気ままに映画評

« 『ブーリン家の姉妹』 by 松崎裕美子(2004年10月期実践コース修了) | 気ままに映画評 トップへ | 『ブーリン家の姉妹』 by 西田洋平(2008年4月期実践コース修了生) »

『ブーリン家の姉妹』 by 新津香(2008年10月期基礎コースII 火曜日クラス)

運命と歴史が交差する時間


『ブーリン家の姉妹』は、16世紀イギリスの国家を背負っていた者たちの愛と策略をめぐる作品。そうくれば、どうしても気品漂うイギリス英語を期待してしまう。
アメリカ映画であり、キャストがハリウッドスターであることを考慮すれば、言葉にもイギリスらしさを醸し出そうとする努力は充分に感じられた。しかし、なかんずく作品に品格を加えていた存在はといえば、何といってもブーリン姉妹の母を演じるイギリス人女優のクリスティン・スコット・トーマスだ。

言われるがままに、ひたすら一家の名声を上げることに腐心して行動する不甲斐ない夫。その妻として娘たちの幸せを訴える毅然とした態度にイギリス英語の高貴さが響き、映画を引き締めていた。
一方、キャサリン王妃のスペイン語訛りで語気の強い英語は、英国人ではないことと、どんな状況でも王妃としての強さを貫く姿にぴたりとはまっていた。
このような原音のニュアンスを、英語にさほど興味をもたない人にも少しでも伝えられたらという思いが、今こうして学校に通う理由に繋がるのだろうとつくづく思う。
この作品では他にも女性の秘める強さが光っていた。
一族繁栄のための"道具"として扱われながら、自らの望みとは相反する運命に激しく翻弄される女性たち。その中でそれぞれが自分の道を切り開いていく強さが描かれている。
野望をつかむ才能に長けたアンが、国王を虜にしながらも人生の天と地の間を激しく揺れ動く様は凄まじいものがある。
姉との鮮やかな対照を生きる妹のメアリーは、王が待望する男児を生むも、姉に裏切られ、歴史に名を残すことはない。しかし最後は自分が望んだ通り、田舎で平凡な家庭を持つという幸せを掴み取るのだ。
そして、他でもない姉のアンが王との間に唯一もうけた女児は、後に女王として英国に長年君臨することになるエリザベスだ。

冒頭で子供たちが戯れていたシーンが最後に繰り返される。安堵感を与えてくれると同時に、アンの気質を引き継ぐエリザベスを中心にさらなるドラマが繰り返される予感を感じさせる。正に「事実は小説より奇なり」である。
映画として、また史実としても実に興味深い作品だった。