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vol.26 『かもめ食堂』 by 杉田洋子


2月のテーマ:デトックス

寒い日が続いていますね。2月のメインイベント、バレンタインも終わり、洋菓子屋さんはホッと胸をなでおろしてる頃でしょうか。さて、今月のテーマはデトックスです。普段はラテンとこじつけがちな私ですが、たまにはテーマに素直になって、キング・オブ・デトックス映画『かもめ食堂』をご紹介します。
主人公のサチエはフィンランドのヘルシンキで"かもめ"という名の食堂を営んでいる。連日ガラ空きの店のドアを最初にくぐったのは、日本かぶれの青年、トンミ・ヒルトネン。ガッチャマンの歌に興味津々の青年に、サチエは歌詞を教えようとするがどうしても思い出せない。そんな折り、町で偶然日本人のミドリを見かけたサチエは、歌詞を知っているかと尋ねる...

原作は群ようこさん、舞台はフィンランド、そしてキャストに小林聡美、片桐はいり、もたいまさこのゴールデントリオを迎えた本作品。すでにご覧になった方も多いのでは?監督は荻上直子さんで、まだ30代の若き女性監督です。監督本人は女性であることを特に意識していないといいますが、作品全体に流れる空気には、核を固めたのが女性たちだったからこそ成立し得た微妙なバランスを感じずにはいられません。

さて、前置きが長くなりましたが、このかもめ食堂には、デトックスアイテムがそこかしこにちりばめられています。

たとえば...

◇フィンランドという国
普段、なかなか接点のないフィンランド。イメージするものといえば、ムーミン、キシリトール、北欧家具?何だか清らかな気持ちになってきますね。スクリーンに映し出されるのは、湿気のなさそうな、清清しい町並み。淡いターコイズブルーと白い木肌で統一された食堂の中。ゆったりと流れる時間。そして監督いわく、"肩の力を抜いて自然なんだけど、でも潔くシャンと背中を伸ばして生活をしている"フィンランド人。この国の空気は、マイナスイオンのようにひっそりと、作品の根底に流れています。

◇おいしそうな料理たち
食堂というだけあって、作品中には料理がたくさん登場します。サチエが日本のソウルフードと謳う"おにぎり"。香りまで漂ってきそうなシナモンロールとコーヒー。美しく盛られた肉じゃがに、ジュ~っと揚げられサクサクと切り分けられるとんかつ。網の上でじっくりパチパチとグリルされる鮭。美しい見た目はもちろん、最低限のBGMのおかげで、耳までおいしくいただけちゃいます。おにぎりをにぎるあの音を聞くと、何だか優しい気持ちになれます。

◇小林聡美という人
主人公のサチエを演じる小林さんが本当に素敵。何気ない仕草や立ち居振る舞いのひとつひとつが丹念で凛としてて、美しい。彼女はきっと私生活も大切に生きているんだろうなと思わずにはいられません。トンカツに包丁を入れたり、鮭を返したりするだけで見とれます。何より目を奪われたのは、サチエが就寝前の日課としている"膝行"のシーン。これは膝で歩く合気道の鍛錬法なのですが、この時の小林さんの体の動きが実に美しいのです。彼女が話すフィンランド語もとてもきれい。(フィンランド語はわかりませんが、多分)。そして、映画の中でも褒められる"いらっしゃい"のかけ声。作品中で言及されるということは、あらかじめ、すごくいい、と褒められるレベルが求められているわけです。このハードルを見事に飛び越え、期待高まる視聴者に、確かにいいなと納得させる彼女は、やっぱりスゴい。きっと血液もサラサラに違いない。

ちなみに、この映画、舞台がフィンランドだけにフィンランド語には
日本語字幕がついています。

コーヒーは自分でいれるより
人にいれてもらうほうがうまいんだ

じーーん...。

でも哀しいかな、次の瞬間、猛烈に字数を数えてしまう。
"1行16文字もあるよー、いいなあ"なんて思ったりして...。

何はともあれ、見終わった時、体の毒素が抜けてることは間違いナシ。
クールで、ベタベタしてなくて、だけど優しくて暖かいこの映画。
たまったときは借りに走って、お家で簡単デトックス!

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『かもめ食堂』
出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ
監督:荻上直子
製作年:2006年
製作国:日本・フィンランド
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