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vol.50 『プロジェクトA』 by 石井清猛


1月のテーマ:はじめての○○

恐らく皆さんも経験があるのではないかと思うのですが、アメリカのアクション映画を見ていると、たまにふと"香港映画的瞬間"に出会うことがあります。
余りにもスタンダード化が進んだため、最近はそれが"香港映画的"であることさえ思い出すのが難しくなってしまっているかもしれない、そんな"瞬間"です。

それらは時に格闘シーンに導入されるカンフーの要素であったり、銃撃戦のカット処理であったり、ワイヤーアクションの活用であったりするのですが、どの瞬間にも共通しているのは、運良く「これって香港映画っぽいかも」と気づいた時に体中に広がるあの不思議な高揚感でしょう。

そして私たちの"香港映画的瞬間"の記憶において、ひときわ輝いている存在が、今回紹介する『プロジェクトA』の監督・脚本・主演であるジャッキー・チェンです。

ある世代の映画ファンに特別な感慨を抱かせつつ昨年11月に休刊となった「ロードショー」誌の「好きな俳優ランキング」男優部門で1980年代に6年連続で第1位に選ばれ、読者に圧倒的な支持を得ていたこの香港出身の俳優/監督は、言葉の真の意味で、映画が生んだ偉大なアクションスターと言えます。

1984年に公開された『プロジェクトA』はジャッキー・チェンの監督・主演第4作として製作されました。
ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポーの3人が主演スターとして初めて共演した作品であり、何を隠そう、当時中学生だった私が、学区内で初めて開店したビデオレンタル店で、初めて借りた作品です(確か1泊2日で700円。1週間レンタルというシステムは存在していなかった)。

多くのファンが躊躇なく彼のベスト1に推すこの作品が、そのオリジナリティとクオリティにおいて"ジャッキー・アクション"の集大成的な傑作であることは間違いないのですが、『プロジェクトA』は同時に、ジャッキー・チェンのフィルモグラフィの中でも突出したある特徴を持っています。つまり全編にちりばめられた直接、間接の映画的引用です。

有名な時計塔からの落下シーンには『ロイドの要心無用』でハロルド・ロイドがぶら下がったデパートの大時計が、海上警察と陸上警察が酒場で繰り広げる大喧嘩には『東京流れ者』で渡哲也が巻き込まれるストリップクラブでの乱闘シーンが、それぞれ直接的に引用されています。
また警察と海賊の両方から追われる身のジャッキー・チェンが、『北北西に進路を取れ』のケーリー・グラントばりに三すくみの状況を切り抜けたと思うと、上司の娘の手を引きつつキートンのように斜面をすべり降り、自転車と一緒にテラスから落下しそうになりながらもチャップリンのようにギリギリのところで持ちこたえる...。

アジア諸国やカンフー映画マニアの間ですでに絶大な人気を誇っていたジャッキー・チェンは、1987年にニューヨーク映画祭で『ポリス・ストーリー/香港国際警察』が特別上映されて以降、アメリカの映画関係者のあいだで評価を高めていきます。
この特別上映のきっかけを作ったのが他ならぬバート・レイノルズとクリント・イーストウッドだったのですが、彼らが初めて見て衝撃を受けたというジャッキー・チェンの作品は、映画祭で上映された『ポリス・ストーリー』と、『プロジェクトA』だったのです。

ブルース・ウィリスが命綱の消防用ホースを腰に巻き、ロサンゼルスの超高層ビルの屋上から飛び降りた『ダイハード』。
またマット・デイモンが白壁の建物がひしめき合うタンジールの街で屋根から屋根へ、そしてベランダへと飛び移った『ボーン・アルティメイタム』。
あるいはダニエル・クレイグがシエナの改装中の礼拝堂で敵ともみ合い、作業用の足場からロープで宙吊りになった『007/慰めの報酬』。

こうした作品の中で、私は幾度も"ジャッキー・チェン的瞬間"と出会い、高揚感に包まれます。
そしてその瞬間の記憶をたどる時、そこにはいつも『プロジェクトA』という作品があるのです。

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●『プロジェクトA』
出演:ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポー 他
監督・脚本:ジャッキー・チェン
製作:レナード・ホー
製作年:1984年
製作国:香港
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