れようと無理をするジョルジュなど、つらい過去を抱える者が多い。しかし、最後にはすべてをリセットし、皆が笑顔で新しい人生を歩む。そんな姿に目頭が熱くなるはず。そしてエンディングでは映画の素晴らしさを再確認すること間違いなし。映画好きは必見だ。

マーティン・スコセッシの、映画への愛溢れる作品。一見、子供向け映画のようだが、大人も楽しめるはず。日本公開は2012年3月9日。お楽しみに。

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「ヒューゴの不思議な発明」
出演:ベン・キングズレー、ジュード・ロウ、
    エイサ・バターフィールド、クロエ・モレッツ
監督:マーティン・スコセッシ
原作:ブライアン・セルズニック
原題:Hugo
製作国:アメリカ
製作年:2011年
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vol.121 『スモーク』 by桜井徹二


12月のテーマ:プレゼント

「『スモーク』は、魂と肉体をさらけ出して生きることの意味を探る男女の葛藤を、大胆な官能描写を交えて映し出す」と、レンタル店のポップに書かれていた。...魂と肉体をさらけ出す? 大胆な官能描写?

 このポップは、この原稿を書くためにいい作品はないかと店内を歩き回っていた時に見つけた。『スモーク』は好きな映画で何度か観たこともあるし、ポール・オースターの原作も読んだ。でも大胆な官能描写があったような記憶はぜんぜんない。

 と思いながらも、絶対にないと言い切ることもできなかった。なにせ最後に観たのは5年も6年も前だし、そもそも記憶力にはまるっきり自信がない。「官能描写」というのもあいまいで幅が広い表現だし、ハーヴェイ・カイテルと老女が頬を寄せ合っているジャケット写真も官能的といわれれば官能的に見えなくもない。

 そんなことを考えているうちに、ふと『スモーク』には今月のテーマである「プレゼント」にまつわる話が出てくることを思い出した。それにポップの文章からすると、覚えているつもりで覚えていないストーリー展開があったのかもしれない。原稿も書けるし、新たな発見があるかもしれない、と思って借りてみることにした。

 主人公はタバコ店を経営する中年男性オーギー。物語は彼のタバコ店を中心に展開する。オーギーの長年の習慣、常連客である作家の悲話、その作家の家に転がり込んできた黒人青年の父親探し、店番中のオーギーの前に突然現れた昔の恋人...といった具合に、さまざまな登場人物にまつわる物語がオムニバスのような形式で展開する。そして最後は、オーギーが「実話」として語る、奇妙な感慨を呼び起こす物語――ある老女の家で小さな盗みを働いたという話――で終わる。

 うん、やっぱり『スモーク』はいい作品だった。けれど、ポップに書かれていたような要素はまったく見当たらない。おかしいなと思って再度レンタル店に行ってポップをよく見ると、「ジェーン・カンピオン監督による...」という文言もあったことに気づいた。調べてみると、どうやらこの文章はカンピオンの『ホーリー・スモーク』と混同して書かれたもののようだった。

 というわけで、ポップの文章はただの取り違えによるものだったと判明した。だが原稿を書くという観点からするとさらに問題だったのは、『スモーク』にはプレゼントにまつわる話なんてこれっぽっちも出てこなかったという点だった。120分のあいだ、誰もプレゼントをあげないし、誰ももらわない。プレゼントにまつわる話が出てくるというのは、(いつものように)僕の完全な記憶違いだったのだ。

 だけど、取り違えによるポップがもとで久しぶりに見返して、『スモーク』の素晴らしさを再認識できたのは大きな収穫だった。あのポップがなければこの作品を見返すこともそうそうなかっただろう。言ってみれば、僕はレンタル店から思わぬプレゼントをもらったのだ。
 ...というまとめはやっぱり強引ですかね。

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『スモーク』
監督:ウェイン・ワン
出演:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート他
製作国:アメリカ/日本
製作年:1995年
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vol.119 『サンタクロース』 by藤田奈緒


12月のテーマ:プレゼント

朝から目まぐるしい1日を過ごし、冷たい雨の降る中、凍えながら帰宅すると、マンションの入り口にクリスマスツリーが出ていた。ああそうか、もうクリスマスシーズンなんだ。薄暗いスペースでチカチカと光るライトを見ていたら、何だか少し心が温かくなった気がした。

