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2010年9月 アーカイブ

vol.90 『男と女』 by 藤田庸司


9月のテーマ:音楽

名作と言われる映画には、必ずといっていいほど素晴らしいテーマ曲が存在する。「映像は素晴らしいのにテーマ曲はイマイチ...」といった名作などあまり聞かない。時にはテーマ曲が映画そのものよりも有名になるケースもあるくらいだ。今回コラムを書くにあたって、頭に浮かんだ作品タイトルのテーマ曲を口ずさめるかどうか試みた。『ゴッドファーザー』、『ロッキー』、『スター・ウォーズ』...。タイトルを思いつくや瞬時にテーマ曲が頭の中に鳴り響く。今日紹介する名作にも、例外なく素晴らしいテーマ曲が存在する。有名な曲なので、映画は見たことがなくともテーマ曲は聞いたことがある方もいるのではないだろうか。僕の場合も、テレビCMか何かで子供の時分より知っていて、「あ、この映画のテーマ曲だったんだ!」と発見したのは大人になってからだった。ただそれは自然な成り行きで、大人の恋愛を綴った本作品を観賞し、「最高!」などと絶賛する子供がいたとすれば末恐ろしい。

『男と女』
過去にスタントマンである最愛の夫を事故で失ったアンヌ(アヌーク・エーメ)は娘をドーヴィルの寄宿学校に預け、パリで一人暮らしをしていた。ある日アンヌは娘の面会に出かけるが、帰りの列車に乗り遅れてしまう。そんな彼女に、ジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)という男性がパリまで車で送ると申し出てくる。レーサーを職業とするジャンもまた不幸な事件で妻を亡くし、息子を寄宿学校に預けていたのだった。お互いの過去を知った二人は次第に引かれていく。そして命がけのレースから生還したジャンに、アンヌは愛を告白するのだが...。

テーマ曲をはじめ、全編通して流れるフランシス・レイの曲の数々や、主人公の夫役で出演もしているミュージシャン、ピエール・バルーが歌うフレンチ・ボッサが、まるで写真を見るかのようなセピア色の映像と相まって、どことなくもの悲しい男と女の物語を盛り上げる。元々ブラジルの音楽であるボサノヴァだが、例のラテンビートにフランス語の鼻にかかるような発音が絡むと、コケティッシュで、アンニュイな音楽に生まれ変わるから不思議だ。また音楽に負けず劣らず素晴らしいのがアヌーク・エーメの演技である。"目は口ほどに物を言う"と言いうが、時に冷たく、時に優しい、アヌーク・エーメの瞳は揺れ動く女性の心を見事に映し出している。

虫の声が心地いい秋の夜は、大好きなサム・ペキンパーよりも、
こうしたしっとりした映画が見たくなる。

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『男と女』
監督:クロード・ルルーシュ
音楽:フランシス・レイ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、ピエール・バルー
制作年:1966
製作国:フランス
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vol.91 『リンダリンダリンダ』 by 藤田奈緒


9月のテーマ:音楽

♪僕の右手を知りませんか?
行方不明になりました
指名手配のモンタージュ 街中に配るよ
今すぐ捜しに行かないと
さあ 早く見つけないと
夢に飢えた野良犬 今夜 吠えている♪

真っ直ぐ前を見て、おっきな声でブルーハーツの歌を歌う韓国人留学生のソンちゃん。
その歌はお世辞にも上手とは言えないけど、何でだろう、やっぱりブルーハーツにはそんな調子っぱずれなひたむきさが似合ってしまう。

ひょんなことからバンドを組むことを決意した4人の女子高生たち。高校最後の文化祭までに残された時間はたったの2日間。大好きなブルーハーツの歌を発表するため、それこそ寝る暇も惜しむ猛練習が始まる・・・と書くと、いかにも熱い青春物語が繰り広げられそうだけど、うーん、実際にはそうでもない。どちらかというと普通の女子高生たちのありふれた日常の一部を切り取った感じで、好きな男の子との時間を優先してスタジオでの練習に遅刻してしまったりと、少々危なっかしい感じで話は進んでいく。

誰しも振り返れば、ちょっとぐらい何かに真剣になった時間があるはずで、文化祭最終日の彼女たちのステージを見たら、きっと、その時の熱い感じを思い出さずにはいられないだろう。時にはカッコ悪くたっていい、やりたいことに思い切って向かってみるのも悪くないかも。そんな風に思わせてくれる素敵な青春映画です。

1つ打ち明けると、かくいう私もかつてバンドブームの流れに乗っていた時代がありました。似合わないと言われるかもしれないけど、お恥ずかしながら本当の話。

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『リンダリンダリンダ』
監督:山下敦弘
出演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織ほか
製作国:日本
製作年:2005年
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