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vol.72 『遊星からの物体X』 by 浅野一郎


12月のテーマ:雪

皆さんが"雪"と聞いてイメージするものは何だろうか?雪国出身の方からは"雪かき"や"雪害"など、あまりいい印象はないと聞くが、多くの方は"ロマンチック、幻想的..."など、ポジティブなイメージを持っているのではないだろうか? 映画もやはり、「シザーハンズ」に代表されるような、ファンタジックな作品で雪を効果的に使っているものが多い。

僕が"雪"と聞いて真っ先に頭に思い浮かぶのは『遊星からの物体X』だ。タイトルからもお分かりになると思うが、ロマンチックなどとは程遠い...。舞台は南極。雪と氷に閉ざされた南極探検隊基地で起こる、エイリアンと隊員たちとの死闘を描いた、エイリアン映画の金字塔的な作品だ。
はらわたは飛び散るわ、首はもげるわ、頭は爆発するわの、当時はゲテモノ映画と評された映画である。


ノルウェーの探検隊によって発見されたエイリアンを掘り起こしてしまったアメリカ探検隊。凍り付いていたエイリアンは息を吹き返し、あらゆる生命体を媒介としながら、形態を変えて次々に隊員を襲っていく。仲間の中にも媒介とされ体を乗っ取られた者が出始め、次第にお互いに疑心暗鬼に陥っていく隊員たち。エイリアンのおぞましい姿が明らかになり、やがて、物語は最終決戦へとなだれ込む。死闘の末、最後のエイリアンを始末するも、生き残った2人の隊員は、相手がエイリアンに体を乗っ取られているかもしれないという不安に駆られる。そこで"ゾンゾン..."という曲が流れ、映画はそのまま不穏な終わり方をする。映画公開時、どちらがエイリアンなのか?という疑問を解き明かすヒントが映像に隠されているというウワサがあった。片方の登場人物の息が白くない...ということはあちらがエイリアンなのだ、という話もあったが、監督曰く、単純な編集ミスという話もあり、真偽のほどは定かではないようだ。

さて、この映画の特長はなんと言ってもクリーチャー造形だ。現在のようにバンバンCGを使える時代でもないのに、クリーチャーの完成度は、今見てもまったく見劣りがせず、思わず息を呑むほど。隊員のちぎれた頭部から足が生えてシャカシャカと歩き出す"蟹エイリアン"など、思わず笑
ってしまうようなクリーチャーもいるが、そんなヤツでさえ、「アバター」の100倍リアルだ。

リメイクの話もあるようだが、当時のような完成度は到底出せまい。もちろん、技術的には今のほうが数段上だろうが、82年に作られた本作には、そんな高度な技術を嘲笑うかのような緊張感がある。もちろん、僕が小さかったということもあるだろうが、やはり、小手先の技術を使って作る現在の環境では出せない"迫力"や、スタッフの"気迫"のようなものがあるのだと思う。

クリーチャーのことを書いていたら、『アルゴ探検隊の大冒険』のギシギシ動くタロスや骸骨剣士など、ストップモーションで撮ったことがバレバレのクリーチャーが出てくる映画を観たくなってきた。久しぶりにビデオを掘り起こしてみよう。

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『遊星からの物体X』
出演:カート・ラッセル、A・ウィルフォード・ブリムリー ほか
監督:ジョン・カーペンター
製作年:1982年
製作国:アメリカ
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