今週の1本

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vol.41 『俺たちに明日はない』 by 藤田庸司


9月のテーマ:○○フェチ

今年も夏が終わってしまった。無類の暑がりでありながら、四季の中では夏が最も好きな僕は、毎年この時期、えも言えぬ寂しさにおそわれる。夏が好きな理由に、その"儚さ"がある。夏には儚いものが多い。一瞬パッと光って散り行く線香花火、浜辺に押し寄せては消える白波、セミの抜け殻。一旦涼しくなると妙に懐かしく思える忌々しい猛暑も、ある意味儚い。

前置きが長くなったが、今月のテーマは"フェチ"。「フェチ=好み」と広い意味で捉えていいなら、僕は"儚いものフェチ"だ。映画においても例外ではなく、儚さや哀愁のある作品に心引かれる。今日紹介する"1本"は、銀行強盗であり、恋人でもあるボニーとクライドの儚い逃避行を描いた名作『俺たちに明日はない』だ。

舞台は1930年代、不況時代のアメリカ。物語は、自動車泥棒のクライド(ウォーレン・ベイティ)が、気の強いウェイトレス、ボニー(フェイ・ダナウェイ)の家の車を盗もうとするところから始まる。意気投合した二人はコンビを組み、各地の銀行を襲うカリスマ強盗ボニー&クライドとして名を馳せていく。悪名が知れ渡るほど警察の追っては迫り、やがて逃げ場を失った彼らは...。

誰が何と言おうと、銀行強盗を正当化する理由などない。強盗などこの世には必要ない悪党である。だが、運命の波にもがき苦しみながらも、お互いの手を取り合い、太く短く生きようとするボニー&クライドの姿は儚くも美しく、なぜか心引きつけられる。また、翻訳者は邦題に注目してほしい。デカダンの中にもどことなく希望と自由を感じる『俺たちに明日はない』(原題「BONNIE AND CLYDE」)。意訳?創作?などはさて置き、作品の世界観をこれほど適確に表した邦題は稀である。そのセンスに脱帽!

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『俺たちに明日はない』
監督:アーサー・ペン
出演:ウォーレン・ベイティ、フェイ・ダナウェイ
製作年:1967年
製作国:アメリカ
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