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vol.90 『男と女』 by 藤田庸司


9月のテーマ:音楽

名作と言われる映画には、必ずといっていいほど素晴らしいテーマ曲が存在する。「映像は素晴らしいのにテーマ曲はイマイチ...」といった名作などあまり聞かない。時にはテーマ曲が映画そのものよりも有名になるケースもあるくらいだ。今回コラムを書くにあたって、頭に浮かんだ作品タイトルのテーマ曲を口ずさめるかどうか試みた。『ゴッドファーザー』、『ロッキー』、『スター・ウォーズ』...。タイトルを思いつくや瞬時にテーマ曲が頭の中に鳴り響く。今日紹介する名作にも、例外なく素晴らしいテーマ曲が存在する。有名な曲なので、映画は見たことがなくともテーマ曲は聞いたことがある方もいるのではないだろうか。僕の場合も、テレビCMか何かで子供の時分より知っていて、「あ、この映画のテーマ曲だったんだ!」と発見したのは大人になってからだった。ただそれは自然な成り行きで、大人の恋愛を綴った本作品を観賞し、「最高!」などと絶賛する子供がいたとすれば末恐ろしい。

『男と女』
過去にスタントマンである最愛の夫を事故で失ったアンヌ(アヌーク・エーメ)は娘をドーヴィルの寄宿学校に預け、パリで一人暮らしをしていた。ある日アンヌは娘の面会に出かけるが、帰りの列車に乗り遅れてしまう。そんな彼女に、ジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)という男性がパリまで車で送ると申し出てくる。レーサーを職業とするジャンもまた不幸な事件で妻を亡くし、息子を寄宿学校に預けていたのだった。お互いの過去を知った二人は次第に引かれていく。そして命がけのレースから生還したジャンに、アンヌは愛を告白するのだが...。

テーマ曲をはじめ、全編通して流れるフランシス・レイの曲の数々や、主人公の夫役で出演もしているミュージシャン、ピエール・バルーが歌うフレンチ・ボッサが、まるで写真を見るかのようなセピア色の映像と相まって、どことなくもの悲しい男と女の物語を盛り上げる。元々ブラジルの音楽であるボサノヴァだが、例のラテンビートにフランス語の鼻にかかるような発音が絡むと、コケティッシュで、アンニュイな音楽に生まれ変わるから不思議だ。また音楽に負けず劣らず素晴らしいのがアヌーク・エーメの演技である。"目は口ほどに物を言う"と言いうが、時に冷たく、時に優しい、アヌーク・エーメの瞳は揺れ動く女性の心を見事に映し出している。

虫の声が心地いい秋の夜は、大好きなサム・ペキンパーよりも、
こうしたしっとりした映画が見たくなる。

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『男と女』
監督:クロード・ルルーシュ
音楽:フランシス・レイ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、ピエール・バルー
制作年:1966
製作国:フランス
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