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2010年5月 アーカイブ

Vol.82 『川の底からこんにちは』&『愛のむきだし』 by 浅川奈美


5月のテーマ:光

今、「ひかり」が気になってしょうがない。
「満島ひかり」。沖縄県出身の24歳。女優。

目がまん丸で、どことなくアナグマっぽい。
肌は浅黒く、骨格もしっかり。昨今テレビでよく見る色白で線が細いモデル系ギャルとは、ちょっと違うタイプ。
まだあどけなさの残るまなざし。佇まい。
きらびやかな大人の女性というより、まだセーラー服のほうがシックリというイメージだ。

日本映画に興味のある人であれば恐らく誰もが知っているであろう女優。
一昨年から、主演作品が次々に公開されると国内外でその演技力は高く評価され、各賞を受賞した。
まさに日本映画界の新ヒロインと呼び名も高いのである。


私が彼女を知ったのは、2005~2006年にTBSで放映された「ウルトラマンマックス」だ。最初は、おっと、とんだダイコンが出てきたものだと驚いたのだが、よくよく一緒に観ていた甥(当時、幼稚園)に説明を仰ぐと、彼女が演じるエリーはアンドロイド。しかもかなり重要な立場。要するに、表情や声の抑揚に頼ることなく、感情を表現しなければならないという難しいキャラクターだ。それを熱演。
瞬きの仕方が特に印象に残っている。
「ウルトラマンマックス」は、多くの実績あるクリエイターが参加する1話完結型のシリーズであった。彼女の芝居への向き合い方や演技力が、その後の出演作など、活躍の場に繋がっていくのであろう。

ある時は、
女に愛されてしまう自堕落な女子大生、

またある時は、
貧乏どん底から這い上がろうとするオペラ歌手の卵、

...と思ったら、
カルト宗教にはまってしまった喧嘩上等な女子高生。

なりきっている彼女の瞳は、ある意味"イッちゃってる"。
彼女はいつだって体当たりだ。
何だかひとりの少女が、自分自身を削りながら"役"を演じているかのように感じてしまう。
そして時にその姿は、観客に痛みまでも届けてしまう。

昨年、ベルリン国際映画祭フォーラム部門でのカリガリ賞と国際批評家連盟賞をダブル受賞した園子温監督『愛のむきだし』。劇中、満島ひかりがコリント書第13章を長台詞でいうシーンは、思わず震えた。園監督から指示されたのは、「言葉を詩的に読んでほしい。句読点まで読む気持ちで言ってほしい」このひとつ。あとは、テストもせず、本番だけで撮られたというエピソードを知って、さらにグッときた。
まさに私の中の全米が泣いた瞬間。

「今週の一本」は、満島ひかりを知らない人、なんか観てみてくださいよっていうお知らせだ。

本当に本当は『愛のむきだし』をオススメしたい。
実話をベースに"真実の愛"を描く237分の純愛エンタテインメント。実際、昨年、海外の映画関係者と話すと必ずといっていいほど、この作品が話題に上った。
満島ひかりもさることながら、西島隆弘、安藤サクラも素晴らしい。キワモノキャラ。それぞれの表現力が炸裂。
園監督の脚本も構成も、その長さを感じさせない。 やっぱり、すごい。

軽々しく人に「観てね」とオススメできない長さ。しかも、途中で席を立ってほしくない。カウチポテトだとしても、携帯だってもちろん電源OFFを願う。

4時間は、ちょっと...(;´Д`) という人。
満島ひかりの最新作、『川の底からこんにちは』(石井裕也監督)が公開中だ。
本作は今年のベルリン映画祭フォーラム部門で上映された。

友人のドイツ人が、早速GWに満席のユーロスペースで見てきた。彼女の叔母さんがベルリンで観たところ、面白かったそうで、オススメしてきたそうだ。
先月フランクフルトで行われたニッポンコネクションでも上映されていたが、惜しくも見逃してしまった...。ユーロに行くとするか。

民放のドラマでも、満島ひかりをちょくちょく見かけるようになった。
この春からのフジテレビ月9(『月の恋人』※主演:木村拓哉)にも、ちょっと出演している。ただ、ここで述べているような「満島ひかり」ワールドは、残念ながら期待できないだろう。

