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2009年8月 アーカイブ

vol.64 『太陽がいっぱい』 by 桜井徹二


8月のテーマ:海

海というのは、ある程度深いところまで行くと海面の下のことはまったくわからなくなる。どれだけの深さがあるのか、そこに何が住んでいるのか、ヒントさえ与えてくれない。だから海に行ったり船に乗ったりすると、僕はそのあまりの底知れなさにじわじわと恐怖を感じてしまう。

それは海を舞台にした映画を見ている時も一緒で、『ジョーズ』や『タイタニック』を見るたびに「海は怖い」という思いを新たにする。『ポセイドン・アドベンチャー』や『Uボート』にしても鑑賞後にいろいろ思うところはあっても、結局は「海ってすごく怖いんだ」という感慨にも近いような感覚に行き着いてしまう。『ウォーターワールド』もまた違った意味でケビン・コスナーに海は恐ろしいと思わせたはずだ。

もちろんその一方で、海の美しさ、雄大さを感じる作品もある。『グラン・ブルー』や『あの夏、いちばん静かな海。』、『ブルー・クラッシュ』などのサーフィン映画などもそれにあたるだろう。

そして中には海の美しさと怖さ、その両方を感じさせる作品もある。ルネ・クレマン監督作『太陽がいっぱい』もその1つだ。この作品はアラン・ドロン演じる主人公の青年リプリーが、富豪の息子フィリップを殺害して彼に成りすますというストーリーで、マット・デイモン主演の『リプリー』と同じ小説が原作になっている。

映画の序盤は、地中海に浮かぶヨットが物語の舞台となる。照りつける太陽と真っ白な帆、そして青い海のコントラストがとても美しいシーンが続く。

しかしフィリップの手ひどいいたずらや屈辱的な発言をきっかけに、リプリー青年の中でかねてからくすぶっていた暗い計画がむくむくと頭をもたげ始める。そしてやがてフィリップと二人きりになると、リプリーはその計画を実行に移すのだ。

どこか不穏な空気を漂わせるアラン・ドロンや、リプリー青年の見事な"成りすまし"計画、スリリングな逃走劇など見どころの多い作品だが、物語のオチもじつに鮮やかだ。最後の最後、完璧と思われた計画を一瞬にしてくつがえすショッキングな出来事が起こる。その時リプリー青年の頭に浮かんだのもやはり、「海は怖い」という感想だったに違いない。海の底に何が隠されているのかは、誰にもわからないのだ。

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『太陽がいっぱい』
出演:アラン・ドロン、モーリス・ロネ ほか
監督:ルネ・クレマン
製作年:1960年
製作国:フランス/イタリア
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