昔からクリスマスの時期になると思い出す大好きな映画がある。伝説のサンタクロースが悪人たちから子どもたちを救うというファンタジー映画、その名もずばり『サンタクロース』。私もいい大人なので、もちろんサンタクロースに幻想を抱いたりはしていないけれど、子どもの頃に映画館で観て以来、この映画に出てくるサンタとそれを取り巻く世界が、私のイメージする"クリスマス"となった。

毎年クリスマスの夜になると、近所の子どもたちにおもちゃのプレゼントを配って回る老人クラウス。ある年、トナカイに乗って妻と家に向かっていると、不思議な光に導かれて北極に向かう羽目に。クラウスはそこで待ち構えていた妖精たちに頼まれ、彼らの作ったおもちゃを世界中の子どもだちに配ることになる。これが"サンタクロース"の誕生秘話。

100年後、クラウスサンタの人気に嫉妬した悪い妖精が、人間界の悪徳おもちゃ会社と結託して悪巧みを働こうとする。彼らが売り出した、食べると体が軽くなり、熱をあてると爆発する危険な「パープル・キャンディー」のせいで世界は大混乱。事情を知ったサンタクロースは子どもたちを救うために立ち上がる...。

恐ろしくベタなストーリー展開であることは認めよう。それでも私はこの映画が大好きなのだ。もはや物語の内容など関係ないのかもしれない。妖精たちの住む世界、カラフルで楽しげなおもちゃ工場、ソリに乗って夜空をトナカイとひた走るサンタクロース。食べると体が宙にふわふわ浮いてしまう不思議なキャンディー。映画を観たあと、あのキャンディスティックを買いに連れていってくれと母親にねだったっけ。

おとぎの国と実社会の境界のまるでない映画の世界は、とんでもなく魅力的で、幼い私の心をガッチリつかんでいまだ離さない。大人になるまでのどこかの段階でサンタクロースは存在しないことを知ったけれど、実は今でもちょっぴり心の片隅で私は信じている。12月の肌寒い夜がやって来ると、どこかで忙しくしているサンタのためにホットココアを用意したくなるのだ。

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『サンタクロース』
監督:ジュノー・シュウォーク
出演:ダドリー・ムーア、ジョン・リスゴー他
製作国:アメリカ
製作年:1985年
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vol.118 『バクマン。』 by浅川奈美


11月のテーマ:仕事

ある業界で活躍する人やその道の"プロフェッショナル"をフィーチャーし、その人の生き様や哲学を紹介する番組というのがよくある。比較的そういうものには興味がある。視聴後はそれなりに何かを学んだ気持ちになり、またそれが自分を鼓舞するきっかけとなることもしばしば。
「プロってどういうことか」
それを痛いまでに私に投げかけてきた作品があった。『バクマン。』をご存知だろうか?最近電車の中吊り広告で目にした人もいるかもしれない。


2008年より『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載中のマンガ作品。TVアニメ化され2010年10月2日から2011年4月2日まで、NHK教育テレビジョンにて第1シリーズが放送。2011年10月1日より第2シリーズが開始し、現在放送中だ。(公式サイト等では『バクマン。2』と表記)。原作のファンでもある私はもちろんアニメも欠かさず視聴している。
作者は、原作・大場つぐみ、作画・小畑健。『DEATH NOTE』を世に送り出したあのゴールデンコンビといえば分かるだろう。少年コンビがマンガ家を目指しもがき苦しみながらも「努力」で壁を乗り越え活動していく姿を描いたストーリー。
高い画力で作画を担当する真城最高と、文才に長けた高木秋人が主人公である。

「少年雑誌に連載されている人気漫画でしょ? 私にはちょっと...」

『バクマン。』はそういううがった見方を大いに裏切ってくれる。
徹底して描かれているリアルな世界が、この作品の大きな魅力のひとつ。大人たちまでも納得させ、ストーリーにぐいぐいと引き込んでいく。
例えば、集英社という大手出版社の編集システムや原稿料、毎日のように持ち込まれる企画への対応、またその編集者の所作ひとつ一つが意味するところ、連載作品に対する評価がアンケート至上主義である点や専属契約制度など、「少年ジャンプ」という実名や編集部にまつわる固有名詞を作中に出しながら赤裸々に描いている。このリアリティが作品に緊張感と臨場感を与えている。

