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vol.79 『アイ・アム・サム』 by 藤田庸司


3月のテーマ:におい

CGを駆使した壮大なスケールの映画も楽しいが、レンタルDVDショップなどに出向くと、ともすれば"人間臭い"、"人間の臭いのする"ドラマ系作品に手が伸びてしまう。人間臭さと言っても抽象的で分かりづらいかもしれない。僕が思うところの人間臭い映画とは、人の強さや弱さ、醜さ、優しさ、うぬぼれなどを包み隠さず描いた作品である。人間は一人では生きていけない弱い生き物。だが、その弱い生き物が一生懸命に生きる姿は美しく、見る者に勇気を与えてくれる。今日はそんな1本を紹介したい。

『アイ・アム・サム』

知的障害のために7歳児程度の知能しか持たない父親サム(ショーン・ペン)は、コーヒーショップで働きながら一人娘のルーシー(ダコタ・ファニング)を育てていた。ルーシーの母親は、ルーシーを生むとすぐに蒸発してしまったが、二人はサムの友人をはじめ、理解ある人々に囲まれ幸せに暮らしていた。しかし、ルーシーが7歳になる頃、その知能が父親を超えようとする。ある日、サムは家庭訪問に来たソーシャルワーカーによって養育能力なしと判断され、ルーシーを無理やり里親の元へ出されてしまう。何としてもルーシーを取り戻したいサムは、敏腕で知られる女性弁護士リタ(ミシェル・ファイファー)の元を訪ねルーシー奪還を図るが、サムにリタを雇うお金などなく、あっさり断られてしまう。それでもあきらめないサム。やがて彼の愛娘への思いがリタの心を動かしていく。

本作の登場人物たちは、個々に様々な悩みや問題を背負って生きている。貧しいうえ障害を抱えているサム。裕福で社会的にも地位を認められていて、誰もがうらやむ暮らしをしているリタ。父の障害と自分の成長の狭間でもがき苦しむルーシー。一見、幸せであろう人が実は不幸せだったり、かわいそうに思える人が実は幸せだったり、最も無力のはずの子供が一番強かったり、「人間の幸せって、一体なんだろう?」と考えさせられる。誰も不幸になんてなりたくない。幸せになりたいし、成功したいし、認められたい。そのために努力するが、そこには絶えず挫折や劣等感が付きまとう。時として、ノックアウトされたときの絶望感や、羞恥心と戦わなければならない。弱い中にも強さが必要なのだ。かく言う僕も、自分の不十分な努力を棚に上げ"才能がない"と落ち込んでみたり、"あの人はいいな〜"と他人の人生をうらやんだりしてしまう弱い人間である。自分の存在がどうしようもなく"ちっぽけ"と感じたり、"もうダメだ"と思った時、この作品を見ると、いつも救われる気がする。"弱くていいじゃん。だって人間なんだから"と。

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『アイ・アム・サム』
監督:ジェシー・ネルソン
脚本:クリスティン・ジョンソン
製作総指揮:マイケル・デ・ルカ
撮影:エリオット・デイヴィス
出演:ショーン・ペン、ミシェル・ファイファー、
   ダコタ・ファニング
製作国:アメリカ
製作年:2001年
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