「満島ひかりって、いいよねー」と、彼女の魅力を共有できるのは、今のところ私の隣席に座るMTCディレクターI氏くらいなので、一緒に語れる人募集中。

※ ちなみに『月の恋人』の中に出てくる中国語セリフ(リン・チーリンなど)の字幕制作(ベタ訳から)に関しては、JVTAが担当している。

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『川の底からこんにちは』 (2009年/35㎜/112分)
脚本・監督:石井裕也
出演:満島ひかり 遠藤雅 相原綺羅 志賀廣太郎 岩松了
2010年GW渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

『愛のむきだし』 (2008年/日本/237分)
原案・脚本・監督:園子温
出演:西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ、尾上寛之
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Vol.83 『グロリア』 by 藤田庸司


5月のテーマ:光

映画を見に劇場へ足を運ぶ。「一体いつの時代〜〜?」といつも感じてしまう、全く食欲をそそられない某焼肉レストランのCMが終わると、館内が暗くなり、ジーっという音と共に薄闇の中でスクリーンが横に広がる。これから入り込む作品の世界に期待し、胸が膨らむ。そして次の瞬間、横に広がったスクリーンが眩しいほどの光を放ち、近日公開予定の作品の予告編が始まり、いよいよ本編へと流れて行く。光輝くスクリーン。"銀幕"とは上手く言ったものだ。
映画にとって映像が持つ"光加減"や"明るさ"は、その作品の雰囲気を作るうえで、非常に大切な要素だと思う。製作側は描きたい世界観を最大限まで引き伸ばすために、絶妙な光の計算をしているはずだ。簡単に言えばラブコメディとホラーの光加減が同じだと困る。今日紹介する作品にも独特の光加減がある。全編を包む淡い明るさによるザラついた映像の質感は、ストーリーにリアリティを生み、光と影のコントラストが作品の持つクールで危険な雰囲気をよりいっそう盛り上げるのだ。


『グロリア』

舞台はニューヨークのサウス・ブロンクス。ジャックを主人とするプエルトリコ系一家のアパートを数人のギャングが取り囲んでいる。ギャング組織の会計係をしているジャックが、組織の資金を横領し会計をFBIに密告したことから、一家は命を狙われるはめになったのだ。物々しい事態の中、事情を聞かされ、うろたえ恐怖におびえる妻や祖母。そして事の重大さを理解できない6歳の息子フィル。武装したギャングは今まさにドアを突き破り、ジャックの部屋へ乗り込もうとしていた。そこへ偶然コーヒーを借りに、同じフロアに住むグロリア(ジーナ・ローランズ)がドアをノックする。グロリアはジャックの妻の親友であり、実はギャング組織のボスのかつての情婦でもあった。異様な空気を敏感に感じ取ったグロリアは、子供嫌いながらもジャックの「フィルを預かってくれ」という突然の願いを聞き入れる。ギャング団の狙いは一家皆殺しとジャックの持つ組織の資金詳細を記したノートの奪還だ。ジャックはノートを息子に託した。グロリアが嫌がるフィルを連れて自室に戻った瞬間、ジャックの部屋で爆発が起き、彼女は一家が惨殺されたことを確信した。ノートの行方を必死に追う組織は、やがてグロリアがかくまっている息子のフィルがノートを持っていることを知る。そして追われる身となったグロリアとフィルの必死の逃避行が始まるのだ。

物語の冒頭、薄暗く不気味なアパートのシーン。暗い昼間のアパートに差し込む光が、不安感や危険な雰囲気をよりいっそう盛り上げる。そんな中、印象的なのがグロリアの登場シーンだ。コーヒーを借りにジャックの部屋をノックするグロリア。ジャックがドアを開けると、カメラが彼女の顔のアップを捕える。「ハーイ」と、どこか気だるくクールなヒロインの登場。救世主を予感させる、まるで闇の中に差し込む一筋の光のような、印象深いカットである。ヤバイ雰囲気に臆することなくタバコをふかし、ハイヒールで拳銃を撃ちまくるグロリア。殺しもいとわない彼女が、フィルと逃げるうちに母性に目覚めていく様や、その心理描写が、本作をありがちなバイオレンス・ムービーやギャング映画とは一線を画す哀愁漂う人間ドラマに仕上げている。また、いい映画にはいい音楽が付き物だ。作中流れるスパニッシュ・ギターとサックスの調べがニューヨークの街によく映える。スカッ!といきたい時にオススメの一本。

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『グロリア』
監督:ジョン・カサヴェテス
出演:ジーナ・ローランズ
製作国:アメリカ
製作年:1980年
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