これは、ファンタジーや、現実離れした王道バトル、冒険活劇マンガではない。
描かれているのは、マンガ雑誌での「連載」を勝ち取り、つづけること。選ばれた者たちとプロの編集者が繰り広げる日常。そう、生き馬の目を抜くようなガチの大人の世界が繰り広げられる。
あえて言おう。原作が連載されているのは、読者層があがってきているとはいえ、メインターゲットが小中学生という少年雑誌だ。マンガ家を目指す少年少女たちに、オブラートにくるんだような漠然とした夢物語は一切見せない。
あるのはリアル。本当の厳しさ。この国の大人たちがなし崩しにしている手本にもならない現実の世界より、よっぽど教育にいい。


マンガは面白ければいいんだ
面白いものは連載される 当たり前だ
(by佐々木編集長)

面白い作品を天才的な才能で描ける者もいれば、もがき苦しみながら作り上げていく者もいる。
『バクマン。』の主人公は後者である。現在放映中の第2シリーズで彼らが連載しているマンガは探偵モノ。作品の面白さを追求するため、原作を担当する高木と担当編集者は、ミステリ小説、映画、マンガなどを買いあさり徹底的に研究する。男女間の会話を生き生きさせたい場合は、メロドラマや恋愛ものからテイストを盗んでいく。
作家、アシスタント、編集者、デスク、編集長、そしてライバル...。
「おもしろい作品」を作り上げていく、この一点に向かって関わる全ての人たちの「プロフェッショナル魂」がなんといっても熱い。


先日OAされた、第6話「病気とやる気」を観ながら号泣した。

「大好き」を実現し、仕事としてやりつづける。夢は苦しさを乗り越えたその先に叶うもの。いろいろある世の中だけど、でも、そういうのってまだ死んでないよ。

そういうメッセージをリアルな題材と世界観でみせてくれる作品。
プロを目指すことって、そしてプロであり続けることって、今までも、そしてこれからも変わらないこういうものだと思う。

そういうメッセージをマンガとかアニメはちゃんと教えてくれている。
こういうことって教科書よりも大事なことかもって思う。そして、やっぱり日本のマンガやアニメはすごいなって思う。

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『バクマン。2』 
毎週土曜日 午後5:30~ NHK EテレにてOA中
声の出演 :阿部敦(真城最高) 、日野聡(高木秋人)、
        早見沙織(亜豆美保)
監 督 :カサヰケンイチ、秋田谷典昭
アニメーション制作:J.C.STAFF
製 作 :NHK、小学館集英社プロダクション
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vol.117 『ダーティハリー』 by 浅野一郎


11月のテーマ:仕事

"大人になったら何になりたい?" 小学生あたりで聞かれる定番の質問だ。僕は、その質問をされると必ず「刑事」と答えていた。渋すぎる小学生だ。
それこそ、「ケーキ屋さん!」とか「サッカー選手!」などの答えが模範例だった中では異例の回答だった。
しかも、単に刑事になりたいというだけでなく、サンフランシスコ市警の刑事になることしか頭になかったのだ。

そのきっかになったのが、今はすっかり監督業のほうが馴染み深くなった感のある、クリント・イーストウッド様主演の「ダーティハリー」だ。サンフランシスコ市警のハリー・キャラハン警部は、人の忌み嫌う仕事ばかりさせられているため、署内では"ダーティハリー"の異名で呼ばれているが、一たび犯人と向かい合うと、有無を言わさず愛用の44マグナムをぶっ放し、事件を解決するというヒーローぶりを発揮する。
こう書いてしまうと、後年、刑事映画のパロディで爆発的な人気を博した、「探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!」のような破天荒な陽気さを想像するかもしれないが、ハリーはスーパー・ニヒルで、どこかでいつも自分の仕事に疑問を感じているような暗い雰囲気を漂わせている。

本作のラスト、ラロ・シフリンの物哀しい曲をバックに、警察バッジを投げ捨てるシーンは、あまりにも切なく、あまりにも格好良すぎる。
このシーンだけでもいいので、是非、観てほしい。

