気ままに映画評

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『ブーリン家の姉妹』 by 鈴木純一(2005年4月期実践クラス修了生)

何が姉妹に起こったか


『ブーリン家の姉妹』の原題は"The Other Boleyn Girl"。これは作中でナタリー・ポートマン演じるアン・ブーリンが、"ブーリン家の姉妹のひとり"という意味で言うセリフである、「私は、もうひとりのブーリン家の女」から来ている。

16世紀のイングランド。ヘンリー8世と王妃には世継ぎの男児がいなかった。貴族のブーリン家は娘のアンをヘンリー8世の愛人に差し出そうとする。もしアンがヘンリーの男児を産めば、宮廷で権力を得られるからだ。しかし、ヘンリーが選んだのはアンの妹のメアリーだった...。

この作品の面白さは姉妹を演じた女優のキャスティングにある。ヘンリーを純粋に愛そうとするメアリーにスカーレット・ヨハンソン。王妃という地位を得るために手段を選ばないアンにナタリー・ポートマン。普通なら2人のキャスティングは反対になるはずだが、あえて逆の役に配置することで観る側に新鮮な印象を与える。
ここでは、スカーレット・ヨハンソンは姉思いの優しいメアリーを、ナタリー・ポートマンは自由奔放で勝気なアンを見事に演じている。
さらに興味深いのは、アンとメアリーを善と悪とに単純には分けずに描いた点だ。姉妹は光と影のように一対の存在で、姉妹のどちらかに光が当たると"もうひとりのブーリン家の女"が影のように現れる。2人は時にはお互いを嫉妬して憎み合うが、ある時には助け合おうと必死になる。
結婚と世継ぎを産むことが権力を得るための手段だった時代。逆らうことのできない運命に翻弄される姉妹の物語は最後まで緊張感にあふれていて、見る者は息を呑むほかない。

蛇足だが、アンの娘エリザベスは後のエリザベス1世である。エリザベス1世について描かれた映画では、1998年に作られた『エリザベス』が有名である。
『ブーリン家の姉妹』を『エリザベス』を観ると、2本の作品の世界をより深く味わうことができるのではないだろうか。