気ままに映画評

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2011年2月 アーカイブ

ブンブン行くぜ!なりきりヒーローが
悪を討つアクション・コメディ超大作『グリーン・ホーネット』

グリーンホーネット1.jpg

             Text by 鈴木純一

新聞社デイリー・センチネル創始者の息子であるブリット・リード(セス・ローゲン)は、父の急死により新聞社の2代目社長になる。父の死をきっかけに正義に目覚めたブリットは、父親の運転手だったカトー(ジェイ・チョウ)と共に"グリーン・ホーネット"として悪と戦う決意をするのだった...。

「最近、ヒーロー映画って多いよね」と思う人もいるだろうが、グリーン・ホーネットはちょっと違います。ブリットはパーティーと女の子が大好きで、上海が日本にある街だと思っているボンクラ男。このブリットを演じるセス・ローゲンは『スーパーバッド 童貞ウォーズ』や『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』などのコメディ映画に出演しており、何歳になってもモラトリアムな男を演じさせたら抜群に面白い俳優である。でも実際のセスは脚本も書く才人で、『グリーン・ホーネット』では脚本、製作総指揮も務めているのだ。プロデューサーとして、今までセス自身が演じてきたキャラを本作でも押し出した彼の目論見は成功したといえる。

ブリットが改造車ブラック・ビューティーを見て「すげーっ!」と興奮する姿は、精巧に作られたプラモデルを見て「すげーっ!」と喜ぶ中学生みたいだ。そしてヒーローとして初出動して街のチンピラを見つけるが、ブリットはカトーに「お前が先に行けよ」と煽るなど、全然ヒーローっぽくないのである。でもね、今まで遊びほうけていた男が急にヒーローになるというのは無理というもの。このダメでユルいけど、ヒーローになりきろうという気持ちだけは十分あるブリットに共感しました。

そして、注目はカトー役のジェイ・チョウ!ジェイは台湾出身のミュージシャンで、俳優としても活躍しているが、映画『言えない秘密』を監督するなど、セスと同じマルチな才能を持った人。『グリーン・ホーネット』ではピアノを弾くシーンもあるし、エンド・クレジットにはジェイが歌う「双截棍(ヌンチャク)」も流れます。
セスとジェイのズッコケ・ヒーローぶりは観ていて楽しく、かなり笑わせる。2人の相性はよく、『48時間』や『リーサル・ウェポン』のようなバディ・ムービー(登場人物がコンビを組む相棒映画)に仕上がった。

セスとジェイ以外でも、面白いキャスティングが揃っている。犯罪組織のリーダーであるチュドノフスキー(言いづらい名前)に扮するのは、『イングロリアス・バスターズ』でアカデミー助演男優賞を受賞したクリストフ・バルツ。本作でもバルツは饒舌な悪党を好演している。そしてキャメロン・ディアスはブリットとカトーに好かれる役で映画を盛り上げてくれます。他にも冒頭に登場するマフィアをノンクレジットで演じているのはジェームズ・フランコだ。彼はセスが主演した『スモーキング・ハイ』に出演していたので、その繋がりでセスに「出てくれない?」と頼まれたのではと思わず推測してしまう...(もちろん、勝手な推測だが)。また、ドラッグディーラー役にエドワード・ファーロングが扮している。『ターミネーター2』の時の姿とは別人のような汚れっぷりで、本物のドラッグディーラーかと思いました(←失礼)。

個人的にブリットとカトーのどちらが好きかといえば、ブリットでしょう。だって悪党と戦うのは大変だからカトーに任せて、カワイイ女の子(キャメロン・ディアス)と話してる方が楽しいし。あれ?でも、これってブリットのキャラそのままだ!この映画を観て、自分がダメ人間だと認識させられました(笑)。

ホーネットとカトーの活躍をユーモアとド派手なアクションを交えて描き、冒頭から最後まで観る者を飽きさせないアクション・コメディ『グリーン・ホーネット』。世界的なヒットで続編も作られると思うが、パート2もブンブン行ってください!