ヒーローなのに世間に受け入れられず、ついには、その職に別れを告げることになるが、それでも、何一つ恨み言を言わない...
この姿に憧れ、幼少の頃の僕は、ひたすらハリーに憧れ、サンフランシスコ市警での勤務を熱望していた。
その熱が高じて、小学校の登下校時には、親にねだって買ってもらった44マグナムのモデルガンをショルダーホルスターに入れて持ち歩いていたものだ。
いま考えると、相当にヤバイ小学生だ。巨大すぎて自分の手の平に収まりきらない、重すぎて引き金を引くことさえできないハンドガンを持ち歩く(正確に言えば、ショルダーホルスターに入れて、身に着けていた)小学生になんて、絶対に会いたくないし、来世、同じことは恐らくしないだろう。
しかし、"モデルガンを持ち歩いていたら先生に怒られるかも..."という普通の小学生が抱くであろう恐れなど、いとも簡単に忘れ去るほどに、僕の中で「刑事(=ハリー)」という職業は憧れだったのだ。

時が経ち、日本国籍ではサンフランシスコ市警の警官にはなれないこと、百歩譲って日本で警官になったとしても、38口径のニューナンブしか携行できないことが少しずつ分かってきて、刑事への夢は急速に薄れていった。

しかし、今でも1人になると、"おっと、お前が何を考えているか分かるぞ。俺が6発撃ったのか、まだ5発なのか考えてるんだろ? 実は俺も夢中になって覚えてないんだ。(中略)どうする? 試してみるか? おい、どうする!?" という名セリフを口にしている。
刑事になることは諦めたが、山田康夫さんの吹替えバージョンにて、今でもハリー・キャラハンになることは諦めていない。

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『ダーティハリー』
監督: ドン・シーゲル
出演: クリント・イーストウッド
製作国: アメリカ
製作年: 1972年
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vol.116 『ゼブラーマン』 by 藤田庸司


10月のテーマ:憧れ

先日の日曜日、自宅で作業をしていると、近所の子供たちが"何とかレンジャー?ごっこ"なるものをする声が聞こえてきた。最近の"正義のヒーロー"事情に詳しいわけではないが、彼らの「俺レッドだから、お前はブルーな。」、「いや、俺は前からレッドだったから、お前グリーンでいいんじゃね?」などというやりとりから、おおよそ色分けされたヒーロー戦隊のキャラ取りでもめているのだろうと察しがつく。昭和生まれの僕は仮面ライダーごっこをして育ったが、平成になってから23年経った今でも正義のヒーローに憧れる子供の心は変わらないようで何となくホッとした。窓から入ってくる金木犀の香りも手伝い、少々ノスタルジックな気分になった僕は、愛すべき正義のヒーローが登場する映画が観たくなりレンタルDVD店へ赴いた。

~白と黒のエクスタシー~『ゼブラーマン』

唐突だが、字幕翻訳におけるスキルアップの相談を受けたとき、僕はよく「番組の構成やストーリー展開のパターンを掴みましょう」と話す。それは洋画や海外のドラマ・ドキュメンタリー番組に限らず、民放のバラエティ番組、スポーツ番組、クイズ番組、すべてに存在していて、意識して観ると気づくはずだ。それを知り、番組の主張する世界感を掴めると、的外れな字幕の流れにはならない。そして『ゼブラーマン』には"ゴールデンルール"ともいうべき、正義のヒーローものには欠かせない要素が見事に盛り込まれている。
※以下、ネタバレ注意です。

~『ゼブラーマン』に見る正義のヒーローものゴールデンルール~
①主人公は正義のヒーローに変身するまでは冴えない一般人。
②正義のヒーローはマシン(バイク・車など)を操る。
③宿敵は異常に強く、ヒーローはピンチに陥るが危機一髪で逆転勝利する。
④正義のヒーローを信じる、心にキズを負った少年が登場する。少年はヒーローのおかげで心の病を克服する。
⑤敵キャラは悪者ではあるが極悪ではなく、ややオチャメな面あり。
⑥必ずハッピーエンド。

お決まりの展開だが、そのお決まりの展開を期待し、
結末は分かってはいるがヒーローを心から応援してしまう。
空を飛べなければ強敵には勝てないことを知り、空を飛ぶ特訓をするゼブラーマン。
ボロボロになりながら口にするセリフが心に響く。

