
登場作品:映画『ガス人間第一号』(1960年)
キャラクター設定:零落した日本舞踊の家元 “ガス人間”と運命を共にする
「幽玄」という言葉は、こんな光景のことを言うのだろう。『ガス人間第一号』の冒頭、銀行強盗犯を追った岡本警部補が、人里離れた夜の山中で鼓の音を耳にする。その音が聞こえてくる方向へ向かうと、やがて屋敷に辿り着いた。庭へと回り込む岡本。その目に飛び込んできたのは、戸が開け放たれた板の間で、般若の面を着けた女性が舞う姿だった。
舞っていたのは、昭和の名優、八千草薫さんが演じる春日藤千代。凜とした風情が美しい日本舞踊の家元だが、春日流は弟子がみな離れるなどして落ちぶれ、発表会を開くことすら危ぶまれる窮状にあった。逃走した強盗殺人犯、水野は、彼女のために金を工面しようと犯行に及んだのだ。彼はある科学者による実験の犠牲者で、結果的に、自分の意思で体をガス化できるようになっており、その特殊な能力を使って犯罪を重ねる。
先月初旬、Netflixで配信が開始された『ガス人間』(全8話)は、本作のリブート版で、設定やストーリーは別物だ。画面から漂う緊迫感はさすがだが、オリジナルが持つ趣や幻想性には乏しい。個人的な意見ではあるが、60年以上前に公開された『ガス人間第一号』は、こんにちに至るまで、特撮史上最もロマンティックかつ、悲劇的な物語だ。
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