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Vol.18 『フェリスはある朝突然に』 by 石井 清猛


10月のテーマ:何かを始めたきっかけ

80年代アメリカの"ティーンムービー"に多少でも思い入れのある皆さんなら、『デス・プルーフ』でロザリオ・ドーソンがジョン・ヒューズの名を口にした時も、きっと「どこかで聞いたんだけど...」と映画中ずっと頭の片隅で気にし続けるなんてことはなかったはずです。ましてや「確か『マルタの鷹』作った人だよね」とジョン・ヒューストンと間違えて即座に納得するなんてこともなかったはず。

ここで言う"ティーンムービー"とは、80年代アメリカで多く製作された青春映画の一種で、ハイスクールを舞台に白人中産階級の若者の恋や友情を描いた映画を指します。
そして、ジョン・ヒューズとは、アメリカで"ティーンムービーのゴッドファーザー"と呼ばれる(?)監督・脚本家・製作者のことです。

さて、そんな彼の名が皆さんに想起させるのはひょっとすると『ブレックファスト・クラブ』のアンソニー・マイケル・ホールの不安げな視線でしょうか?
『プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角』のモリー・リングウォルドのふくれっ面?それとも『恋しくて』のメアリー・スチュアート・マスターソンの涙でしょうか?

それら全部に触れたい気持ちをグッと抑えて、今回は彼のもうひとつの傑作、『フェリスはある朝突然に』をご紹介します。

主人公はシカゴの郊外に住む高校生フェリス・ビューラー。学校一の人気者でサボりの常習犯のフェリスは、ある晴れた秋の朝に、その年9回目となるずる休みを敢行することに決める。果たして、その日はフェリスにとって人生最良の日となるのか、それとも...?

マシュー・ブロデリック演じるフェリスは、ジョン・ヒューズが他の作品で好んで描いている"苦悩する若者"とは異なり、世知に長けて強引で不遜で、かつ憎めないキャラクターとして登場します。
映画はそんなフェリスがシカゴの街で伸びやかに過ごす"休日"の描写に、彼を妬む人々が巻き起こす騒動を絡めながらコメディタッチで進行していきます。
"妬み組"の筆頭である校長先生役のジェフリー・ジョーンズの怪演ぶりは必見!

見所はたくさんありますが、シカゴでロケ撮影を行ったというジャーマン・アメリカン・シュトューベン・パレードのシーンには圧倒的な高揚感があります。
また、それとは対照的に、シアーズ・タワーの展望階で窓に額をくっつけて下を見下ろすフェリスたちを後ろからとらえた静かなショットは、この映画でも特に感動的な瞬間です。

そして何よりも、『フェリスはある朝突然に』という邦題のすばらしさ。何か楽しそうなことが起こる予感に満ちていて、まさにこの映画のテーマを体現していると思います。

さて、私にとってこの映画が何のきっかけになったのか?映画を見た皆さんなら、きっと分かっていただけるでしょう。
当時、高層ビルなんて1つもない広島で、冴えない高校生1年生だった私は、翌週、学校をサボって別の映画を見にいったのでした...。

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『フェリスはある朝突然に』
出演: マシュー・ブロデリック、アラン・ラック、ミア・サーラ 他
監督、脚本: ジョン・ヒューズ
製作年: 1996年
製作国: アメリカ
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