LAを悪党から守るのはスキだらけの"ゆるキャラ"ヒーロー!?
映画『グリーン・ホーネット』

                                                 Text by M.Saito

グリーンホーネット2.jpg去る1月20日、都内で3D映画『グリーン・ホーネット』のジャパン・プレミアが行われた。寒風吹きすさぶ会場に集ったのは約1200人もの熱心なファン。映画の題名にちなみ、レッド・カーペットならぬ "グリーン"カーペットを通って監督のミシェル・ゴンドリー、続いて主演のセス・ローゲンとジェイ・チョウが登場。ステージでは日本でのヒットを祈願し、グリーン色をした餅つきが行われる。更には3D上映にあやかって配られたおもちゃのグリーンのメガネを身に付けた一同の前には、映画で活躍する"ブラック・ビューティー"号が壁を突き破り、白煙をあげて登場。その他、ゲストに女優の篠原涼子や昨年末のM1グランプリで準優勝となったスリムクラブが登場するなど、華やかなイベントとなった。

映画の主人公は新聞社の二代目社長、ブリット。創業者の父がハチに刺され急逝したことをきっかけに、自らを"グリーン・ホーネット(緑のハチ)"と名乗り、これまでの放蕩生活を改めロサンゼルスから悪を一掃する活動に乗り出す。父の運転手だったアジア人で武芸の達人、カトーを相棒に愛車ブラック・ビューティーを駆り夜ごとロスの街で暗躍する。

テンポよく進むストーリーの中で際立っていたのはブリットとカトーが織りなす絶妙なコンビネーションだ。セス・ローゲン演じるブリットは根がピュアだが、ボンボン育ちのワガママで何かとツメが甘い。グリーン・ホーネットの活躍も実の所すべてカトーのおかげなのだが、自らの手柄にしようとする。自分では何もできないダメダメ男だが、どこか憎めない。一方、そんなブリットをスマートにフォローするカトーはクールな切れ者。強くて、頭が良くて、優しい......と三拍子揃えば、マドンナ役で登場するキャメロン・ディアスも思わずなびくが、ブリットはそれがまた気にいらないのだった。

TVシリーズではかの有名なブルース・リーが演じていたカトー役。台湾出身のミュージシャン/俳優のジェイ・チョウにとっては当たり役とも言えるだろう。劇中、天才発明家でもあるカトーが自作のマシンで手際良くいれるカプチーノが何度か登場するが、このカプチーノの美味しそうなことといったら!3D効果も手伝ってか、スクリーンから香りがこぼれてきそうなほどだった。

個人的に笑ったのは、ブリットとカトーの口論から始まる大喧嘩のシーン。カトーに嫉妬するブリットが、自分こそがヒーローだと主張するのだが、ここでのブリットのセリフにも彼のヘナチョコぶりが絶妙に表現されている。


「俺とお前はそもそも格が違う。ヒーローと運転手だ!」
「インディとショーティー("兄弟"の意)だ!」
「サイモン&ガーファンクルだ!」
「スクーピー&ドゥ」


恐らく、ブリットが言いたかったのは最初のセリフだけ。あとは言葉の響きだけでちっとも脈絡がない。「スクーピー&ドゥ」なんて、ナンセンスな所がバカバカしくて笑える。ブリットの子供っぽいキャラやゆるさが全面に出ている。結局、ブリットはストリートで鍛えた武道の達人カトーにさりげなく手加減されながらも一方的にボコボコに殴られることになる。でもカトーには1つだけ、ブリットには到底かなわない弱点もあったのだ・・・。

最後は、どたばたアクションの末に分解寸前のブラック・ビューティー号から"脱出シート"で飛び出した2人。この"脱出シート"は、実はブリットのアイディアをカトーがこっそり実現したもの。子供っぽい"ゆる"キャラヒーローでも、こんな風に密かに役に立っていたりするのだ。こんな2人の関係性があるからこそ、ロスの夜空をパラシュートで降りてくるブリットとカトーの後姿も、まるで幼い子供たちがブランコに乗っているかのように見えてしまうのである(笑)。

現在、公開中の3D映画『グリーン・ホーネット』。絶妙なコンビネーションの中に見える2人の友情に注目して観てほしい。

豪華キャストに釘付け ノスタルジー溢れる
アメコミ・ヒーローの痛快アクションコメディ『グリーン・ホーネット』

                                                 Text by 水野弘子グリーンホーネット1.jpg

60年代のTVドラマとアメリカン・コミックスの人気ヒーロー「グリーン・ホーネット」がスクリーンによみがえった。今回のリメイク版は、鬼才ミシェル・ゴンドリー監督の手で、アクションコメディに仕上がった。ブルース・リーの出世作だったドラマ版を懐かしむ往年のファンにとっても、懐かしい仕掛け満載の作品だ。

