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vol.66 『マルホランド・ドライブ』 by 藤田庸司


9月のテーマ:妄想

ドキュメンタリー作品を除けば、そもそも映画というものは、その監督の頭の中、極端に言えば"妄想"を映像化したものではないだろうか。視聴者は、その監督の妄想をスクリーンを通して体感し、共感できたり興味を抱けば、それを面白い作品、理解できなければ退屈な作品と判断する。そう考えると、世間で名作と呼ばれる映画は、監督の妄想に多くの人が共感できたというだけで、名作=いい作品、駄作=つまらない作品とは言い切れないと思う。駄作と言われる映画は多くの人が、その監督の妄想に共感できなかったというだけで、共感できるマイノリティーにとっては"素晴らしい作品"であるはずだ。今日は、語られる時"面白い""不気味""理解できない""切ない"などといった様々な感想が飛び交うユニークな1本を紹介したい。

『マルホランド・ドライブ』

実在する、ハリウッドを一望できる通り"マルホランド・ドライブ"で、深夜、車の衝突事故が発生する。ただ1人助かった黒髪の女性はハリウッドの街までなんとか辿り着き、留守宅へ忍び込む。そこは有名女優ルースの家で、忍び込んだ黒髪の女性は、直後に家を訪れるルースの姪ベティに見つかってしまう。とっさにリタと名乗ったこの黒髪の女性を、ベティは叔母の友人と思い込むが、すぐに見知らぬ他人であることを知る。事故の後遺症で何も思い出せないと打ち明けるリタ。手掛かりはリタのバックの中の大金と謎の青い鍵。ベティは同情と好奇心から、リタの記憶を取り戻すために大胆な行動に出るのだが...。

僕の乏しい表現力で書いたあらすじでは、安っぽいミステリー映画に聞こえるかもしれない。しかし、監督は巨匠デヴィッド・リンチ。奇妙な世界観や、不気味なポップセンスが爆発している。最初に本作を鑑賞したときは、"摩訶不思議"なストーリー展開に頭を抱えたが、何度か見るうちに、本作には一種の謎解きのようなプロットが用いられていることに気づき、自分の中でストーリーの辻褄が合い始めると、すべての摩訶不思議がチェーンのようにつながり、壮大なテーマが浮かび上がった。さらにそのテーマを確認しようと何度か見ていくと、今度はさり気なく見過ごしていたディテールが、凄まじい存在感を発揮し始める。かれこれDVDで何十回も見ているが、見る度に底なし沼にでも引きずり込まれるような感覚に陥り、今尚、飽きることなく見続けている。デヴィッド・リンチはインタビューの中で、「映画は音楽だ。私の思いや、主張を感じるままに鑑賞してほしい」とアーティスティックに解説しているが、僕には「私がどう妄想しようと私の勝手だ」と聞こえてならない。ナオミ・ワッツの体当たりの演技が◎。

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『マルホランド・ドライブ』
出演:ナオミ・ワッツ、ローラ・エレナ・ハリング ほか
監督:デヴィッド・リンチ
製作年:2001年
製作国:アメリカ
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