今週の1本

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Vol.82 『川の底からこんにちは』&『愛のむきだし』 by 浅川奈美


5月のテーマ:光

今、「ひかり」が気になってしょうがない。
「満島ひかり」。沖縄県出身の24歳。女優。

目がまん丸で、どことなくアナグマっぽい。
肌は浅黒く、骨格もしっかり。昨今テレビでよく見る色白で線が細いモデル系ギャルとは、ちょっと違うタイプ。
まだあどけなさの残るまなざし。佇まい。
きらびやかな大人の女性というより、まだセーラー服のほうがシックリというイメージだ。

日本映画に興味のある人であれば恐らく誰もが知っているであろう女優。
一昨年から、主演作品が次々に公開されると国内外でその演技力は高く評価され、各賞を受賞した。
まさに日本映画界の新ヒロインと呼び名も高いのである。


私が彼女を知ったのは、2005~2006年にTBSで放映された「ウルトラマンマックス」だ。最初は、おっと、とんだダイコンが出てきたものだと驚いたのだが、よくよく一緒に観ていた甥(当時、幼稚園)に説明を仰ぐと、彼女が演じるエリーはアンドロイド。しかもかなり重要な立場。要するに、表情や声の抑揚に頼ることなく、感情を表現しなければならないという難しいキャラクターだ。それを熱演。
瞬きの仕方が特に印象に残っている。
「ウルトラマンマックス」は、多くの実績あるクリエイターが参加する1話完結型のシリーズであった。彼女の芝居への向き合い方や演技力が、その後の出演作など、活躍の場に繋がっていくのであろう。

ある時は、
女に愛されてしまう自堕落な女子大生、

またある時は、
貧乏どん底から這い上がろうとするオペラ歌手の卵、

...と思ったら、
カルト宗教にはまってしまった喧嘩上等な女子高生。

なりきっている彼女の瞳は、ある意味"イッちゃってる"。
彼女はいつだって体当たりだ。
何だかひとりの少女が、自分自身を削りながら"役"を演じているかのように感じてしまう。
そして時にその姿は、観客に痛みまでも届けてしまう。

昨年、ベルリン国際映画祭フォーラム部門でのカリガリ賞と国際批評家連盟賞をダブル受賞した園子温監督『愛のむきだし』。劇中、満島ひかりがコリント書第13章を長台詞でいうシーンは、思わず震えた。園監督から指示されたのは、「言葉を詩的に読んでほしい。句読点まで読む気持ちで言ってほしい」このひとつ。あとは、テストもせず、本番だけで撮られたというエピソードを知って、さらにグッときた。
まさに私の中の全米が泣いた瞬間。

「今週の一本」は、満島ひかりを知らない人、なんか観てみてくださいよっていうお知らせだ。

本当に本当は『愛のむきだし』をオススメしたい。
実話をベースに"真実の愛"を描く237分の純愛エンタテインメント。実際、昨年、海外の映画関係者と話すと必ずといっていいほど、この作品が話題に上った。
満島ひかりもさることながら、西島隆弘、安藤サクラも素晴らしい。キワモノキャラ。それぞれの表現力が炸裂。
園監督の脚本も構成も、その長さを感じさせない。 やっぱり、すごい。

軽々しく人に「観てね」とオススメできない長さ。しかも、途中で席を立ってほしくない。カウチポテトだとしても、携帯だってもちろん電源OFFを願う。

4時間は、ちょっと...(;´Д`) という人。
満島ひかりの最新作、『川の底からこんにちは』(石井裕也監督)が公開中だ。
本作は今年のベルリン映画祭フォーラム部門で上映された。

友人のドイツ人が、早速GWに満席のユーロスペースで見てきた。彼女の叔母さんがベルリンで観たところ、面白かったそうで、オススメしてきたそうだ。
先月フランクフルトで行われたニッポンコネクションでも上映されていたが、惜しくも見逃してしまった...。ユーロに行くとするか。

民放のドラマでも、満島ひかりをちょくちょく見かけるようになった。
この春からのフジテレビ月9(『月の恋人』※主演:木村拓哉)にも、ちょっと出演している。ただ、ここで述べているような「満島ひかり」ワールドは、残念ながら期待できないだろう。

「満島ひかりって、いいよねー」と、彼女の魅力を共有できるのは、今のところ私の隣席に座るMTCディレクターI氏くらいなので、一緒に語れる人募集中。

※ ちなみに『月の恋人』の中に出てくる中国語セリフ(リン・チーリンなど)の字幕制作(ベタ訳から)に関しては、JVTAが担当している。

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『川の底からこんにちは』 (2009年/35㎜/112分)
脚本・監督:石井裕也
出演:満島ひかり 遠藤雅 相原綺羅 志賀廣太郎 岩松了
2010年GW渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

『愛のむきだし』 (2008年/日本/237分)
原案・脚本・監督:園子温
出演:西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ、尾上寛之
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