主人公の放蕩息子ブリット・リードは父の急死により、急遽、大新聞社のトップとなる。LA社会の腐敗を目の当たりにし、憤ったブリットは、お抱え運転手カトーとともに緑マスクで変装し、ハイテクマシン「ブラック・ビューティー」を駆って、麻薬組織を大掃除する。

魅力はずばり多彩なキャスト陣だ。麻薬組織の黒幕クリストフ・ヴァルツは「イングロリアス・バスターズ」でランダ大佐を演じた、あの怖いヒト。背筋も凍る演技で、あまたの賞を総なめしたヴァルツだが、本作の悪党ぶりはややキュートな味付け。スーツをけなされると逆上するところが可笑しい。
主演・脚本のセス・ローゲンは北米で人気のコメディアン。今回、セレブな御曹司役に臨むために厳しくダイエットしただけあって、「恋するポルノグラフィティ」で演じたおデブでエッチなコーヒー店員とは別人のよう。本作では過激な下ネタは封印したが、毒舌満載のツッコミは健在。日本での知名度は低いが、ぜひブレイクしてほしい俳優である。

また台湾ポップ界のプリンス、ジェイ・チョウの相棒ぶりも頼もしい。ブルース・リーの当たり役というプレッシャーを跳ねのけ、アクションからピアノ、エンドロールのラップまで多才にこなしてみせた。最近はシリアスな役どころが目立つキャメロン・ディアスも、本作では美人秘書役でコメディエンヌの本領を発揮している。

さらにチョイ役でカメオ出演している「スパイダーマン」のジェームズ・フランコが素晴らしい。短いシーンながら、新興ギャング役のチンピラぶりがハマっており、存在感を示した。フランコの新境地を充分に予感させるシーンだった。また、「ターミネーター2」の美少年エドワード・ファーロングが麻薬売人役で顔を出しているが、こちらは見紛うほどの老け込みようだ。思わず過酷なショウビズ界の時の流れを実感・・・。

また、オリジナル版のドラマを意識した趣向が随所に散りばめられ、こちらも大きな見せどころとなっている。ブリットが悪党退治に出る際に毎回つぶやく"Let's roll Kato"(カトー、出かけるぞ)は、オリジナル版ファンお待ちかねの決めゼリフ。ダークでシリアスだったドラマ版ヒーローの名文句を、セス・ローゲンはややパロディ風な味付けでカバーしている。また、カトーが発明した愛車「ブラック・ビューティー」の登場シーンが実にレトロでいい感じだ。ガレージ床がくるりと反転し、普通車と表裏に現れる「ブラック・ビューティー」。この四谷怪談の「戸板返し」みたいな仕掛けは、ドラマ版で大きな話題を呼んだもの。オールドファンの郷愁をくすぐる旺盛なサービス精神を評価したい。偉大なスターへのオマージュとして、ブルース・リーの素描がカトーのスケッチに混じっているシーンもお見逃しなく。

ちなみにクールなカスタムマシン「ブラック・ビューティー」は、全米から掻き集めたクライスラー・インペリアルの1964~1966年ビンテージモデルを地元ロスで改造したもの。カスタム装備に注目すれば、敵の体当たりを撃退する「ベン・ハー」ドリルや、走行中にドアを半開きするだけでぶっ放せる、ドア装備のマシンガンは、いかにも便利なアイテム。その他にもフロントグリルに仕込んだ火炎放射器やミサイル発射装置など、装甲マシン好きにはたまらないスペックがてんこ盛りだ。このカスタムカーをシーン別に29台用意したらしいが、撮影終了後に「生き残った」のは僅か3台。パトカーなどの車両にいたっては100台近くが廃車送りとなったという。こんなハチャメチャなカーチェイスを3Dで楽しめるのだから見逃す手は、ない。

「グリーン・ホーネット」は、多くの作り手の思いがこもった贅沢な娯楽作品だ。キャストの多彩な顔ぶれやマニアックな演出を、ぜひ劇場で堪能してほしい。