「信じれば、必ず夢は叶う」。

⑦正義のヒーローは観る者に夢と希望を与えてくれる。

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『ゼブラーマン』
監督:三池崇史
出演:哀川翔、鈴木京香、渡部篤郎他
製作国:日本
製作年:2003年
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vol.115 『リトル・ランボーズ』 by 杉田洋子


10月のテーマ:憧れ

あまり肩ひじ張らない映画が観たいなと思い、特段前知識もなく借りてきたこの
作品。
よく考えると普段あんまり子どもが主役の作品って観てないかもしれない。
しかしふたを開けてみたら、観てる間始終笑ったり泣いたりで、見応えたっぷり
の映画だった。

舞台は1982年のイギリス郊外。同胞教会の厳しい戒律の元で育てられた内気な少
年ウィル・プラウドフットと、学校切っての問題児リー・カーター。一見対照的な
2人の小学生が出会い、ひょんなことから一緒に映画を作ることになる。

2人をつないだのは、あるときカーターの家で観た映画『ランボー』だった。カー
ターは裕福な家庭に暮らすものの、母親は年中家を留守にしており、ひそかに孤
独を抱えていた。一方で、映画製作にあこがれ、兄のビデオカメラをこっそり持
ち出しては映画を撮っていた。一方、テレビをはじめ娯楽を禁じられていたウィ
ルは、画面の中で活躍するたくましいスタローンの姿に衝撃を受ける。
そして"僕はランボーの息子だ!"と張り切って撮影に臨むことになったのだ。
こうして波乱万丈な2人の映画作りがスタートした。

子どものすごいところは、やる前に限界を決めてしまわないところだと思う。
大人に比べて、能力も手に入るものも限られているけど、"こんなこと無理!"
という壁を作らないぶん、可能性は無限大だ。見よう見まねで映画を撮り、過激
なスタントにもやる気満々で挑む。使える道具はなんだって使う。大人たちが鼻
からあきらめてしまうようなことを、純粋な憧れという動力でやってのけてしまう。
(そんな子どもたちが憧れているのは、他でもない大人たちのしていることだっ
たりするのだけれど...)

一方で、子どもの社会は大人社会の縮図でもある。そこには曲がりなりにも序列
があり、個々の立場はふとした瞬間に入れ替わる。じわじわと人望を得ていく者
や彗星のごとく現れるカリスマ的存在、逆に敵視され排除されていく者...。彼
らの盛衰は第三者であるその他大勢(取り巻きたち)に左右される。両者はたが
いに翻弄されながら、勢力図を日々塗り替えてゆくのだ。

そんな刹那的な人間関係の中でも、生き続けるものがある。夢、そして友情。
さまざまな障害に、絶望して打ち砕かれそうになっても、それが本物なら決して
失われはしないということを、子どもたちは教えてくれる。

ユーモアも満載で、脇役までキャラが立ってる。小気味よいテンポで、起承転結
が展開してゆく。ほっこりするのに笑える、かなりオススメの1本です!
個人的な注目ポイントはカーター役のウィル・ポールター君のいたずらっぽいは
にかみ笑顔。かなり母性本能をくすぐられます...。したり顔から憎しみ顔までい
ちいち表情が秀逸!

何かにまっすぐに突き進んでゆく、ピュアな情熱を忘れたくないあなたに!!!

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『リトル・ランボーズ』
監督:ガース・ジェニングス
出演:ビル・ミルナー、ウィル・ポールター、エド・ウェストウィック他
製作国:イギリス、フランス
製作年:2007年
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vol.113 『サンキュー・スモーキング』 by 野口博美


9月のテーマ:炎

最近ちまたでは、タバコが1箱700円になるかもという衝撃的なニュースが話題になっている。世のスモーカーたちは恐れおののいているのだろうが、それ以外の多くのノンスモーカーたちは歓迎していることだろう。

いつの間にか忌み嫌われる存在となってしまったタバコ(昔はどこのオフィスの中でも、みんな普通に吸っていたそうだから驚きだ)。そんなタバコを擁護しようとするのが、今回ご紹介する作品「サンキュー・スモーキング」の主人公、ニック・ネイラー(アーロン・エッカート)だ。

