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vol.45 『ダークナイト』  by 桜井徹二


11月のテーマ:変身

『バットマン』の映画版というと、いまだにジャック・ニコルソンがジョーカー役を演じた旧シリーズ第1作のイメージが強く残っています。でも調べてみると、第1作公開は1989年。驚いたことにもう20年近くも前なんですね。

当時は実質上、初のバットマン映画化ということで日本でも大きな話題になりました。Tシャツや帽子など、あちこちであの「バットシグナル」のマークを目にしたものです。

そして今年公開された新シリーズ第2作『ダークナイト』。すでに見た方には言うまでもないかもしれませんが、「バットマンシリーズ」の枠で語るのを躊躇してしまうほどの素晴らしい作品に仕上がっています。

もちろん、よりアニメ的な旧シリーズ(第1作~『バットマン&ロビン』)のほうが好きという方もいるでしょう。『ダークナイト』は、いわばバットマンの枠組みを利用した骨太の人間ドラマ。ヒーローもの、アメコミものとして楽しむには、あまりにも暗くて、あまりにも救いがなさすぎるかもしれません。

思えば、一連の旧シリーズが作られた90年代、アメリカはバブル景気の真っ只中でした。バットスーツに身を包んだ大金持ちが、ド派手なガジェットを駆使して極彩色の悪を退治する。そのさまは、当時の雰囲気にぴったりと合っていました。

一方で『ダークナイト』が作られた現在のアメリカは、ほとんど真逆の状況です。アメリカは2つの戦争を戦い、世界からも冷ややかな目で見られ、その状況を好転させてくれるヒーローを必死で探し求めています。その重苦しく、切迫した時代の空気が『ダークナイト』を作り出した――というのはあるいは言いすぎでしょうか。

時代とともにその姿を大きく変えてきたバットマンシリーズ。変革の担い手と期待されるオバマ次期大統領の時代には、どんなバットマンが見られるか、楽しみですね。

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『ダークナイト』
出演:クリスチャン・ベイル、ヒース・レジャー 他
監督:クリストファー・ノーラン
製作年:2008年
製作国:アメリカ
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