気ままに映画評

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ネット・ビジネスに翻弄される
人間の"心の闇"を描く『ソーシャル・ネットワーク』

                                                Text by 鈴木純一

ソーシャル表.jpgFacebookは全世界で5億人が登録している世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)である。Facebookの創設者であるマーク・ザッカーバーグの物語をデヴィッド・フィンチャーが監督すると聞いて違和感があった。フィンチャーといえば、絶望的なラストを迎える『セブン』、実在の連続殺人犯を追う『ゾディアック』など、独自の映像美とダークな世界観を持つ監督である。『ソーシャル・ネットワーク』を観る前は、正直に言って「SNSってよく分からないし、ネットビジネスで億万長者になった学生の話を映画化して面白いの?」と思い込んでいた。でも映画を観たら面白かったのである。フィンチャーごめんなさい。

ハーバード大学に通うマーク・ザッカーバーグは、大学の学生たちがお互いに情報交換できるサイト、Facebookを完成させる。やがて、 Facebookは大学という枠を超え、更には大陸を超えて、世界中に浸透していく。ところが、ある学生たちに「ザッカーバーグは俺たちのアイディアを盗んだ」と言われ、訴訟へと発展する。

メインの登場人物は3人。主人公であるザッカーバーグは「俺は特別な人間」だと他人を見下し、女友達から「最低(asshole)」と呼ばれている。そんな最低の男ザッカーバーグを、友情のためと資金面で支える真面目なエドゥアルド・サベリン。そしてもう1人、Facebookに目をつけたナップスター(音楽データの交換をするアプリケーション)の創設者ショーン・パーカー。このパーカーの存在が、ザッカーバーグとエドゥアルドに思わぬ影響を与えていく。

この映画を観ていて、フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』を思い出した。『ファイト・クラブ』は殴り合って痛みを感じることで、「自分は生きている」と実感できる男たちの物語。殴り合う仲間たちの"ファイト・クラブ"がアメリカ中に広がっていったように、インターネットを通じて仲間を増やす" ネット・クラブ"Facebookはハーバード大学の寮から、大学を超え、更には大陸を超えて、世界中に浸透していくのだ。

『ファイト・クラブ』との共通点で本作に"フィンチャーらしさ"を感じた自分だが、他にも"フィンチャーらしい"と感じる部分は随所に散りばめられている。まずは、独自の映像スタイルについてである。ザッカーバーグを訴える学生の中心にいるのがスポーツ万能、エリートで金持ちという双子の学生なのだが、実はこの双子は1人の俳優が演じている。双子の俳優を使って撮影したように見せかけて、CGで合成して双子にしているのだ。

こうした映像スタイルは、監督の過去の作品でも見られる。『ベンジャミン・バトン ~数奇な人生~』ではブラッド・ピットの顔を子供の体に合成したり、さらにブラッド・ピットを10代まで若返らせていた。また、『ゾディアック』でも70年代のサンフランシスコの街並みをCGで再現している。もともとジョージ・ルーカスの特撮工房ILMで働いていたフィンチャーは、特殊効果に並々ならぬこだわりを持っているのだろう。

次に注目したいのが音楽だ。この映画でアクセントを効かせている音楽を担当したのは、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーである。思えば、『セブン』の不気味なオープニング・タイトルで流れていたのもナイン・インチ・ネイルズの「Closer」だった。フィンチャーとレズナーのコラボレーションが再び実現した音楽にも注目(注聴)だ。また、ストーリーの中で、キーマン的な役割を担うパーカー役に、グラミー賞を受賞したミュージシャンのジャスティン・ティンバーレイクを振ったのも、音楽つながりで面白い。ティンバーレイクは軽薄だが話術が巧みなカリスマ性のあるパーカーを好演している。

最後に"フィンチャーらしさ"として特筆したいのが、"人間の心の闇"だ。『セブン』では殺人犯を捜そうと奔走する刑事たち、そして『ファイト・クラブ』は暴力に魅せられた男たち。両作とも登場人物が殺人と暴力という暗闇に引きずり込まれていく物語だった。『ソーシャル・ネットワーク』では、ネット時代のビジネスに翻弄される若者たちが名声に酔い、お互いを疑い、傷つけ合っていく様が鮮やかに描かれている。Facebookの栄光に魅せられ、闇に飲みこまれていく男たちがどのような結末を迎えるのか。ぜひ映画館で見届けてほしい。