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Vol.10 「アル・ゴアさんとシロクマ」 by 潮地 愛子


地球環境問題を取り上げた『不都合な真実』のことは、皆さんもご存知だろう。これに関連する映像素材の翻訳依頼を、翻訳センターの同僚が担当したときのことだ。

同僚は、電話でクライアントや翻訳者さんと話す時、常にアル・ゴア氏を、"さん"づけで呼ぶのだ。「アル・ゴアさんの件なんですけどね」とか、「アル・ゴアさんはですねえ」という具合に。

この表現、端で聞いていた私には、若干の違和感があった。「"ゴアさん"って、アンタの友達かよっ!」と。実際にそう突っ込みを入れたこともあった。

しかし、同僚が思わず"アル・ゴアさん"と呼びたくなる気持ち、実は分からないでもない。人は、有名人なら誰にでも"さん"づけをしたくなるわけではなく、何かがそうさせるのだ。

ゴア氏は、ゴアではなく、やっぱり"アル・ゴアさん"がピッタリだ。
理由は、彼が地球環境について真剣に訴えている"偉さ"故だと思う。何となくリスペクトせずにはいられない、みたいな。

しかし、恥ずかしながら私の地球環境問題に関する認識は、正直、曖昧だった。アル・ゴアさんについて詳しく知る前から雰囲気でリスペクトしてしまう感じ=(イコール)私の地球環境問題の認識。つまり、大事だとは分かっているが、一歩踏み込むことはなく、ふわっとして「何となく」なのだ。

異常気象が著しいと、「やっぱり温暖化って感じだよね」などと世間話程度に口に出してみるものの、どこか他人ごと。というか、テーマが重すぎて「見たくない、知りたくない」というのが本音だ。

そんな時、あるテレビ番組で、海を漂流するシロクマの姿を見た。温暖化で北極の氷が溶け出し、流されたシロクマたちは海を泳ぎ続けた末に、力尽きて死んでいるという。

(これは、まずいぞ)、と思った。

映像翻訳に携わるようになって、数え切れないほど、いろんなドキュメンタリー作品を扱ってきた。その中で一番衝撃を受けたのが、シロクマの生態についてのある作品だ。シロクマのメスは3年に一度しか発情しない。必然的に、オスが自分の遺伝子を残すのは容易ではない。まずはメスのところへたどり着くまでの、オス同士の激しい闘いを勝ち抜かねばならない。

うなり声をあげ、ガチンコで闘うシロクマのオスたち。900キロもの巨体がぶつかり合う映像を見たときは、正直ひいた。動物園でのんびり日なたぼっこしているシロクマの面影など、そこにはみじんもなかった。文字通り、必死なのである。

闘いに勝ったシロクマは、メスのもとへ向かう権利を得るわけだが、ここからが遠い。お目当てのメスは、70キロも先にいるのである。その道のりを走り、泳ぎ、傷つきながらもシロクマは進んでいく。やっとメスの元にたどり着いたときには、100キロ近くも体重が減っているという。

シロクマの世界は、ただでさえ過酷だ。それなのに、私たち人間のせいで、さらに苦しい状況に追い込まれているなんて。これは何とかしなくちゃならない。

シロクマはこう教えてくれている。
(自分に何ができるか考えてみよう。アル・ゴアさんの意見に耳を傾けてみよう)。

梅雨だというのに、ちっとも雨が降らない空を見上げながら、そんなことを考えた。