タバコ業界のPRマンである彼は、タバコ廃絶を訴えるフィニスター上院議員(ウィリアム・H・メイシー)や世の中の厳しい意見と戦うべく、日々奮闘している。ハリウッドスターに映画の中でタバコを吸わせてイメージアップを図ろうとしたり、パッケージにドクロマークを付けようとする議員と闘ったりと忙しい毎日を過ごしていたが、魅力的な新聞記者(ケイト・ホームズ)のワナにはまり、仕事を失うことになってしまう。

終始、タバコをテーマに話が進んでいくにもかかわらず、この作品にはタバコに火が付けられるシーンがひとつもない。そんなところに注目しながら観てみるのも面白いかもしれない。私も何度か観ているのに同僚に聞いて最近初めて知った事実なので、もう一度見直してみようと思う。

かくいう私も、3週間前から禁煙に挑戦している。これまで何度も挫折してきたけれど、今度こそはうまくいきそうだ(でも誰も信じてくれない)。ニックのように周りの悪意は気にせずに頑張っていきたいと思う。

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『サンキュー・スモーキング』
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:アーロン・エッカート、マリア・ベロ、デヴィッド・ケックナー
製作国:アメリカ
製作年:2006年
http://movies.foxjapan.com/thankyouforsmoking/
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vol.112 『ボトル・ショック』 by 藤田彩乃


8月のテーマ:お祭り

アメリカにもいろいろな種類の祭典がありますが、中でもWine Festivalが気に入っています。青い空においしいワインと食事。参加者全員が酔っ払いですから終始みなご機嫌。楽しくないわけがありません。

カリフォルニアのワインを語る上で忘れてはいけないのが、「パリ・テイスティング事件」。アメリカ建国200周年にあたる1976年にフランスで開かれたワインの品評会です。審査員を務めたのは一流のワイン専門家。もちろん全員フランス人です。フランスとカリフォルニアのワインをブラインドテイスティング(目隠し試飲)して、フランスワインのすばらしさを再認識するはずが、なんと結果はカリフォルニアの圧勝。名だたるフランスのワインを押さえて、スタッグス・リープ・ワインセラーズの「カベルネ・ソーヴィニヨン 1973」とシャトー・モンテリーナの「シャルドネ 1973」が1位に輝きました。王者フランスとってはどんなに屈辱的だったことか。この直後、「タイム」誌のジョージ・テイバーは、有名なギリシャ神話の挿話になぞらえて、「パリスの審判 Judgment of Paris」という記事を発表。こうしてカリフォルニアワインは世界的な評価を受けるようになりました。

この実話を映画化したのが「ボトル・ショック」です。「ボトル・ショック」とは、ワイン醸造におけるボトリング前とボトリング後のワインの状態の違いのこと言います。ワインを樽からボトルに詰めるときに沈殿していた固形物が入ってしまい、味が変わってしまうのです。高級なワインや複雑な香りのワインの場合は、回復するまでに時間がかかるため、ボトリングのあとにある程度ねかせてから出荷することも多いそうです。このボトリングによる変化がストーリーの鍵となります。

映画ならではの脚色も加わりますが、無名のカリフォルニアワインが、世界で実力を認められるサクセスストーリーは見ていて爽快。低予算のインディペンデント映画ながら、味のある役者もそろっています。また美しいブドウ畑を眺めてるとナパ・ソノマに行きたくなるはず。ワイン好きの方は、カリフォルニアにお越しの際は、ぜひワインカントリーも訪れてみてください。

ちなみに30年後の2006年にリターンマッチが開催されましたが、またしても1位から5位までをカリフォルニアワインが独占したそうです。

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『ボトル・ショック』
監督:ランドール・ミラー
出演:クリス・パイン、アラン・リックマン、ビル・プルマン
製作国:アメリカ
製作年:2008年
http://www.bottleshockmovie.com/

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<余談>
先日、ロサンゼルスのリトル・トーキョーで第71回Nisei Week Japanese Festivalが開催されました。
日系アメリカ人が主催する夏祭りで、レストランがたこ焼きや焼きそばなどお祭り料理を出したり、
ねぶたの山車や仙台七夕も登場したりと、本格的です。パレードでは地元の方々が民謡やJ-POPに合わせて踊ったり、神輿を担いで練り歩いたり、東京にいた時よりも日本の文化を満喫できました。公式ウェブサイト:http://niseiweek.org/

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