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Vol.83 『グロリア』 by 藤田庸司


5月のテーマ:光

映画を見に劇場へ足を運ぶ。「一体いつの時代〜〜?」といつも感じてしまう、全く食欲をそそられない某焼肉レストランのCMが終わると、館内が暗くなり、ジーっという音と共に薄闇の中でスクリーンが横に広がる。これから入り込む作品の世界に期待し、胸が膨らむ。そして次の瞬間、横に広がったスクリーンが眩しいほどの光を放ち、近日公開予定の作品の予告編が始まり、いよいよ本編へと流れて行く。光輝くスクリーン。"銀幕"とは上手く言ったものだ。
映画にとって映像が持つ"光加減"や"明るさ"は、その作品の雰囲気を作るうえで、非常に大切な要素だと思う。製作側は描きたい世界観を最大限まで引き伸ばすために、絶妙な光の計算をしているはずだ。簡単に言えばラブコメディとホラーの光加減が同じだと困る。今日紹介する作品にも独特の光加減がある。全編を包む淡い明るさによるザラついた映像の質感は、ストーリーにリアリティを生み、光と影のコントラストが作品の持つクールで危険な雰囲気をよりいっそう盛り上げるのだ。


『グロリア』

舞台はニューヨークのサウス・ブロンクス。ジャックを主人とするプエルトリコ系一家のアパートを数人のギャングが取り囲んでいる。ギャング組織の会計係をしているジャックが、組織の資金を横領し会計をFBIに密告したことから、一家は命を狙われるはめになったのだ。物々しい事態の中、事情を聞かされ、うろたえ恐怖におびえる妻や祖母。そして事の重大さを理解できない6歳の息子フィル。武装したギャングは今まさにドアを突き破り、ジャックの部屋へ乗り込もうとしていた。そこへ偶然コーヒーを借りに、同じフロアに住むグロリア(ジーナ・ローランズ)がドアをノックする。グロリアはジャックの妻の親友であり、実はギャング組織のボスのかつての情婦でもあった。異様な空気を敏感に感じ取ったグロリアは、子供嫌いながらもジャックの「フィルを預かってくれ」という突然の願いを聞き入れる。ギャング団の狙いは一家皆殺しとジャックの持つ組織の資金詳細を記したノートの奪還だ。ジャックはノートを息子に託した。グロリアが嫌がるフィルを連れて自室に戻った瞬間、ジャックの部屋で爆発が起き、彼女は一家が惨殺されたことを確信した。ノートの行方を必死に追う組織は、やがてグロリアがかくまっている息子のフィルがノートを持っていることを知る。そして追われる身となったグロリアとフィルの必死の逃避行が始まるのだ。

物語の冒頭、薄暗く不気味なアパートのシーン。暗い昼間のアパートに差し込む光が、不安感や危険な雰囲気をよりいっそう盛り上げる。そんな中、印象的なのがグロリアの登場シーンだ。コーヒーを借りにジャックの部屋をノックするグロリア。ジャックがドアを開けると、カメラが彼女の顔のアップを捕える。「ハーイ」と、どこか気だるくクールなヒロインの登場。救世主を予感させる、まるで闇の中に差し込む一筋の光のような、印象深いカットである。ヤバイ雰囲気に臆することなくタバコをふかし、ハイヒールで拳銃を撃ちまくるグロリア。殺しもいとわない彼女が、フィルと逃げるうちに母性に目覚めていく様や、その心理描写が、本作をありがちなバイオレンス・ムービーやギャング映画とは一線を画す哀愁漂う人間ドラマに仕上げている。また、いい映画にはいい音楽が付き物だ。作中流れるスパニッシュ・ギターとサックスの調べがニューヨークの街によく映える。スカッ!といきたい時にオススメの一本。

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『グロリア』
監督:ジョン・カサヴェテス
出演:ジーナ・ローランズ
製作国:アメリカ
製作年:1980年
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